【コラム】

エンタープライズ0.2 - 進化を邪魔する社長たち -

173 政権交代と"の"の法則に通じる国民不在の「アジェンダ0.2」

    宮脇睦  [2012/07/24]

    新党「国民の生活が第一」

    「千と千尋の神隠し」や「魔女の宅急便」でお馴染みのスタジオジブリの作品には「"の"の法則」があると言われています。それは、タイトルに「の」が入れば大ヒットになるという法則です。「崖の上のポニョ」然り、「借りぐらしのアリエッティ」然り、宮崎駿さんの初映画監督作品の「ルパン三世」にも「カリオストロの城」としっかりと「の」が入ります。例えば、「ゲド戦記」「コクリコ坂から」など、「の」なし作品は評判が高くても、「の」あり作品ほどはヒットしていないのです。

    この法則で見れば、小沢一郎さんが作った新党「国民の生活が第一」は次回選挙の台風の目となるのかもしれません。それというのも、「の」の先輩である「みんなの党」は地方議会でも着実に議席をとり、勢力を拡大しているからです。昨年の統一地方選挙でも我が町「足立区」の地方議会で2人が当選しました。自民党を懲らしめようと民主党に投票し、それが首を絞める行為だったと気が付いた市民の受け皿になっただけかもしれません。

    しかし、「みんなの党」からは「政策」が見えません。「脱官僚」「地域主権」「脱原発依存」と掲げてはいるのですが、それが政党と重なって見えない理由は「アジェンダ」です。

    不定期シリーズ「Web屋編」

    Web業界は「0.2」の宝庫ですが、今回は不定期にお届けしている「Web屋編」です。

    東京湾の外れにある都市で「Webプロデュース業」を名乗るE社長。しかし、システム開発の下請けで細々と食いつないでいるのが実態です。ホームページにはサイト制作やシステム開発だけではなく、コンサルティングにコーチングと、Web以外にも多くの「お品書き」が並んでいます。

    彼もまた商売の原則を知らず、思いつくまま「お品書き」に書き込んでいたのです。豊富なメニューが喜ばれるのも程度問題。それは「ハンバーグ&ラーメンセット」が新メニューとして紹介されている寿司屋のお品書きを想像すればわかることです。

    ホームページの制作からコンサルティング、システム開発……までは良いでしょう。ほかにも、契約書作成代行があれば、シニア向けPC指導に、独立起業コンサルティングがあり、とどめは「ホームページなんでも相談」とあります。売れない洋品店が人生相談を始めましたと貼り紙をしているようなホームページです。

    ヒラメキはよいのにネーミングに難あり

    今のWebビジネスにおいて、ホームページを作っただけで客が来ることなどありません。ツイッターやFacebookといったSNSとの連動はもちろんのこと、それぞれのメディアに対する集客もまた重要となります。しかし、これらを結び付けて考える客はあまりいません。そこで、E社長はこれらを「パッケージ」にして適切な名前をつけることを閃いたのでした。

    これは正しい判断です。例えば、住友不動産が提供するリフォームパック「新築そっくりさん」は、秀逸なネーミングから、客は商品のイメージを容易に想像できます。また、元は政権交代を目指した民主党のスローガンであった「国民の生活が第一」も、マニフェストを精査すれば多くの矛盾に気がつくとしても、大半の国民はパッケージの外側しか見ないと見抜いていた小沢一郎さんの慧眼によるものです。しかも「国民」とすれば、公務員も政治家も含まれますからね。

    話は戻って、E社長が「ホームページ・パッケージ」に付けた名前は「ツインヘリックス・コンポーネント(仮名)」

    「ヘリックス=螺旋」で、ホームページとSNSが絡み合うイメージと説明しますが、客が混乱する「アジェンダ0.2」です。パッケージ化は、客にとってわかりづらい商品やサービスをわからせるためのアプローチです。ところが、それを表す名前がわかりづらいという本末転倒ということで、みんなの党の「アジェンダ」と重なります。

    結局、なつかしい風景

    自民党政権時代に信用されなくなった「政権公約」を、包み紙だけを替えたのが民主党の「マニフェスト」。これらと一線を画すつもりで名付けた「アジェンダ」でしょうが、国民が意味を理解できなければ意味のない自己満足です。そもそも、肝心なことは「政策の中身」であるべきです。

    そうでなければ、「公約」でも「マニフェスト」でも構わないものを、わざわざ日本人の馴染みのないラテン語の「アジェンダ」を持ち出して言葉の新奇性をアピールすることで、国民の視線を本質から逸らせる狙いがあったのではないかと邪推してしまいます。我が町、足立区から当選した2人の「みんなの党」の地方議会議員には自民党の影がチラついていますから。

    今の政局は「自民党」というパッケージで包むと、とてもわかりやすくなります。新党「国民の生活が第一」は旧自民党で言うところの「小沢派」で、「みんなの党」は「渡辺(喜美)派」、派閥の長が追われた「亀井派」に「平沼派」、民主党の内部に「鳩山派」がいて、その民主党の野田佳彦首相率いる主流派は、「本家」自民党と手を組んだことで「自民党 野田派」と揶揄されております。結局、政権交代とは「自民党の拡散」だったということです。

    ちなみに、E社長の「ツインヘリックス・コンポーネント」は当然のように鳴かず飛ばず。そこで次に考えたのが「ギャラクシー・エクスプロージョン(もちろん仮名)」

    説明するのも馬鹿馬鹿しいのですが、絡み合うイメージをDNAと重ねて、そこから「銀河」に飛躍する妄想系のネーミングで、想像どおり、今日も下請け仕事に勤しんでおります。

    エンタープライズ1.0への箴言


    「体を表す名前がベスト」

    宮脇 睦(みやわき あつし)

    プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

    筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」

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