松本市の柔道教室で2008年、当時小学6年の沢田武蔵さん(16)が練習中のけがで脳に障害を負った事故で、長野地検は14日、長野検察審査会から業務上過失傷害罪で「起訴相当」の議決を受けた元指導者の男性(39)を2回目の不起訴処分(嫌疑不十分)にして、発表した。同審査会が再び審査し、起訴議決を出せば、元指導者は強制起訴される。強制起訴されれば、県内では初めてのケースとなる。
検察審査会の議決書などによると、沢田さんは08年5月、元指導者が開いていた柔道教室に参加。乱取りけいこ中、男性に畳の上に投げられて体調不良を訴え、一時意識不明の重体となった。沢田さんは頭を打っていないが、投げられた際に頭を強く揺さぶられる「加速損傷」で静脈が破綻(はたん)し、急性硬膜下血腫になったことが原因だった。
長野地検は今年4月、「頭を打たなくてもけがをさせるという可能性を(元指導者は)認識できなかった」として、不起訴処分にした。だが沢田さんの両親が検察審査会に不服を申し立て、同審査会が7月、「起訴相当」の議決を出していた。
地検は再捜査で、加速損傷がどの程度スポーツ界で認識されていたかなどを、新たに調べた。だが1度目の不起訴と同様に、元指導者が予見することはできなかったと判断したという。
長野地検の小池充夫次席検事は「起訴すべきだという検察審査会の判断は真摯(しんし)に受け止めたが、(けがをするという)予見可能性を問うのは難しいため、過失責任は問えない」と説明した。
■家族「年月をかけて…残念」
不起訴処分の判断を受けて、沢田武蔵さんの両親と代理人の永田恒治弁護士が14日、会見した。
武蔵さんの母、佳子さん(41)は「理性を持って受け止めようとしても限界がある。予見可能性ひとつとっても、これほどの年月をかけてもこの程度のことしかできないのか。検察には民意を受けて一歩踏み込んだ判断をしてもらえるのでは、という期待があっただけに、残念でたまらない」と納得がいかない様子だった。
永田弁護士は「すさまじい投げ技をかけたにもかかわらず、『回転加速度による頭部損傷の危険性についての知見を持っていなかったから過失が無い』とする判断は、いささか乱暴」。さらに「(検察は)自分たちの出した不起訴処分を合理的に説明するための見解を羅列したような印象」とした。今後の対応については、「改めて、検察審査会に対して、起訴相当の議決が出るように働きかけていきたい」と話した。
(軽部理人、池畑聡史)