日本国債暴落説は嘘だと言うのは、本稿の基調だった。いまの9年ぶりの高値は、安全資産先行のためでもなく、時期政権への期待の故でもなく、金融機関の金あまりの需給関係にある。銀行の貸し出しは伸び悩み、預金残高と貸出残高のギャップは170兆円もある。この過剰流動性の行く先が国債だ。
「日本の財政赤字の多いことをギリシャに例えるのは、言う方も無知だし、反応して聞く方も無知だからだ。これについては稿を改めて詳述する」と6月24日号で述べたが、その続きである。また「日本国債の暴落説はウソである、その訳は稿を改めて詳述する」とも書いた。それを今、述べたい。
日本国債が暴落するという見方は誤りである。それは家計の赤字を主婦が恥じとするのと同じく、財務省特に主計局が騒ぐからそう思われているにすぎない。基礎知識のないマスメデアの記者たちが、財務相の秀才たちからもらったメモの通りに書いたり語ったりするから社会がそう勘違いするのである。
無知なマスコミばかりではない。三菱UFJ銀行では「2016年に近付くと経常収支の赤字が広がり、日本国債の格付けが落ちて10年もの国債の金利が今の1%から3.5%に上昇する恐れがある」と言うのだ。同銀行は国債暴落に備えた「危機管理計画」も出してきた。これには笑えた。彼らは、多くの指標を管理していて、暴落の予兆が出たら国債を売ると言うのだ。
彼らに限らず大手都銀が国債の売却などできるわけがない。日銀が財務相と結託して「日本国債の消化という至上テーマ」のもとに動いた、というのが実態であろう。日本の大手都銀がどれほど多くの資産を国債に投入しなければなかったか、60兆円以上である。日本の国債発行高の60%を超えることになる。米国は5%台、ドイツは20%台、イタリアでさえ30%台だ。日本の大手都銀は国家と一蓮托生なのだということが分かろう(この%の数値の多少の誤差は御容赦願いたい)。国債暴落は無い。ただし、円安は始動し止まらない勢いが付く可能性はある。
日本国債暴落の警告は「失われた20年」の間の半ばごろの20世紀末からあったにも関わらず、そうはならなかった。その最大の理由は、ゼロ金利にも関わらず、民間企業と家計は貯蓄に向かう。これは消費の繰り延べであって、経済の流れからの「漏出(ろうしゅつ)」(経済学用語)である。その結果は不況になったが、企業と個人は巨額な貯蓄を保有することになった。そして財政赤字は膨れ上がった。政府の赤字財政と民間貯蓄とは反比例に膨れた。
この動きがある限り、日本国債は格下げに遭遇しても暴落はしない。
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▓ 山崎 和邦
慶應義塾大学経済学部卒。野村證券、三井ホームエンジニアリング社長を経て武蔵野学院大学名誉教授に就任。投資歴51年に及び野村証券時代の投資家の資金を運用から自己資金で金融資産までこなす。
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