私はこう見る:この国の行方 高村薫さん 自民大勝、これが民意か

毎日新聞 2012年12月18日 大阪夕刊

衆院選の結果を危惧する作家の高村薫さん
衆院選の結果を危惧する作家の高村薫さん

 ◇小選挙区制、見直す時

 民主党の大敗と戦後最低の投票率に終わった衆院選。この選挙が持つ意味や日本の今後のあり方を有識者に聞いた。

 自民の圧勝、民主の惨敗、そして第三極の勝ったのか負けたのかよく分からない中途半端な結果。こういう姿になることを、どれほどの有権者が望んだろう。民主は確かに心許(こころもと)ないが、ここまで惨敗させることを望んだ有権者はいないと思う。

 今夏の討論型世論調査で、2030年代の原発ゼロを望む民意が半数近くあった。選挙中に関心が高かったのは景気雇用や社会保障などで、憲法改正や集団的自衛権の行使を重要なテーマと考えた有権者はほとんどいなかったはずだ。なのにそれを掲げ、原発推進の自民が300近い議席を得た。これは民意が反映されていない結果としか言いようがない。原因は小選挙区制にあり、この制度こそ私たちがいま真剣に見直さなければならない最大のテーマではないかと考えている。

 自民が支持されたというより、有権者は民主ではないどこか、という気分だったと思う。それが第三極かというと、私たちの現状では、いきなり政権運営を任せるような危ない橋を渡る余裕がない。自民しか選択肢がない、ということだったと思う。しかし3年前有権者に拒否された自民が、何を教訓にし、どう改革したか見えない。昔以上に公共事業依存で、日銀法改正や憲法改正など以前はさすがに言わなかったことを主張している。党内のタカとハトで何となくバランスを取っていたが、今はタカしか生き残っていない。

 有権者が私憤を離れ、日本のためにどうあるべきか考える余裕を失っている。そういう中で破壊願望が出てくるから極右が伸びる。巨大地震か戦争のような、ものすごく大きな痛みが降ってくるまでこの混迷は続くだろう。東日本大震災を経験したら原発OKなんて言えるはずがない。もう一度そうならないと気付かない。尖閣問題で引くに引けなくなって中国と武力衝突を起こす可能性もある。勇ましいスローガンだけでは外交はできない。

 自分が生きている間にこういう時代が来るとは思わなかった。お任せや気分で何とかなる時代は過ぎた。有権者がきちんと政治と向き合うことを学ぶときだ。【聞き手・重石岳史、写真・金澤稔】

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 ■人物略歴

 ◇たかむら・かおる

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