道の向かい側にある豚足屋を指しながら、ウォン・チユンさん(74)は話した。「あの場所です。4年たちましたが、嫌な気分になるのであまり見ることはありません」。今月10日、慶尚北道英陽郡庁の前。ウォンさんが30年以上経営してきた20坪(66平方メートル)ほどの「文化書店」は2009年初め、商売が行き詰まり閉店した。ウォンさんは「郡庁所在地に本屋が1軒もないなんて恥ずかしいことだ」と語った。詩人・趙芝薫(チョ・ジフン)、小説家・李文烈(イ・ムンヨル)を生んだ「韓国文学の故郷」英陽は、その瞬間から「本屋のない郡」に成り下がった。
地域の書店が崖っぷちに追い込まれている。本紙が韓国出版研究所に依頼し全国249の市・郡・区の書店を全数調査(文房具を売っている書店も含め合計2577店)したところ、英陽郡をはじめ全羅南道珍島郡、慶尚北道鬱陵郡、仁川市甕津郡では書店が1軒もなかった。仁川市江華郡、江原道高城郡・楊口郡・襄陽郡・華川郡・横城郡、忠清北道槐山郡・曽坪郡、忠清南道泰安郡、全羅北道茂朱郡・淳昌郡・鎮安郡、全羅南道谷城郡・求礼郡・務安郡・新安郡・咸平郡・和順郡、慶尚北道聞慶市・高霊郡・軍威郡・奉化郡・星州郡・盈徳郡・醴泉郡・義城郡・清道郡・青松郡・漆谷郡、慶尚南道山清郡など30カ所は書店が1軒しかない「絶滅危惧(きぐ)地域」だった。大都市でも事情はあまり変わらない。ソウル市中浪区、京畿道城南市中院区のように人口5万人当たりに書店が1軒未満の市・郡・区も少なくなかった。
英陽郡庁前の英陽小学校は、かつては児童数が1400人に達していたが、現在は302人だ。通学路で会った5年生のシン・スビンさんは「先月、問題集や本を買いに安東市まで行ってきた。インターネットで注文することもあるけど、本を直接見て選ぶことができないので不便」と話す。4年生のパク・クァンヒ君は「前に本屋に行ったのがいつだったか覚えていない」と話した。