武雄市選挙管理委員会が来年4月の市長・市議選から投票時間を2時間繰り上げ、午後6時までとする。佐賀県内は離島や山間部など一部の投票所で時間短縮している自治体はあるが、全投票所で踏み切っているところはない。市選管は「期日前投票が定着、午後6時以降は、大幅な投票率アップにつながっていない」としているが、この2時間に投票している市民は、当日投票者の1割前後に当たる。この数字をどう見るのか。投票機会の確保は民主主義の根幹にもかかわる問題だ。
1950年制定の公選法で投票時間は「午前7時から午後6時」とされたが、国政選挙などで投票率が低落傾向をたどり、97年の法改正で原則「午前7時から午後8時」までに延長された。だが地理的条件など特別な事情がある場合は、市町村選管の裁量で、最大6時間短縮することができることになっている。
今年8月の衆院選で県内は、唐津市浜玉町鳥巣地区の4時間短縮を筆頭に、4市の19投票所で投票時間を繰り上げた。そのいずれも、離島や山間部など地理的条件が悪いところで、全投票所(372カ所)の約5%にすぎない。
今回、武雄市選管は市街地も含む市内全36投票所で2時間繰り上げ、午後6時までとする。短縮に踏み切った理由を同選管は2003年に始まった期日前投票制度が定着、国政などを含めた過去5回の選挙で当日有権者の10%前後を数え、今年8月の衆院選では約12・76%となったことを挙げる。
投票締め切りを繰り上げることで、開票開始時間が早まり「有権者に結果を早く知らせることができる」(同市選管)ことや、投開票事務経費(主に職員らの残業代)を約100万円削減、深夜に及ぶ開票事務の軽減で「職員の健康面にも配慮できる」という。
確かに期日前投票は、不在者投票と比べ手続きが簡単になり、武雄市の場合も、投票に行けない理由を記入する宣誓書以外は、選挙当日と何ら変わらず、利用者は増えているという。
さらに告示翌日から投票前日まで市内3カ所で、毎日午前8時半から午後8時まで受け付けており、「この制度をしっかり周知、浸透させれば投票率の低下にはつながらない」(市選管)と見ている。
選管は事務の迅速化を求められ、開票時間の短縮が至上命題のようになっているのも実情だ。財政難でコスト削減にも配慮しなければならず、他県でも投票時間の短縮を既に実施しているところもある。
ただどうだろう。同市で実施された過去5回の選挙で、当日投票者に占める午後6時から同8時の投票者割合は、最も低いときで06年4月の武雄市長・市議選の7・17%。最も高かったのは07年7月の参院選の13・28%だった。
住民の最大の権利ともいえる選挙権をきちんと行使できる環境を整えることは、何より優先すべきことだ。全国的に投票率が低下傾向にあり、若者層の選挙離れや、政治に対する無関心層の増加は民主政治の健全な発展に影響を与えかねない。武雄市選管の選択がどう出るのか。当落とともに、投票率にも注目だ。(澤野善文)
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