FD活動

学生目線の厳しい指導が研究への意欲を高める

学生指導はタイミングが重要

小原章裕先生率いる農学部栄養・食品学研究室では、2010年度に研究室歴代第1号となる国際学会で表彰された大学院生を輩出した。私たちが訪れると、手狭な空間に多くの学生・院生が実験を行っていた。来客の多くが「活気のある部屋ですね」という言葉を残していくとのことだが、その背後には小原先生の意図がある。
「実験系の研究室では私語をさせない所もあるようだが、うちでは実験に支障がない限り、私語も含めて部屋で話をさせている。農学部の談話室もあるが非常に狭く、研究室を学生の居場所にしている」と小原先生は語る。
また、実験室には、教員研究室につながる扉はあるが、小原先生は常に扉を開けておくオープンドア・ポリシーをとっている。「学生指導はタイミングが重要」と語る小原先生にとって、これらの効果は大きいようだ。
学生の異変を感じると、小原先生はすぐに部屋を飛び出す。

在室時は常に開いている教授室の入り口ドア

学生の「あれ?」や「それいかん!」という声を聞き、タイミング良く割り込んで指導をする。特に、院生が学部生を指導しながら詰まっている時は、院生の努力を尊重してすぐには割り込まず、指導に行き詰まった頃合いを見計らって割り込み、院生側と学部生側の双方にとって成長の機会となるように配慮する。ドアを開けておくことで、学生側も困ったことがあればすぐに入ってくる。
普段は学生を信じて任せているが、問題が生じればその場で対処し、方針を確認し、再び学生を信じて進ませる。このタイミングの良さが、学生のモチベーションを維持し、明るい研究室をつくる秘訣だ。

信頼関係の上に成り立つ厳しさ

このように述べると、非常に繊細な学生指導をイメージするかもしれないが、小原先生の指導はどちらかといえば豪傑派だ。声も大きく、机を叩きながらの指導も日常茶飯事である。ただし、そうした厳しい指導が成立する背景には、学生らとの信頼関係がある。研究室には毎月定例コンパがあり、教員や院生を含む25名全員の参加が義務づけられている。指名された2名の学生が全員の日程調整と場所の確保、当日の座席などをアレンジする。また、毎年9月頃にはゼミ旅行もあり、こちらも全員参加だ。無論、コンパもやればいいというものではなく、逆効果になるケースも多い。しかし、小原先生はこうした場で全ての学生に対し、研究指導に限らないさまざまな人生経験を語ると共に、学生らの話に耳を傾け、彼らがどのようなことを考えているのかを知る。学生の人生に本気でぶつかるのだ。
「昔は怒鳴るだけで放任していたが、最近は叱った後に理由を示してフォローする」と小原先生は語るが、学生とよく付き合い、よく観察している教員ならではの考え方であろう。こうした一連のイベントを重ねる中で、研究室における学生の社会化が進むと共に、教員側も近年の若者像を把握し、相互に信頼できる人間関係ができあがっていく。
こうした実績が評判になり、近年はきちんと叱ってくれるからこの研究室を選んだという学生もいるようである。小原先生は「自分が本学卒業生であり、良き先輩として見てくれる効果があるからでは」と語るが、それだけに限らない学生目線・学生親身の指導によって支えられている。

毎月の定例コンパ開催案内
全員参加に意味がある

インタビューに応える池田龍一さん(左)と小原先生(右)

外の世界の刺激も重要

もう1つ、小原先生の指導方針の特徴は、学生に外の世界との接触を持たせることだ。具体的には、国際と名のつく学会があればとにかく参加させ、同世代のがんばる姿を見せることだ。国内の他大学に限らず、国外の同世代の学生と接触するよう、ポスター発表の機会を見つけては、学生に「質問をして来い」といって送り出す。そして懇親会に参加させ、同世代の人との関係づくりを促す。こうした体験は院生らにとって大きな刺激となるようだ。こうした体験があるからこそ、研究室で「やってみるか?」「よし、この日までにやってこい!」という指導が可能になる。

全員の研究成果が掲示される研究室前の掲示板

外の世界との接触には、もうひとつある。この研究室では、オープンキャンパスと名城大学Dayへの参加も全員必須だ。そこで、院生らは研究の中間報告をポスターにまとめ、高校生や父母らに研究内容の説明機会を設ける。小原先生は「こんなに説明する力があったのか」と学生らの底力に驚くことも多いようだ。学生らは懸命に説明する経験から、次の研究へのモチベーションを高めるという。この研究室の前には掲示板があり、ここには全ての学生の中間報告ポスターが掲示されている。また、学会発表をした際にもポスターを作成して掲示、卒論発表の前にもポスターを作成して掲示と、その回転速度は速い。
小原先生は、名城大学の学生を「まじめで優秀。ただ、叱られたり失敗する経験がなく、人間関係が薄い」と見ており、学生を叱りながらも濃い人間関係に巻き込み、やる気を高める指導を行っている。小原先生によれば、「食品分野の研究者が減っており、大変な危機感を覚えている」とのことだが、この研究室の活発な取り組みがそうした危機を克服してくれると期待する。

大学・学校づくり研究科 中島英博委員

取材概要
日時 平成22年12月13日(月)11時00分~12時30分
取材場所 天白キャンパス 共通講義棟北 N233会議室
取材対象者
  • 農学研究科 小原章裕先生
  • 池田龍一さん(修士課程2年)
    • 第15回日本フードファクター学会(JSoFF)学術集会「JSoFF2010 Young Investigator Award(若手研究者賞)」
取材メンバー 大学・学校づくり研究科 中島英博委員、薬学部 西田幹夫委員
大学教育開発センター 楯一也、神保啓子、谷田朱

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