松本市の柔道教室で二〇〇八年五月、当時小学六年生だった同市波田の沢田武蔵君(16)が指導者に投げ技をかけられ重い障害を負った事故で、長野検察審査会の「起訴相当」議決により再捜査していた長野地検が十四日、当時の男性指導者(39)を不起訴にしたのは、元指導者が事前に事故を予見するのは難しく、刑事責任は問えないと判断したためだった。
不起訴を受け、松本市役所で会見した武蔵君の母親の佳子さん(41)は「検察に起訴してほしいとの思いが強かった」と声を詰まらせた。父親の博紀さん(40)も、地検の結論を出すのが「当初の予定より二カ月遅れた上での不起訴という内容は受け入れられない」と話した。
武蔵君は頭を急激に揺さぶられて頭の中の血管が切れる、回転加速度による損傷で急性硬膜下血腫を発症した。長野地検の小池充夫次席検事は乳児の揺さぶられ症候群や、柔道以外のスポーツでもこの損傷の危険性が共有されていたかどうかなどを再捜査したことを明らかにした上で「(過失の成立要件である)予見可能性を認定することはできなかった」と述べた。
武蔵君の両親とともに会見した永田恒治弁護士は、この損傷の危険性の知見が柔道界などで共有されていなかったとの地検の判断に「指導者がかけた技が危険だということは少しでも安全対策を徹底していれば分かる。知見がないから刑事責任を問うには不十分というのは個人的に納得できない」と語った。
◆再び「起訴議決」なら強制
長野地検が元指導者を再び不起訴としたことで、今後の焦点は長野検察審査会の判断に移った。二回目の審査で、審査員十一人のうち八人以上が再び起訴が相当と認める「起訴議決」をすれば、元指導者は強制的に起訴される。
検察審査会法によると、起訴相当の議決後、今回のように検察が再び不起訴とした場合は、自動的に二回目の審査にかけられる。任期の関係で、一回目に起訴相当議決をした審査員は全員入れ替わっており、別の審査員が二回目の審査をする。起訴議決がされれば、裁判所が指定する弁護士が検察官に代わって起訴し、裁判が始まる。
検察審査会は、有権者の中からくじで選ばれた十一人で構成。県内では長野地裁と松本、上田、飯田の各地裁支部に事務局があり、告訴、告発人や事件被害者らの申し立てを受けて検察官の不起訴処分が妥当かどうかを審査する。柔道事故で強制起訴されれば、全国初の事例になるとみられる。
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