プロから学ぼう!
クリエーターズアイでは、いま活躍中のクリエーターが、
どんな視点で創作活動に取り組んでいるのかを中心に
語っていただき、皆さんの先輩となりうるプロたちの
姿を、ここでご紹介していこうと思います。
Creator's eye の第一回では、現役プロダクトデザイナーでもある前田先生にご登場いただき、「高校野球大会のメダルデザイン」をした時の視点、考え方、をご紹介させていただきます。
第一回
プロダクトデザイナー 前田一樹
春の選抜高校野球大会のメダルのデザインが、今年も完成しました。

これが、今年のメダル。左が参加賞、中央が優勝メダル、右が準優勝メダル。
前田一樹
2005年10月富山大学 芸術文化学部 学部長。2001年に富山大学 芸術文化学部の前身となる高岡短期大学の教授に着任。専門は、パッケージデザイン、グラフィックデザイン、地域振興デザインプロデュース。前職は、株式会社前田デザインアソシエーツ代表取締役社長。
デザインの現場で食品パッケージやプラスティックリサイクル「プラマーク」(通商産業省)をはじめとするロゴマーク、ポスターなど、様々な分野のデザインを手がけてきた。
第7回New York PDC Gold Awards金賞ほか受賞歴多数。(社)日本パッケージデザイン協会理事ほか、各種学会等でも活躍中。武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業。昭和24年生まれ。
アーティストマインド だけでなく、コミュニケーション力のあるクリエイターを目指してほしい
写真とプロフィールをご覧になって、「あれ?」と思われた方も多いかもしれません。そう、“Creator's eye”のトップバッターは、我らが高岡キャンパスの前田先生に登場していただきます。
前田先生は大学卒業後、大阪万博のシンボルマークや日清食品のカップヌードルのパッケージをデザインされたことなどで有名な大高猛氏(2000年永眠)に師事し、自らも幅広く数々のグラフィックデザインを手がけてこられた方。
現在は先生ですが、学術畑だけを歩んでこられた方ではないのです。だからこそ、「アートの技法や精神だけを学ぶのではなく、実社会で役に立つように、ものやことを創り出す考え方、考える筋道を学んでほしい」とことあるごとに主張されています。民間企業出身の教育者はどこの大学でも珍しくはありませんが、国立大学に限定するとまだまだ珍しい話。しかし、高岡キャンパスでは、昔から教官陣の選定には学位と同じぐらい社会の実績や仕事への姿勢も重視しているそうです。「卒業したら、大半の人は社会に出て就職をする。大学では、創造力、発想力だけでなく、社会で戦力として求められる技術力も備えさせる必要があると思います」(前田先生)。
お手本を示すかのように、前田先生は現在も学内のみならず、学会や学外の各種シンポジウムなどでも幅広く活躍されているのです。そして、ライフワークとなりつつあるのが、春の全国選抜高校野球大会のメダルとポスターのデザイン。
春の全国選抜高校野球大会は、毎年3月末〜4月上旬に開催されますが、その告知ポスターとメダルのデザインは2001年より6年連続で前田先生が手がけています。デザインに携わることになった経緯は、それまでの25年間、春の全国選抜高校野球のメダル制作に取り組んでこられた大高猛氏が亡くなったことからです。
「先輩の仕事を引き継いだというわけではなく、春の全国高校野球大会の主催者である毎日新聞社から依頼を受けてのお仕事です。でも、若い時に大高事務所で3回だけメダルのデザインを担当したことがあり、それを25年ぶりに自分が丸ごと請けることになって、感慨深いですね」と、出来上がったメダルを手に前田先生はしみじみとした表情を覗かせます。
メダル制作は、一年前の 選抜高校野球大会から始まる
制作にあたり、毎年メダルにテーマを掲げています。今年のテーマは『集中と持続』です。テーマとともに、発注者である毎日新聞社に、前田先生はコンセプトシートを用意し、プレゼンテーションされます。
一枚の紙に詩のような言葉で綴られた、制作意図をまとめたシートは、短いけれど、前田先生が渾身の思いを込めて、書き上げているのです。

前田先生が自らレイアウトまで工夫してワープロで書いた、今年のコンセプトシート。(クリックすると画像をご覧いただけます)
「コンセプト創りは、メダル制作のキックオフみたいなものですから。コンセプトシートは、完成に至るまでの一年間が集約されるのです」(前田先生)
一年! そう、前田先生はメダルとポスターの制作のために、毎年甲子園に足を運び、決勝戦を観戦し、選手たちに取材し、翌年の制作準備に取り掛かるのです。ライブ感が感動を引き出すというのでしょうか。
型作りも、現在は原画を元にコンピュータでモデリングするのが当たり前のようになってきていますが、「CG表現によるデザインだけでは、優勝メダルとしての重みに欠けるものになってしまう」というこだわりから、自ら油土で原型作りをされているのだそうです。
どんなにベテランになっても、初心を忘れない丁寧な仕事への姿勢が偲ばれます。

制作前のアイデアスケッチ。ノートの上にあるのは、前田先生ご愛用のデジタルペン(ノキア製)。
図形をこのペンで描き、人に説明する際に使用されているのだとか。このペンで書いたものは、そのままデジタルデータとしてPCに保存されるため、特にデザインのラフスケッチ(メダルラフ、ポスターラフ、パッケージデザインのラフ等)や、デザインのチェック、指示などをする際に活用中だそうだ。書く時は普通のノートに当たり前のようにペンを走らせればいいだけ。
メールでデータを送れば、離れた場所にいる相手とでも自分が書いたものをそのまま相手に見せながら説明ができるので、電話だけのコミュニケーションと異なり、イメージする内容がずれずに意図を伝えるのに非常に便利なのだ。
「メダルは彫刻、プロダクトデザインの分野であり、ポスターはグラフィックデザインの分野ですが、私はデザイナーとして、様々な分野のデザインと取り組んで参りました。
多角的に物事を見て考える事は大切です。どのようなテーマにしろ何かを創出する事は、その命が消えるまで、広い視野(環境、条件、時間)から見ることが、デザイナーにとって大切です」とおっしゃる前田先生は、このほかプラマークなどのシンボルマーク、ロゴタイプやパッケージデザイン、和紙企画プロデュースなど数多くの実績をお持ちです。
今後もこのコーナーで、また別の顔のデザイナー・前田先生をいつの日かレポートしてみたいと思います。お楽しみに。

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