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【健康】

酒害防止 行政一丸で アルコール対策で基本法案

基本法推進ネットの設立総会で、飲酒運転につながる問題、飲酒者への対策を訴える井上保孝さん・郁美さん夫妻=5月、東京・参院議員会館で

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 酒類による健康被害、家族や社会への影響などについて総合的な対策を目指す「アルコール健康障害対策基本法案」(仮称)の骨子がまとまり、来年の通常国会に提出される見通しだ。縦割り行政ではなく、国の基本計画に定め、横断的に対策を打ち出していこうという取り組みで、医療関係者や市民団体の期待は高い。 (編集委員・安藤明夫)

 「これまでの対策は、あまりにもばらばらでした」と話すのは、アルコール薬物問題全国市民協会(ASK)代表の今成知美さん。

 厚生労働省の中でも、一部の内臓疾患、がんなどのアルコール関連疾患は、健康局がん対策・健康増進課の担当だが、アルコール依存症は社会・援護局の精神・障害保健課が窓口。酒害と関係の深いドメスティックバイオレンス(DV、配偶者暴力)、児童虐待も、それぞれ担当部署が異なる。さらに、飲酒運転の対策は警察庁、刑務所内の教育は法務省…。「総合政策を立て、関係省庁が連携できれば状況は大きく変わる」と今成さんは期待する。

 法案づくりの動きは、二〇一〇年に世界保健機関(WHO)が「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」を採択したことをきっかけに始まった。関連する三つの学会と全日本断酒連盟、ASKなどが基本法推進ネットを立ち上げて、たたき台をまとめた。それをもとに、超党派のアルコール問題議員連盟の協力を得て、参院法制局で作業が進んできた。

 骨子案が議連総会で了承を得たのは、十一月十四日の午後。その一時間後に野田佳彦首相が衆院の解散を表明しており、“滑り込みセーフ”だった。今後、新体制での各政党の調整を経て、提出する方針だ。

     ◇

 五月の同ネット設立総会では、基本法の必要性を訴える声が相次いだ。

 国立病院機構久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)の樋口進院長は、▽日本人のアルコール消費量は、アジアの新興国よりはるかに多い▽女性の飲酒量が急増している▽多量飲酒者八百六十万人、うち依存症の疑いが四百四十万人、依存症者が八十万人−といった状況を説明。「日本では酒類の広告もメーカーの自主規制があるだけ。二十四時間いつでも酒類を買える。これほど規制のない国は珍しい」と、総合的な対策を求めた。

 三重県で内科・精神科の連携を進めてきた猪野亜朗医師(かすみがうらクリニック副院長)は「以前は、依存症の患者が一般病院から専門医療機関にたどり着くまで七・四年かかっていたが、今は二・八年に短縮できた。こうした連携医療を全国に広げるのは容易ではなく、基本法という力がほしい」と訴えた。

 一九九九年に東名高速道路で、飲酒運転のトラックに追突され、幼い娘二人を亡くした千葉市の井上保孝さん・郁美さん夫妻は「危険運転致死傷罪ができても、飲酒運転の根絶には程遠い。依存症に向かう問題飲酒者が野放しになっている。治療や予防につなげてほしい」と求めた。

 佐藤喜宣・杏林大教授(日本アルコール問題連絡協議会会長)は「DV、子ども虐待の背景に、アルコールの問題があるケースは、十五年前の統計では40%だったが、今は60%と欧米に近づいている」と警告。

 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の竹島正さんは「自殺者の九割に精神疾患があったことが分かっており、四割はうつ、二、三割がアルコールといわれる。うつとアルコールは合併することが多く、関連の問題をつないでいく基本法が大切」と話した。

 <基本法案の骨子> アルコール健康障害対策を総合的・計画的に推進することが目的。基本理念に▽健康障害の段階に応じた予防対策▽本人・家族の支援▽自殺、虐待、暴力、飲酒運転などの関連問題をなくすため、医療提供体制の整備や民間団体への支援、有機的な連携などを掲げている。国と地方公共団体、事業者、医療関係者らの責務も定めた。

 国・都道府県が基本計画を策定して対策を進めること、厚労省、文部科学省、財務省、法務省、警察庁による対策推進会議をつくることなどを記している。

 

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