記者の目:安倍政権と歴史問題=西川恵(外信部)

毎日新聞 2012年12月18日 00時15分

 「愛人にされた女性は本来の従軍慰安婦ではない」との反論もあろう。しかし今日、欧米は従軍慰安婦問題をすぐれて女性の人権にかかわる問題として捉えている。強制連行があったかどうかに関係なく、女性を嫌悪すべき状況に置いたこと自体を人権違反と捉えている。

 ◇独りよがりでは日本は孤立する

 すでに07年、米下院本会議で日本に対し、慰安婦問題で謝罪を要求する決議案が採択された。オランダ、カナダ、欧州連合(EU)も続き、同種の決議が議会で採択された。領土問題で国際社会の支持とりつけに走り回っている日本外交にとって、この二の舞いは大きな打撃である。

 最近の右傾化の空気で私が危惧するのは、国際社会の共通認識や価値観と乖離(かいり)したところで、独りよがりともいえる議論が時折、目につくことだ。これは個人的な心情や倫理観を位相の異なる政治の場で扱おうとする態度にもつながっている。

 米国のある識者は「右傾化によって、日本は短絡的な見方しか持てなくなっているように感じる」と指摘した。反中感情があおられ、長期的ビジョンを練る余裕がなくなっているというのだ。

 戦争の惨禍をアジアに及ぼした日本は二度と排他的利益を求めず、国際的な公共益に沿ったところで自国の国益を追求していくことを課せられていると思う。ドイツが機会あるごとに「ドイツの欧州にはしない。欧州のドイツになる」と言うのと同じ脈絡だ。

 政府開発援助(ODA)や国連平和維持活動(PKO)はまさに国際的な公共益に貢献しつつ、日本の国益を広げてきた格好の政策である。国際社会が日本に抱く好印象と高い期待も、国際的公共益を常に念頭においてやってきたことの結果といえるだろう。

 先の従軍慰安婦問題も女性の人権という公共益の中に位置付け、日本が主導権をとる形で解決できるはずだ。アジア女性基金というノウハウも持っている。国際的な公共益に背を向けるような「狭義の強制はない」といった主張は、日本を孤立させかねない。

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