社説[尖閣領空侵犯]強硬姿勢を憂慮する

2012年12月15日 09時47分
(14時間37分前に更新)

 北朝鮮の事実上の長距離弾道ミサイルが先島の周辺上空を通過したその翌日に、今度は中国機が尖閣諸島近くの領空を侵犯した。

 中国機による領空侵犯は、自衛隊が統計を取り始めた1958年以来、初めてのことだ。

 「海監」と書かれた中国国家海洋局のプロペラ機(Y-12)が13日午前、尖閣諸島の魚釣島近くを領空侵犯した。海上保安庁の巡視船が無線で領空から出るよう通告したところ、中国機は「ここは中国の領空だ」と回答してきたという。意図的で、計算された行動だ。

 この日、中国の海洋監視船「海監」4隻も尖閣の周辺海域を領海侵犯した。海と空から、揺さぶりをかけたことになる。日本の実効支配を無視した強引で挑発的な行為であり、尋常ではない。

 中国はなぜ、この時期に、日本が反発するのを承知しながら、このような行動にでたのだろうか。

 中国問題の専門家の中には、衆院選をにらんだ示威行動だと指摘する人もいるが、その話には既視感が伴う。

 1996年3月、台湾総統選を控え、中国は、ミサイル発射演習と称して台湾沖にミサイルを発射するとともに、陸海空3軍の共同作戦演習を実施した。

 総統選には、中国が「独立派」と警戒していた李登輝氏が出馬していた。台湾に対するシグナルとして演習を実施した、というわけである。

 尖閣周辺での領空・領海侵犯には、どのようなシグナルが込められているのか。

   ■     ■

 自民党は、憲法改正による自衛隊の国防軍化を公約に掲げ、集団的自衛権の行使を可能とする「国家安全保障基本法」の制定を打ち出している。日本維新の会の石原慎太郎代表も、中国を刺激するような、タカ派体質丸出しの発言を繰り返している。

 衆院選で浮上した日本の保守強硬派に対する中国側のシグナルが、今回の計算された領空・領海侵犯、だという見立てだ。

 あえてこの時期に、空と海から「立体的なパトロール」(中国国家海洋局)を実施したということは、政治的照準を定めた行動だと見たほうがいい。それが何なのか、中国の真意を冷静に見極める必要がある。

 これ以上、行動をエスカレートさせないよう、選挙後の新政権は、あらゆるチャンネルを通じて、中国に自制を求めるべきだ。日本が実効支配している領域に、空と海から揺さぶりをかけ、強引に現状を変更しようとする行動は、極めて危険である。

   ■     ■

 外交の場で使われる専門用語に「ステータス・クオ」という言葉がある。現状とか、そのままの状態、という意味だ。平和を維持する上で重要なのは、現状を維持することである、という戒めで使われる。

 日中国交正常化40年の節目の年にパンドラの箱が開き、

さまざまな災厄が日中間に降りかかっている。もう一度、尖閣問題をパンドラの箱に収めてはどうだろうか。今こそ先人の知恵に学ぶときだ。

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