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遠隔操作事件 捜査の問題検証結果公表
12月14日 19時25分

遠隔操作事件 捜査の問題検証結果公表
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遠隔操作ウイルスに感染したパソコンなどから犯行予告が書き込まれた一連の事件で、4人を誤認逮捕した各警察本部が、捜査の問題点を検証した結果を公表しました。無実を訴える人の供述について十分な吟味が行われなかったなど、各県警本部に共通する4つの大きな反省点と教訓が明らかになりました。

遠隔操作の可能性を認識不足

各警察の報告書では、今回の事件で浮かび上がった反省点や教訓の1つとして、パソコンが遠隔操作される可能性などに対する認識不足があったとしています。
このうち、三重県警では、遠隔操作を可能にするウイルスについての知識が十分無かったなどとしているほか、警視庁では、逮捕された男性のパソコンに脅迫メールのファイルが残されていたことや、パソコンのウイルスチェックをしても異常が見つからなかったことから遠隔操作によるものと認識できなかったとしています。
こうした結果、各警察では遠隔操作の可能性を十分に念頭に置いた捜査方針を立てることがなく、IPアドレスを過大に評価してしまい、そのほかの証拠に対する裏付け捜査が徹底されなかったとしています。

部署間の連携不足

捜査を行う部署とパソコンの解析など情報通信を担当する部署との間の連携不足を指摘しています。
三重県警では、捜査を担当する部署から情報通信を担当する部署に対し、捜査情報や男性の供述内容、それにパソコンの動作に関する詳しい情報を提供するなどして緊密に連携していれば、より積極的な分析が行われたはずだと指摘しています。
また、神奈川県警でも捜査幹部とパソコン解析などを行う部署との実質的な連携が図られていなかったとしています。

逮捕時の検討不十分

逮捕する際にその人物の動機の解明や、犯人としての適格性についての検討が不十分だったことを指摘しています。
三重県警では身柄を拘束する前に、男性に書き込みを行うような動機があったかどうかなどをより多角的に検討する余地があったとしています。
神奈川県警では逮捕された少年の生活実態やパソコンに対する知識、それに書き込みの被害を受けた小学校と少年との関連性の確認などを行っていなかったとしています。
また、警視庁では遠隔操作に対する知識などを事件の捜査に関わっていたすべての捜査員が十分持っていたわけではないことを考えると、より慎重に逮捕の必要性を判断する指導を徹底することが必要だとしています。

供述の吟味が不十分

今回の遠隔操作事件では、容疑を否認し続けた男性を逮捕しただけでなく、実際は無実だったにもかかわらず、取り調べの過程で逮捕された男性が容疑を認める供述をするという事態も起きていました。
各警察の報告書では、容疑を認めた人の供述や、否認している人の供述についての吟味や裏付け捜査が不足していたことも指摘しています。
警視庁では、逮捕した男性の犯行を認める内容の供述の中に、真犯人しか知り得ない、いわゆる「秘密の暴露」と言えるような内容がなかったことから、自白の真偽について慎重に検討すべきだったとしています。
また、男性が、脅迫メールの送信がウイルスによる可能性があることや、同居していた女性がメールを送ったと思い込み、女性をかばおうとして認める供述をしたことを捜査員に伝えていたことを明らかにし、自白の信用性を疑う余地が多くあったとしています。
一方、神奈川県警では、逮捕された男性の供述について、未成年である場合の特性とされる、取り調べに迎合して犯行を認めた可能性を視野に入れて十分に検討が行われたとは言い難いとしています。
また、取り調べにあたった捜査員が容疑を否認している男性に対し「『こういう理由で自分がやったのではない』と説明をしたらどうか」などと問いただしたことについて、未成年であることを考えると、無実だった男性をことさら困惑させた可能性があり不適正な取り調べだったと結論づけました。
一方、報告書では、ことし10月に警察が改めて話を聴いた際に、男性が「取り調べの際に『否認をしていたら少年院に入ることになる。逆送されると裁判になって実名報道される』などと言われた」と話していたことも明らかにしました。
これについて、取り調べを担当した捜査員は「少年審判を受けるまでの手続きなどを説明したが、そのような言い方はしていない」と話しているということですが、神奈川県警は、「少年院に入ってしまう不安を助長させたおそれがある」と指摘しています。

検証受け警察庁が指示

事件の検証結果を受けて、警察庁はすべての捜査員にサイバー犯罪捜査の知識を身につけさせ、パソコンの解析結果だけにとらわれない捜査を徹底することや、供述の吟味を専門に行う担当官を置くなどして、うその自白の可能性も含めて供述の内容を十分検討すること、それに、犯人でない可能性を視野に入れた捜査についても徹底することを全国の警察に指示しました。
警察庁は「今回の事態は警察捜査に対する国民の信頼を著しく損なうものであり、二度とこうしたことが起きないよう再発防止に万全を期したい」としています。

事件の捜査は

この事件で4都府県の警察本部は合同捜査本部を設置し、およそ160人態勢で真犯人の特定に向けた捜査を進めています。
誤って逮捕された4人のうち3人は、インターネットの掲示板「2ちゃんねる」から無料のソフトをダウンロードした際に遠隔操作ウイルスに感染したとみられています。
一連の遠隔操作事件では、発信元の特定を難しくする匿名化のソフトが使われていましたが、この「2ちゃんねる」への書き込みの一部は匿名化されていませんでした。
合同捜査本部は真犯人が直接書き込んだ可能性もあるとみて、先月、「2ちゃんねる」のサーバーを管理する札幌市の会社を捜索しました。しかし、これまでのところ、「2ちゃんねる」の運営者側からサーバーの記録を調べるのに必要なパスワードなどの情報が得られておらず、接続記録は確認できていないということです。
一方、事件のあと、真犯人を名乗る男から東京の弁護士などに送りつけられた犯行声明のメールの1つは、アメリカのサーバーを経由していたことが分かり、合同捜査本部は接続記録を調べるため捜査員を現地に派遣してFBI=アメリカ連邦捜査局などに捜査協力を求めています。
また、無差別殺人などを予告する書き込みはドイツやイギリスなどのサーバーを経由していたということで、合同捜査本部は今後、ヨーロッパにも捜査員を派遣することを検討しています。

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