
安倍総理のインド訪問(概要)
(平成19年8月21日~23日)
平成19年8月22日
1.概要
(1)安倍総理は、8月22日夕刻、シン首相と日印首脳会談を行い、政治・安全保障、経済、人の交流、地域的・国際的課題に関し、多くの共通の取り組みに合意し、新次元における戦略的グローバル・パートナーシップのロードマップに関する共同声明を発表した。また、両首脳は、環境とエネルギーに関する別個の共同声明に署名した(下記2.参照)。
(2)安倍総理は、22日午前、インドの国会において、「二つの海の交わり」と題する政策演説を行った(下記3.参照)。日印の歴史的紐帯を振り返ると共に、東アジアと南アジアが融合する「拡大アジア」において、日印両国が協力して要の役割を果たしていくべきとの演説を行い、高い評価を得た。
(3)安倍総理に併せて200名近くの経済ミッションがインドを訪問し、両国の経済界代表者によるビジネス・リーダーズ・フォーラム(日本側代表:御手洗経団連会長、インド側代表:アンバニ・リライアンス会長)が開催され、両首脳に報告書が提出された。また、両国の錚々たる大学学長クラスによる第1回の「日印学長懇談会」が開催された。このように政府間の交流のみならず、ビジネス交流、学術交流を含め、重層的交流拡大の契機となった。
(4)安倍総理は、8月23日、日印関係の原点ともいえるコルカタを訪問し、印日文化センター開館式等の行事に出席する予定。
2.首脳会談
日印首脳会談の主要な結果は以下の通り。
(1)政治・安全保障
- シン首相の2008年中の訪日を確認。関係当局に対し、安全保障分野における将来の二国間協力の方向性を検討し、次回首脳会談までに報告するよう指示。
- 先般の米印合意について、シン首相から、今後NSG(原子力供給国グループ)で議論される際、日本の支持を得たい旨述べたのに対して、安倍総理より、インドの戦略的重要性、原子力が気候変動に対処する上で重要なことは理解するが、一方、インドが国際社会の関心に応える形でIAEAとの交渉等に適切に対処することが不可欠である旨応答。
(2)経済、経済協力
- 2010年までに200億ドルという年間貿易額に向けて取り組むことで一致。質の高い双方に利益をもたらす経済連携協定に向けて、早期に交渉を終えるよう指示。
- インド側は日本のODAを評価。安倍総理より幹線貨物鉄道輸送力強化計画(DFC)について、本邦技術活用条件(STEP)を活用した円借款による支援を前向きに検討したい旨表明。また、デリー・ムンバイ間産業大動脈構想については、プロジェクト開発基金設立に向けて緊密な協力を表明。
- 両国間の通貨スワップ取極に関する原則合意を歓迎。
- ビジネス・リーダーズ・フォーラムから提出された報告書勧告の実施を指示。
(3)人の交流
- 日印学術懇談会の開催を歓迎。新規IIT(インド工科大学)設立における可能な協力を検討する作業部会の設置に合意。安倍総理より、インドから今後5年間、毎年500人程度の若者を日本に招聘する計画を表明。
(4)環境・エネルギー
- 首脳会談において、安倍総理より、「美しい星50」の柱である2050年までに世界全体の排出量を現状に比して半減する長期目標及び「3原則」を説明し、2013年以降の実効的な枠組みにインドが責任ある形で参加する必要があると説明。シン首相からは、安倍総理の提案を評価する、日本や同様な考えを持つ国と協力していきたい。ただ、環境保全と経済発展を両立させることが重要である旨の発言がなされた。
- 環境・エネルギーに関する共同声明では、1)安倍総理の提案に対する評価、2)50/50の長期目標は真剣に考慮されるべき旨、及び3)全ての国が参加する2013年以降の実効的な枠組への両首脳の決意が盛り込まれた。
(5)地域的・国際的課題
- 北朝鮮の非核化および拉致問題の早期解決に向けた協力を確認。テロとの闘いにおいて協力していくことで一致。
- 東アジア首脳会議(EAS)、南アジア地域協力連合(SAARC)での協力を確認。
3.国会演説「二つの海の交わり」
(1)演説内容
- 太平洋とインド洋という「二つの海」の交わりによって、東アジアと南アジアの融合した新しい「拡大アジア」が出現しつつある。これは、米国や豪州を巻き込み、太平洋全域にまで及ぶオープンで透明なネットワークに成長しうる。
- 日印両国は、基本的価値と利益を共有するアジアの二大民主主義国家として、その要をなす。
- 日印両国は、海洋国家としてシーレーンの安全確保に他国とともに取り組む。
- インドは寛容の精神、民主主義の下での貧困克服・高い経済成長への挑戦という2つの点で世界史に貢献。この2つの点で日本も協力する用意がある。
- 自然との「共生」を哲学の根幹に据えてきたインドこそ、気候変動問題で先頭に立つにふさわしいとして、インドの前向きな取組を要請。
- 日印関係は「世界で最も可能性を秘めた二国間関係」であり、「強いインドは日本の利益、強い日本はインドの利益」であるとの認識から、日本はインドの台頭を歓迎。(上記2.に挙げられている具体的施策に言及し)インド経済発展のための支援、日印間の重層的な交流強化の姿勢を強調。
(2)反響
- 国会は、シン首相、アンサリ上院議長、チャタジー下院議長臨席のなか、上下両院議員によって満席であり立ち見が出るほどの盛況であった。また、アドバニ野党下院リーダー、ジャストワン・シン元外相、グジュラール元首相を始めカピル・シバル科学技術相現職閣僚多数を含む有力な政治家も顔をそろえており安倍総理のスピーチに対するインド側の高い期待が伺われた。
- 安倍総理のスピーチに対しては、聴衆より随所で30回以上の拍手が起こり、スピーチ終了後は聴衆が総立ちとなるスタンディングオベーションとなった。
- 演説後、シン首相、アドバニ野党下院リーダー、ムカジー外務大臣等より、総理演説は素晴らしい内容であったとのコメントがあった。