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【社説】

国民をよく畏れよ 自民圧勝、政権交代へ

 自民党が圧勝した衆院選。民主党政権への厳しい審判だ。今回の政権交代は三年前と比べて高揚感はないが、国民の選択を政治の前進につなげたい。

 三年前、民主党への歴史的な政権交代を成し遂げた民意は今回、野田佳彦首相に退場を迫った。

 衆院選マニフェストに反する消費税増税の決定を強行し、国民を裏切ったからには当然だ。「政治家主導の政治」「緊密で対等な日米同盟関係」など国民との約束も果たせずに終わった。

 かといって、民意はかつてのような自民党政治への回帰を積極的に支持したわけでもなかろう。

民主への懲罰投票

 今回、再び政権交代に至った要因に挙げられるのはまず、公約を破り、誠実さを欠く政権運営を続けた民主党には投票しない「懲罰的投票」が多かったことだ。

 同時に、民主党分裂や日本維新の会など第三極の候補者擁立で、この懲罰的投票としての民主党批判票が分散し、結果として自民党が「漁夫の利」を得た。

 共産党が小選挙区で候補者を絞り込み、反自民票の多くが民主党に流れた前回衆院選とは逆のことが起こったのだ。

 しかし、政権交代という政治の節目を迎えたにもかかわらず、三年前のような高揚感に乏しい。自民党が野党の三年間で自己変革を成し遂げ、磨き上げた政策への圧倒的な支持で政権復帰を果たしたわけではないからだ。

 そのことは、政党支持の指標となる比例代表の獲得議席数を見れば明らかである。

 例えば、自民党が圧勝した二〇〇五年衆院選の比例獲得議席は七十七、〇九年の民主党は八十七だったが、今回、自民党の比例獲得議席はそれらに遠く及ばず、五十台にとどまった。

 自民党はまず、この厳しい現実を直視すべきである。

脱原発は引き継げ

 それでも勝利は勝利だ。

 自民党内では投票日前から、安倍晋三「首相」の年明け訪米に向けた調整や、安倍「内閣」の閣僚就任を目指した猟官運動も始まっていた、という。

 円滑な政権移行には事前準備が必要だとしても、それ以前に考えておくべきことがある。政権をどう運営し、政策を実現するかだ。

 安倍氏は十六日、自公連立の上で「理念・政策が一致する党に協力をお願いする」と、政策課題ごとに野党と協力する「部分連合」で対応する考えを表明した。

 自公両党が衆院で三分の二以上の議席を得ても、参院では過半数に届かない「ねじれ国会」であることを考えれば妥当だろう。

 国民が政治に期待するのは、生活がよりよくなるような政策を一つでも多く実現することである。

 これまでのねじれ国会では予算関連法案を人質にしたり、野党多数の参院で首相や閣僚の問責決議を乱発して政権を追い込んだりする手法が横行した。

 民自両党がともに与野党双方の立場を経験して迎えた今回の政権交代を機に、悪弊を断ちきることができれば、日本の民主政治にとって一歩前進だろう。

 安倍自民党は勝利におごらず、野党の主張に耳を傾けて丁寧な国会運営に努め、地に足のついた政権運営を心掛ける必要がある。

 集団的自衛権の行使容認など、党の主張は一時棚上げすべきではないか。政治を機能させるための忍耐は、恥ずべきことではない。

 野党側も不毛な政権攻撃を繰り返すだけでなく、建設的な提案と合意形成に努めるべきである。

 民主党は敗北したが、次期政権が引き継ぐべきものがある。それは原発ゼロを目指す方針だ。

 「脱原発」勢力は半数に達しなかったが、自民党も原発稼働継続を堂々と掲げて勝利したわけではない。党内にも原発ゼロを目指すべきだとの意見もある。

 そもそも、時期はともかく原発稼働ゼロは各種世論調査で常に半数前後を占める「国民の声」だ。

 野田内閣は「三〇年代の原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」との戦略を踏まえ、エネルギー・環境政策を進めることを閣議決定した。

 原発ゼロを実現するには十分ではないが、閣議決定であり、特段の状況変化がない限り、後継内閣が方針を引き継ぐのは当然だ。

課題処理こそ試練

 巨額の財政赤字や、ずさんな原子力行政など「自民党は今の日本の課題を作り上げた張本人」(同党の小泉進次郎氏)でもある。

 民主党の稚拙な政権運営に落胆した国民は、自民党がこれらの課題処理に政権担当能力をどう発揮するかにこそ注視している。

 今回の政権交代は、政治は国民の手にあることを再び証明した。このことを自民党はもちろん、すべての議員が畏れるべきである。

 

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