「野球ってこんなに楽しいものだったんだ。そういえば少年野球をやっていた頃は楽しかったな。今はそんな思いで楽しんでます」とグラブを片手に笑顔で話すのは1997年のドラフト1位で上宮高校から期待の大型ショートとしてロッテに入団した渡辺正人。今年が14年目のシーズンだ。
今年のロッテは西岡が抜けた後、ショートのポジションにはセンターからコンバートされた期待の荻野貴司が怪我をしてからは、細谷、高濱、高口、塀内、根元らがスタメンのチャンスを貰うもレギュラー獲りという所までは掴みきれなかった。そこで遂に巡り巡って廻ってきたのが32歳、年数はもうベテラン組に入ってもおかしくない渡辺だった。
08,09年はほとんど上でプレーをする機会はなかった。今年もショートを守れる何人ものライバルがチャンスを貰いながらも、なかなか自分には声が掛らなかった。そんな時ふと心の中で自分の今居る立場を指を折って数えたらしい。「何度も心が折れそうになった。俺はこのまま終わっていくのかな?とも考えた事は何度もあった」としみじみと語る。そして6月11日に嬉しい昇格の知らせがあった。
渡辺のセールスポイントは内野ならどこでも守れるユーティリティープレーヤー。しかし本人は言う。「何処でも守れるという選手は他にもいるかもしれないが、ショートをしっかりと守れてそれ以外も出来るという選手は意外と少ないと思います」と自身では自負している。本人もショートという聖域には絶対に譲れないこだわりがある。
プロ入りした時にはその位置には小坂誠がいて、そのあとには彗星の如く西岡剛が台頭しレギュラーを奪っていった。結果渡辺は何処でも守れるが故に内野の各ポジションのバックアップメンバーに追いやられた。しかし今でも渡辺は日々の練習においての心掛けは「まずはショートを守れる体を作って置くことに重点を置いている。ファームに甘んじている時からノックを受けるときはまずショートに入ってノックを数多く受ける。そこから各ポジションに廻ってボールを受ける。やっぱりショートは他のポジションとは運動量もやるべきことも多いからね」と。
14年のキャリアの中での出場を振り返ってもらうと、ほとんどが途中出場からの守備が多くて、しかもショートでの先発はほとんどないんじゃないかな?というくらいの印象らしい。だからこそ今のショートでのスタメン出場が本当に嬉しいようだ。先日はダルビッシュからランニングホームランも打った。「最後はホーム寸前で足がもつれてました。でもあそこまで走れたのはこの2年間ファームで高橋慶彦監督のもと厳しい練習で走りこんで基礎体力を維持していたからこそ奪えたホームランです」とまるで若手が述べるようなコメントを14年目の選手がいうといかに我慢の日々が続いたかが分かる。
プロに入ってからはショート小坂誠、セカンド酒井忠晴の2遊間コンビの守備を見て一緒にノックを受けられたのが今の自分の守備の財産。あの時の2人の守備を見た時初めて「守備ってこんなに楽しいんだ」と感じたくらい雲の上の存在のコンビに憧れた渡辺。「今は野球少年の頃の気持ちに戻って野球をやれている。毎日が楽しくて対戦するピッチャもダルビッシュ、杉内ら各チームのエースに対してバッターボックスに入れることが新鮮。不安感なんて一切ない。だってやっと巡ってきたチャンスなんだから」とバリバリの大阪弁がまた親近感を感じさせる。背番号40。14年前のドラ1、大型ショートが持ち前のガッツを今、猛アピールしている。
谷口 広明
1972年大阪府生まれ。追手門学院大学卒業後、あらゆるスポーツをこよなく愛すスポーツコメンテータとして活動中。野球、ラグビー、サッカー、サイクルロードレース、ウィンタースポーツ、バスケットなどを実況し感動の一瞬に出会うことが生きがい。