「輸出のためにはウォン安でなくてはならないのか」
周期的に繰り返されるこの質問が新たな局面を迎えている。ウォンの対米ドル相場が1ドル=1100ウォンを割り込むウォン高となり、輸出企業は既に青息吐息だ。政府も為替防衛のために口先介入を含め、さまざまなカードを段階的に切っている。輸出の最前線が揺らぐと聞けば、条件反射的に緊張する。しかし、輸出を守るためにこれまで当然視されてきた為替防衛が今、困難に直面している。
人々は輸出企業のための為替防衛に掛かるコストを真剣にチェックし始めた。韓国銀行の報告書によると、ウォン相場が1%下落し、輸出が増加することで、国内総生産(GDP)は0.08%増える。これに対し、国内の消費と投資はそれぞれ0.19%、0.35%減少する。ウォン安は国内の消費者や内需企業に被害をもたらし、輸出企業は得をするという構図だ。
経済開発初期には、韓国の代表的な輸出企業は貧しい家庭に育った長男のような存在だった。家族が犠牲となって長男を支援し、長男が出世して家族を助けるというプラスの循環構造だった。しかし、現在は出世した長男が期待ほど家族の助けにはならない構造となり、残された家族は犠牲による得失を計算し始めた。輸出企業が雇用や関連産業にもたらす恩恵が減り、輸出企業と内需企業の間に二極化が起きている。
次期政権で誰が大統領になっても、輸出企業だけを支援する政策を推進するのは困難だ。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代、ウォン高を阻止するため、政府がオフショアの先物市場に介入し、2兆2000億ウォン(約1700億円)の損失を出した。韓国銀行は為替防衛のために通貨安定債券を年間20兆-30兆ウォン(約1兆5000億-2兆3000億円)規模で発行していた。そうした過去の動きは今や想像することさえ難しい。輸出企業を優遇するため国民経済に負担を強いてもよいのかという批判にさらされるからだ。
外部での突発的な要素が生じない限り、ウォン相場は上昇が避けられないとみられる。韓国の経常収支は9カ月連続で黒字を計上し、資本収支も黒字に転換した。ドル資金の供給が多いため、ウォン高圧力がかかるのは自然なことだ。2008年の世界的な金融危機以前、ウォン相場が1ドル=900ウォン台前半だったことを考えると、ウォンが一段高となってもおかしいとはいえない。
韓国のように外部からの危機に弱い小さな開放経済では、経常収支の黒字は重要だ。しかし、その目標を達成するためにほかの経済主体を犠牲にし、輸出企業だけを支援する政策は限界に近づいている。
ウォン高になったとしても突破口はある。1985年のプラザ合意で円が急騰しても日本企業は生き残った。当時、日本企業は付加価値が高い商品の開発、骨身を削るコスト削減の代名詞となった。しかし、当時は中国がまだ眠れる存在だったが、今は韓国を猛追している。韓国の輸出企業は危機感を感じるべきだ。ウォン安に頼って海外市場でライバルを抑えてきた平和な時代は過ぎ去ろうとしている。