橋下氏と嘉田氏と「脱原発」
【トリックスター(trickster)】
1 詐欺(さぎ)師。ぺてん師。2 神話や民間伝承に現れるいたずら者。秩序の破壊者でありながら一方で創造者であり、善と悪など矛盾した性格の持ち主で、対立した二項間の仲介・媒介者の役目を果たす。[大辞泉]
■未だ「収束」には程遠い「福島第1」
東京電力は11月28日、福島第1原発3号機の原子炉建屋1階にロボットを投入し放射線量を測定したところ、毎時最高4,780mSv(ミリシーベルト)に上ったと発表した。昨年11月に同地点を計測した際は1,300mSvだったという。
通常4Sv(=4,000mSv)以上の放射線を浴びると、半数が死亡するというが、現在、3号機の建屋1階はこれを上回っており、「人間が立入り出来ない」状況にある。
昨年の12月16日、野田首相は「事故の収束」を宣言したが、その後の線量が数倍に上がり、未だに作業員が近づくことすら出来ない“現実”は、彼(を操っている官僚組織)の発表が“マヤカシ”であることを如実に現している…。
そんな中、「夏の電力不足」を理由に大飯原発再稼動を“強行”し、(結局は再稼動の必要はなかった)その夏が終わったというのに、再稼動を続けている…。
こんな“マヤカシ”を続ける日本政府に、“国民”は毎週金曜日、官邸前をはじめ全国各地で「反原発」の声を上げるが、野田首相の「大きな音だね」に象徴されるよう、その声は現政権には届いていない。
こうした中、野田首相は、先の総選挙での「国民との約束」は果たさず、「消費増税」で国民を裏切った自公との「三党合意」での“約束”を果たすため、身内の民主党議員にさえ知らぬ間に「解散」に踏み切った。
■「脱原発」の選択肢を奪った「橋・石」合流
「民意」を問うべき筈の総選挙。
しかし、“裏切者”民主を「落としたい」が、かといって、これまで「原発」や「消費増税」を推進してきた自民にも「入れたくない」。
こうした「民意」の受け皿になる筈だった“第三極”も、マスメディアが連日のように報道し「推奨」する、橋下徹氏率いる「日本維新の会」と石原慎太郎氏率いる「太陽の党」が“合流”し、
こともあろうに、「脱原発」と「反TPP」の“旗印”を早々に降ろしてしまった…。
投票により「民意」を示したい“主権者”国民から、またしても、「脱原発」の選択肢が奪われてしまったのである…。
■メディアが無視する元祖(?)「第三極」の動き
「四年間は消費税を上げない」という“国民との約束”の筋を通して離党した小沢一郎氏率いる「国民の生活が第一」は、その「反消費増税」とともに「反TPP」と「脱原発」を“旗印”に掲げていたが、党首・小沢氏の「無罪」が確定し、国会議員数も民主、自民に次ぐ「第三党」であるにもかかわらず、我が国のマスメディアは何故か「完全無視」の姿勢を貫いていた…。
「脱原発」勢が唯一、脚光を浴びたのは、11月22日、「橋・石」合流で石原氏に「袖にされた」河村たかし氏率いる「減税日本」が、亀井静香・山田正彦両氏率いる「反TPP・脱原発・消費増税凍結を実現する党」との“合流”を発表した時だけであった…。
そんな中、「脱原発」の旗印が消えぬよう立ち上がったのが、「卒原発」の嘉田由紀子・滋賀県知事であった…。
■自公民“相乗り”現職を破った嘉田・滋賀県知事
嘉田氏は2006年7月2日の滋賀県知事選で、「もったいない」を合言葉に、新幹線新駅建設凍結、ダム計画の凍結・見直し、廃棄物処分場建設中止などを主張し、自公民“相乗り”の現職・國松善次氏を破り、当選を果たした。(当時、民主党で他党との「相乗り禁止令」を出していたのが、奇しくも、当時の代表・小沢一郎氏であった…)
そして、当選後、公約とした「新幹線新駅・産廃処理施設・ダム事業の凍結、見直し」を進め、新幹線新駅関連・廃棄物処分場については県の次年度予算に関係予算を付けないことを決め、これらの事業の事実上の「中止」を果たした。
この夏の関電大飯原発3、4号機の再稼働問題でも、橋下氏の大阪市はじめ長らが参加する「関西広域連合」の中で、琵琶湖のある滋賀県知事として「再稼働反対」の中心的立場を担っていた…。
■自公の推薦・支持を受けた橋下・大阪府知事
一方、現在のマスメディアから「第三極」の“旗手”とされる橋下徹氏ではあるが、2008年1月の大阪府知事選挙に「2万パーセントない」の発言を翻し立候補した際は、自民党府連の「推薦」と公明党府本部の「支持」を受けている。(当時のマスコミ報道では、選挙戦中は「自公隠し」を徹底していたようであったが…。)
選挙では、「府庁改革」とともに「子育て」や「商都大阪の賑わいの復活」などを挙げたが、当選後は知事就任記者会見で早々に「財政非常事態宣言」を出し、職員給与の削減やハコモノ施設の廃止、見直しで、職員や関係団体との「対決姿勢」を鮮明化し、マスメディアを通じ「強いリーダー」像を府民や国民に植えつけていった…。
■かつては大飯原発「再稼働反対」で共闘した両氏
かつて、橋下氏の大阪市や嘉田氏の滋賀県など関西の4市7府県で構成する関西広域連合は、福島原発の事故を踏まえ、「安全性が確認できなければ再稼働すべきではない」との立場から、政府に対し判断内容の説明を再三申し入れるとともに、「安全性の確保について万全を期したとは言い難い状況にある」と政府の姿勢を批判していた。
しかし、関西広域連合は本年の5月30日、これまでの慎重姿勢から一転、再稼働について条件付ながら政府に最終判断を委ねる声明を発表し、再稼働を目指す政府方針を事実上容認することとなる…。
政府が示した「計画停電やむなし」とする電力不足の試算と、それを恐れる地元経済界からの声に押された形であった。
翌日、広域連合のなかでも最も再稼働に慎重だった嘉田氏は、「地元経済界から『計画停電が起きては経営が成り立たない』との声が届いており、夏場の電力不足を考慮したぎりぎりの判断。慎重姿勢を崩したわけではない」と説明した。
一方、橋下氏は「建前ばかり言っていても仕方ない。(再稼働は)事実上の容認ですよ、それは」と、潔く(?)敗北を宣言した…。
しかし、橋下氏がこだわった、電力が不足する夏期だけの「限定的」な再稼動容認であったが、当の関西広域連合が10月1日、関電管内の今夏の電力需給について、「大飯原発の再稼働がなくても電力は足りていた」と独自の検証結果を発表したが、大飯原発が停止される気配はない…。
■「脱原発」が“右往左往”する「日本維新の会」公約
「橋・石」合流の「日本維新の会」が11月29日に発表した衆院選公約には、「自主憲法の制定」や「TPP交渉参加」とともに、「脱原発依存体制の構築」が掲げられ、併せて発表された「政策実例」の中に厳格な安全基準を設け発送電分離を進めることなどを明記し、結果として「2030年代までに(原発は)フェードアウトする」との見通しを示した。
しかし、翌30日の党首討論で石原代表は、公約の「フェードアウト」部分について、「それは違う。公約は直させた」と語った。
それに対し、松井一郎幹事長は12月1日、「記者会見して発表したものが全てだ。見直しません」と明言した。
さらに、本日2日、橋下代表代行はテレビ番組で、政策実例の中の「フェードアウト」に関し、「『政策実例』は議論の叩き台。公約ではない」と述べ、「党内不一致」との批判をかわすのに躍起となった。
また、同日、橋下氏は福井県敦賀市での街頭演説で、かつて自身のブレーンとして原発政策を支えていた飯田哲也氏が代表代行を務める「日本未来の党」が主張する「卒原発」方針について、「飯田哲也氏の考えたもので、ボロボロだ。原発立地のことを全く考えていない」と批判した…。
■「卒原発」を明記した“嘉田新党”の政権公約
その「日本未来の党」は本日2日午後、嘉田代表が都内で記者会見し、政権公約を発表した。
その中で、「卒原発」として、10年以内に原発完全廃炉、既存原発の稼働停止・廃炉計画策定・新増設禁止、高速増殖炉・使用済核燃料再処理工場の即時廃止、発送電分離など電力システム改革、などを掲げた。
このほか、「消費増税凍結」「TPP交渉参加反対」とともに、「子ども手当支給」「高校授業料無償化堅持」「戸別所得補償を維持」なども掲げており、3年前の総選挙で国民が「政権交代」を選択した当時の民主党のマニフェストの主要部分が踏襲されている。
また、総選挙直前の大久保隆規秘書の逮捕から先月の無罪確定までの3年8カ月間、政治活動が制限され続けた小沢一郎氏を念頭としてか、公約には「司法官僚による国民の権利侵害を止めさせる措置を早急に講ずる」との文字も並んでいる。
■“主権者”国民の“選択”は?
“嘉田新党”旗揚げにより、「脱原発」の選択肢がやっと守られた、今回の「総選挙」。
“主権者”国民として「原発NO」の意思を示す絶好の機会であるが、「悪党」(?)小沢氏との関連などをネタに、「脱原発」勢力に対するマスメディアによる執拗な「バッシング」も続くと思われる。
そんな今回の総選挙は、“主権者”国民の「資質」も問われているのかも知れない…。
私は、我が国の主権者たる「国民」が、自国の「未来」のため、「脱原発」を選択すると「信じている」のではあるが…。
1960年生まれ。北日本の一地方在住。一次産業を主とする“地方”の復興のため、明治維新から続く中央集権・官僚主導の国家体制の“CHANGE”を志す。
【ご意見板】2 件の書き込みがあります
橋下市長が「卒原発」方針について批判したそうですが、用済みの人間には容赦ない攻撃を加えるものです。飯田氏が山口県知事選挙に出馬したとき、彼が動かなかったのは山口県を地盤とする安倍総裁に「貸しを作るため」というのはあながち間違いではなかったのです。さらに関西経済界の重鎮たる関西電力会長・社長と会談する機会があっても、原発の話はスルーしたとも伝えられます。
ここにきて、大手マスコミは「争点は脱原発だけではない」と「正論」を説いているように思えます。「消費税・脱原発・TPP」を隠すために、争点の分散化に躍起になっていますが、ここは選挙の本線を見極めたいです。
維新の選挙公約がブレているという批判は、橋下市長にとっては何ら痛痒を感じないでしょう。なぜなら、「選挙とは一種の白紙委任である」、いわば「橋下」というブランドを買いなさい、と主張しているからです。
総選挙前の恒例?の北の空からの援護射撃がありますね(苦笑)。TPP、消費税大増税、原発を絶対に争点にさせたくない既得権益者には最高の贈り物でしょう。未来の党へのバッシングと安倍総裁の批判に対するバッシングもヒートアップ!