記者の目:安倍新首相に望むこと=坂口裕彦(政治部)
毎日新聞 2012年12月19日 00時17分
自民党が衆院選で294という圧倒的な議席を得て、3年3カ月ぶりに政権の座に返り咲く。09年衆院選のマニフェスト(政権公約)に盛り込んだ政策の多くを実現できなかった民主党政権の壊滅的敗北は必然だとしても、自民党も手放しでは喜べないだろう。首相に再登板する安倍晋三総裁は、06年の首相就任時に提唱した「再チャレンジ」を地で行く格好になったが、当時の失敗を糧に、ぜひ「謙虚な政治」に努めてほしい。
国政の担い手を決める重要な審判の日なのに、どうしてごくりと生唾をのみ込むような緊張感がわかないのだろう。16日夜、党関係者や記者でごった返す自民党本部で開票状況を取材しながら、そんな思いにとらわれた。
自民党296議席の05年選挙、民主党308議席の09年選挙に続いて、民意はまた大きく振れた。自民、公明両党で計325議席。参院で否決された法案を衆院の3分の2以上の賛成で再可決できる320議席を超えた。しかし、私が取材した限り、有権者の反応は過去2回とは決定的に違った。
05年、私は兵庫県尼崎市にある阪神支局に勤務していた。遊説に訪れた小泉純一郎首相(当時)が「郵政民営化の是非を問う選挙だ」と絶叫するや鈴なりの聴衆は喝采を送り「純ちゃーん」の声援が飛んだ。首相官邸を担当していた09年は、民主党候補が街頭で配る簡易版マニフェストがみるみるはけていくことに「政権交代近し」を実感した。
◇過去2回の選挙時の「熱狂」なく
今回衆院選序盤の6日、安倍氏の関西地方遊説に同行した。声をからし、経済政策や教育再生を訴える姿勢に決意のほどは見えたものの、聴衆にこれまで2回の選挙のような「熱狂」はなかった。印象に残ったのは、拍手をした後、なんとなく周囲の様子をうかがうような人が多かったことだ。報道各社の情勢調査は序盤から自民党の優位を繰り返し伝えたが「こんなにいいはずがない」という同党幹部の受け止めには、私もまったく同感だった。
民主党はだめだが、「第三極」政党にも託せない。今回は消去法で自民党−−。有権者にそんな心理が働いた結果だとしたら、次にまた自民党がつまずいた場合、民意はどこに向かうのだろう。今回記録した戦後最低の投票率(59.32%)は、政治不信が燃え上がる火種のような気がしてならない。