記者の目:安倍新首相に望むこと=坂口裕彦(政治部)

毎日新聞 2012年12月19日 00時17分

 だからこそ、安倍氏の責任は重大だ。06〜07年の首相在任中、「美しい国」「戦後レジームからの脱却」と大上段に構え、国民投票法や教育基本法改正を実現した一方で、党や内閣の要職への側近の重用は「お友達人事」と批判され、指導力不足も露呈した。07年参院選で大敗し、健康問題もあって間もなく政権を投げ出した残像はなお消えない。しかも、国会は衆参両院で与野党勢力が逆転した「ねじれ」状態になり、安倍氏以後の自民党の首相は政権運営に行き詰まってほぼ1年ごとに交代した。

 安倍氏は当時を「肩に力が入っていた」と振り返る。5年間の雌伏の日々を経てどこが変わったのか、注視しているのは私だけではないだろう。

 衆院選中に毎日新聞が実施した特別世論調査で「最も重視する争点」を尋ねたところ、「景気対策」が32%でトップだった。「憲法改正」はわずか2%。安倍氏が来夏の参院選までは改憲の悲願を封印し、経済対策に重点的に取り組もうとしているのは理にかなっている。自民党自身が07年参院選の敗因を「政策の優先順位が民意とずれていなかったか」と総括したことを忘れてはならない。

 ◇中小政党の主張にも耳を傾けよ

 安倍氏は連立相手の公明党と合わせても過半数に届かない参院対策として、他党と政策ごとの「部分連合」を探る考えだ。その際には、単なる数合わせでなく、中小政党の主張にぜひ幅広く耳を傾けてほしい。自民党には到底及ばないにせよ、各党にはそれぞれの支持者がいる。政党間の対話は、国民各層との対話だ。少子高齢化が進み、財政も火の車の日本では、どの党が政権を担おうとも、将来の負担増を国民に丁寧に説明する必要がある。だからこそ、安倍氏には奥行きあるリーダーに変身してほしい。

 16日夜、安倍氏は党本部でカメラマンから「歯を見せて笑って」と要望されても表情を崩さなかった。「自民党への厳しい目は続いている」。安倍氏のみならず、自民党幹部が口をそろえる自省のフレーズが、本心からのものであることを願ってやまない。

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