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「ビッグデータ」で混迷の衆院選を読む
12月18日 10時55分

「ビッグデータ」で混迷の衆院選を読む

今の選挙制度では最多の1500人余りが立候補し、新たな政党も加わって各地で混戦となった今回の衆議院選挙。インターネットでは、大量のブログの記事やツイッターの書き込みなどから複雑な選挙情勢を読み解こうとする本格的な分析が行われました。

選挙ビッグデータに注目

テレビなどの開票速報で注目されるのが、各候補の当選が確実になったことを伝える「当確」の速報です。
NHKでも情勢分析担当者が、各候補の政策や支持基盤、過去の選挙の得票数、世論調査や出口調査など、膨大なデータの分析に当たります。
今回インターネットではそうしたデータとは別に、ネット上の選挙に関するビッグデータを対象にした本格的な分析が行われました。
分析の対象はインターネットの日本語ブログの記事と、すべてのツイッターの書き込みです。

調査に当たったコンサルティング会社のルグラン社では、まずネット利用者の関心を調べるために、衆院選公示日の12月4日から投開票日前日の12月15日までに、選挙に関する話題が書かれたブログの記事とツイッターの書き込みを抽出して内容を分析しました。
抽出した選挙関連のブログ記事は19万7000件余り、ツイッターは21万件余りでした。
(記事中の分析の元になるデータは、ホットリンク社提供)

このうち記事や書き込みの内容から「投票に行くこと」が伺えた割合はブログが64%、ツイッターは65%でほぼ同じ割合でした。
これを前回、2009年の衆院選のデータと比較することで全体の投票率を推定できないか。
ツイッターは3年前と普及率が大きく異なることを考慮して、ブログの記事について当時と比較すると、2009年の衆院選では「投票に行く」というブログ記事の割合は71%でした。
今回と比較すると7ポイントの差があり、ネットの利用率が高いとみられる20代から40代を中心に、投票率が前回より大幅に下がることが予想されました。
実際の選挙取材にあたっての情勢分析では、小選挙区や選挙ブロックごとに投票率を予測していきますが、おしなべて投票率は前回よりかなり下がることが予想されていました。
選挙の結果、全体の投票率は約10ポイント低下し、戦後最低の59.32%となりました。

ネットの関心は「エネルギー問題」

一方、ネットでは選挙に関してどのようなテーマに関心が集まっているのか。
選挙関連のブログ記事を内容別に分類したところ、以下の結果となりました。
▽エネルギー(脱原発、再生可能エネルギー政策など)31.4%。
▽安全保障(国防軍や憲法改正など)25.9%。
▽消費税16.3%。
▽景気対策(インフレ対策、日銀法改正など)15.9%。
▽TPP10.5%。

一方、ツイッターの書き込みの分析では、
▽エネルギー49.4%。
▽安全保障21.1%。
▽消費税12.7%。
▽TPP11.4%。
▽景気対策5.4%。
ネットでは脱原発などのエネルギー問題に関心が高かったことが伺えます。

ビッグデータで“当確”を?

こうした広い傾向を推し量るだけでなく、特定の小選挙区の情勢分析にも、ビッグデータは活用できるのでしょうか。
例えば今回の衆院選で全国屈指の激戦区となった東京18区。
候補者について書かれたブログを分析したところ、民主党の現職で前の総理大臣の菅直人氏についての書き込みが圧倒的に多く、次いで自民党の元職でライバルの土屋正忠氏の名前が多くあがっていました。
ブログやツイッターは小選挙区ごとの狭い地域に絞って内容を調べることは難しく、全国的に知名度が高い菅氏の書き込みが多いのは当然とも考えられます。
一方で菅氏が選挙期間中、人通りの少ない街頭で演説する画像がネットで話題になったり、投票日の3日前に選挙カーが事故を起こしてけがをしたことなどについて、興味本位で書かれた記事も多くありました。
書き込みの内容を詳しく分析し、そうした「ネガティブ要素」を排除したうえで土屋氏に関する書き込みの件数と比べたところ、最終的な書き込みの累計数で土屋氏は菅氏の54%となりました。
全国的な知名度では差があると思われるにも関わらず、ネットの書き込み数の差はそれほど広がっていないことが伺えます。
実際の選挙では、これまで強固な地盤に支えられてきた菅氏が民主党へのかつてない逆風の中で厳しい戦いを強いられ、小選挙区では土屋氏に敗れる結果となりました。

ビッグデータの可能性と課題は

こうしたブログやツイッターの書き込みと社会現象などとの関連を研究している鳥取大学工学部の石井晃教授はネットの「選挙ビッグデータ」について、「大衆の感情や広範囲の民意の動向などを分析するには有効で、例えば選挙演説やイベントの反応などを検証するには有効だといえる。一方でネットユーザーは年齢に偏りがあり、若い年代の動向をつかむには適しているが、特に高齢者の意見が反映されにくい。また、いわゆる『浮動票』はある程度つかめても、候補や政党の『固定票』はネットに反映されにくくつかむことが難しいため、議席数の予測や当確の判断などへの活用には課題がある」と指摘しています。
石井教授は「今後、国政選挙に関するネットのデータが蓄積されればかなり正確な予測ができる可能性もある。今回の衆院選の結果は、今後のビッグデータ研究の指標としてさまざまな場面で活用されるのではないか」と話しています。

活用進むかビッグデータと選挙

ビッグデータの分析の精度を高めていくためには、ネット上の政治や選挙に関する情報をさらに増やしていく必要があります。
今の法律ではネットを使った選挙運動は禁止されていますが、より多くの人に候補者の主張を伝えるために、日本もインターネットを使った選挙運動を解禁するべきだという議論がおこなわれています。
一方で、別の指摘もあります。
選挙ビッグデータの解析に当たったルグラン社の泉浩人さんは、「政治家や政党にネットユーザーの志向を熟知した戦略が無ければ、ネットの選挙運動を解禁しても、従来の選挙運動のような『連呼型』の書き込みが増えるだけではないか。政治に関心を持ってもらうための長期的なネット戦略が検討されるべきだ」と指摘しています。
来年夏の参院選など今後の大規模な選挙に向けて、選挙ビッグデータを分析して活用しようとする動きは、さらに進むと見られます。
今回の選挙は残念ながら記録的な低投票率となりましたが、ネットでの政治を巡る議論が活発化することで、若者を中心に政治や選挙への関心が再び高まっていくことが期待されます。

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