『Sister Panic』 1 異常だ。おかしい。普通じゃない。満足もしていない。なのに、なんで俺は、こんな ことをしているんだろう。分からない。成り行きって言う言葉が、今は一番しっくりす る。けど、本当はそうじゃないことを、俺の中のなにかが知っている。ともかく、始ま りはこんなはずじゃなかった。 本庄辰哉。タツヤ、と読む。俺の本名だ。東京の某大学一年生。身長172cm、体重 64kg。運動神経は中の下、成績は、まぁ中の上。顔は・・・どう自惚れても上の下、 中学以来の腐れ縁である浩介によれば「美容整形へ行って、思い切りおしゃれして」中 の上だそうだ。経営を専攻してはいるが、特になんの望みもない。卒業したら親父の知 り合いがやっている会社に入れて貰って、サラリーマンでもしようと思っている。趣味 といってもこれといってなく、まぁパソコンは人並みに使えるし、英検も準二級は持っ ている、何とかなるだろう。その程度の、よくあるタイプの人間というわけだ。 言ったとおり、俺はいま大学生だ。地元の一流大学は無理だが三流校はイヤ、という わけで田舎から上京してきた。で、そうなると下宿先が問題になる。本当はどっかのア パートでも借りるつもりだった。友達と共同で使うのも良いだろう。寮に入ってもいい。 ところが、今俺は「女の」部屋にいる。つまり、同棲中というわけだ。いや、世間に ないことはない話だろう。およそ色男の部類ではない俺だって中高時代、彼女の一人く らいはいたし(キスまでしかしてないけど)、大学に入って合コンで気の合った女の子も いる(その場限りだけど)。 そのうちの一人の家に転がり込んでいるとしも、それほど不思議な話ではないはずだ が、俺の場合はその女の正体が普通じゃない。というのが、相手の女というのは、同じ 大学に通っている二年先輩で、名前を本庄有紀といって・・・早い話、俺の実の姉なのだ。 「なんだ、そういうオチか」「姉貴と同棲して何が変なんだ?」 そういう声が聞こえるかも知れない。けど、俺と姉貴はやっぱり変だ。というのはつ まり、俺たちが、『実の姉弟』でありながらいわゆる『同棲中の男と女』の関係でもあ る、ということだ。世の人は俗に近親相姦とそれを呼ぶ。 はじめて俺が姉貴を抱いたのは、と言うか俺が姉貴に抱かれたのは、俺が高校三年、 姉貴が大学二年生の時だった。夏休みの最後の日、地元の友達と飲み会をしてぐでんぐ でんに酔っ払った姉貴は、帰ってきて俺に散々絡みまくった。そして、苦労してベッド に連れ込んだ途端、姉貴に襲われたのだ。姉貴は完全に酔った口調で、こう言った。 「タツ、あんた、勃(た)ってるじゃない」 姉貴の目は、俺の下半身に向かっていた。ニヤリと悪魔的に微笑んだ姉貴は、逃げだ そうとした俺を後ろから抑えつけて、ズボンを脱がし、そして。 ・・・つまり、そういうことだ。言い忘れていたが、俺の姉貴は、まず美人の部類に 入る。身長165cm、体重4×kg。スタイルも結構いい。正直言えば以前から姉貴を 「女」として見たことがなかったわけじゃない。けど、それは、世の「弟」くんが全て 経験していることじゃないか?一つ屋根の下で思春期を迎えた男が、目の前の「若い女」 に興味が向かないなんて、有り得るのか? 俺はあの日より以前は、ノーマルだった。が、あの日あの瞬間、姉貴がトチ狂った行 動をしてきたことで、俺は友人に借りた某漫画・・・未成年が見てはいけない奴だ・・・ と同じような気持ちになってしまい・・・要するに、できてしまったのだ。 そして俺は、「少年」を捨てた。もっとも姉貴は、その時初めて知ったんだけど高三 のときの彼氏、いわゆる「憧れの先輩」に、半ば騙されて一回だけしたことがあったそ うだ。あとでその話を聞いたとき、それまで平然と振る舞っていた姉貴を、ちょっと尊 敬した。 だが、言い訳させてくれ。実の姉貴と恋に落ちるほど俺は堕ちてない。俺が高校生の 間に女を抱いたのは、姉貴を含めてあの時一回きりだ。他の女の子とできなかったのは 「can not」だが、姉貴は「do not」だ。つまり俺としては、あれは一夜限りの事故っ てことで、ノーマルに戻るべく努力してきたんだ。姉貴の方だって、それで納得してる って、そう思ってた。ところが、だ。 「タツ(俺のこと。タッちゃんが進化したものだ)、あんた、もう下宿先決めたの?」 あれは・・・合格が発表されて一週間くらいしてからだろうか。飯を食っているとき に、母親が話しかけてきた。 「ん?まだ。浩介についでに捜して貰ってるけど・・・」 「ああ、そういえば直江君も東京だったわね。一緒に住むの?」 「わかんね。けど、やっぱし近くの方がいいかなって言って」 「そうね・・・。ね、有紀のトコじゃいやなの?」 ビクッてした。俺だってその可能性は考えた。けど、あんなことがあった姉弟だ、同 棲したら何が起こるか分からない。俺としては一刻も早くノーマルに戻って、新しい大 学生活を楽しみたいのだ。 「べ、別に良いけど・・・。で、でもさ、やっぱし東京まで行って姉弟で暮らすのもなん かさ、どうせなら友達同士のほうが・・・」 「そう?二人が一緒だったら、こっちとしても色々助かるのよ。仕送りとか、電話とか」 「・・・・・・浩介に悪いし」 「あの子のいるアパート、一人分空いてるらしいのよ。あの子の部屋は一応一人用だけ ど大きめでしょ?だからあそこにあなたが入って・・・」 「姉貴はどう言ってんだよ?」 「別にいいよって」 「・・・・・あっそ。考えとく」 できるだけ表情を変えずに、俺は飯を食い終わった。そして、歩調を狂わせないよう 注意しながら二階の自分の部屋へ行き・・・携帯で姉貴を呼びだした。 プルルルルル、プルルルルルル 「はーい、もしもし」 「姉貴!」 「なんだ、タツ?どうしたのよ、何怒ってんの?」 「なんで俺が姉貴と同棲しなきゃいけないんだよ?!」 「え・・・ああ、なんだ、その話」 「なんだじゃないだろ!なんでOK出したんだ?」 「別に良いじゃない、姉弟なんだし。何よ、なんか悪いことでもあるの?」 「分かってるだろ!」 「あんなことがあったから?」 「・・・・・・姉貴はっ、平気なのかよっ!?」 「べつにぃ。ま、確かにね、あんたには悪いと思ってるわよ、あれでドーテー捨てさせ ちゃったんだし。あたしは、高三のときのがあるからいいけどね。でも、あたしのこと は気にしないでいいわよ、妊娠したわけでもなし。まぁ良い思い出って訳でもないけど、 後悔もしてないわ。なに、それともあんたはそんなにいやだったの?」 「・・・・・・俺は、ノーマルだよ」 「あ、そ。ま、別に良いわよ、あたしはただあんたの下宿代浮かせてやろうって思った だけなんだから。別に嫌なら無理するほどのことじゃないわ」 「・・・・・・」 「言っとくけど、誤解はしないように。あたしだって付き合ってる男の一人や二人、い るんだからね。でも困ったことがあったら電話しなさい、優しいお姉さまが色々教えて あげるから。・・・これ、携帯?もう10分経ってるし、切るわよ?」 「・・・・・・ああ。ありがと」 結局、俺は姉貴の部屋に下宿させて貰っている。家事は分担、家賃と生活費は7:3 で楽させて貰ってるから、まぁ一人暮らしするよりはよっぽど安くつく。中学以来の腐 れ縁、直江浩介も同じアパートに住むことになった。ちなみに浩介は悔しいが俺よりレ ベルが上の私大に通っている。 あいつはいつも俺にこう言ってくる。 「いいよな、お前は。下宿代は安いし、家事も半分、しかもキレイなお姉さまと一緒に 住んでられてよ」 そう、それは確かだ。だが、困ることが一つだけある。浩介には口が裂けても言えな いことだが・・・単刀直入に言って、姉貴との関係のことだ。俺も姉貴もそんなに「好 き」な方じゃないから、毎日毎日抱き合ってる、なんてことはない。けど、姉貴が授業 なりバイトなりで嫌なことがあったりすると・・・必ず、鬱憤晴らしの手伝いをさせら れるのだ。 いや、ちょっと待ってくれ。確かにその方法は姉弟の間では普通じゃないが、異常な のは姉貴だけで、俺はその相手をさせられているだけなんだ。信じてくれ、俺があくま で「ノーマル」なんだってこと。 「タツ、あんた、明日の授業、いつから?」 「昼前から・・・っておい、またかよ?一昨日もしたぞ?」 「今日さ、また店長に散々嫌味言われて気ィ立ってんのよ。いいでしょ、どうせあんた 彼女もなくて暇持て余してんだから」 「あのなぁ、姉貴。前から言おうと思ってたけど、姉弟でこんなこと・・・」 「さっさと脱ぐ。ゴムちゃんと着けてよ、あんたの子供なんて産みたくないんだからね」 「・・・人の話聞いてる?っつーか、そんなこと言うくらいならちゃんとした男としろ よな、子供産んでやってもいいような」 「やぁよ、まだ若いのに。それに、好きでもないのに体だけ貸して貰うの、悪いじゃな い」 「俺はいいのか?」 「年功序列。女尊男卑。それがあたしのモットーです」 「・・・・・・・基本的人権の危機だな」 「シャーラップ!なんなら家賃、割り勘にする?」 「・・・・・・・・・・・・」 俺は姉貴の奴隷か? 数え切れないくらいやってきたけど、やっぱり罪悪感を伴う興奮は、表には出さない けど最初の時と同じだ。Cカップぐらいの、大きすぎも小さすぎもしない綺麗な乳房。 健康的な程度に焼けた肌と四肢。そして、布団の中の、茂み。 布団に入る前は、「またかよ、バカ姉貴」。けど、正直言って行為自体は・・・俺も 嫌いじゃない。姉貴の乳首を口に含む。舌で転がしながらツンと尖ってくる感触を確か める。姉貴ののどから微かに声が漏れた。 「あん、なによぉ、嫌がってたわりには、辛抱ないじゃない」 「手っ取り早く終わらせてやるよ」 なんだかんだ言っても、こうなると俺のモノはとっくに臨戦態勢に入っている。いく ら姉とはいえ、彼女のいない健康男子にこの状況で我慢しろと言う方が無理だろう。 「何いっちょまえの口たたいてんのよ?溜まってるくせに」 言い方が気にくわなかったらしい。姉貴の手が伸びて俺のモノを掴む。姉貴は昔、ピ アノで結構いいとこまで行っただけあって、指が長い。袋から棹へ、その指で撫でられ ると、俺はいつもさっさとイキそうになってしまう。 「うっ。姉貴、まって、それ、反則・・・」 基本的に姉貴は俺だけを歓ばすような、たとえばフェラとかパイズリとかは絶対にし てくれない。しかし、指遣いはホントに巧い。ビニールの上からだけど、柔らかい指で 微妙な力のいれ具合でしごかれたりすると、ぞくぞくするほど気持ちがいい。 「あたしをなぶろうなんて、百年早いのよ・・・。え、ちょっとタツ、どこ触って・・・ キャッ」 俺だって、やられっぱなしじゃつまらない。乳首への攻撃は一度中断して、俺は右手 を姉貴の後ろに回した。姉貴が驚いて棹を手放した。危ない、これくらいでイってしま っては面目丸つぶれだもんな。 姉貴の尻。ゆっくり撫でてみる。柔らかい。これが、男と女の違いってヤツだ。 「あのさ、これ、漫画で覚えたんだけどよ」 姉貴の尻をゆっくり撫で回しながら、穴に指を入れる。指が姉貴の体に入る。 「ひっ。い、いやッ・・・あんたね・・・つ、使う相手も、いないくせにッ、よ、余計 なことッ、あッ、いやっ、ちょっ、タッ、タンマッ!な、中で動かさないでよッ!!」 姉貴が声をあげる。もちろん、本気で嫌がってるんじゃない。しっとりと前が濡れて きたのを感じながら、俺はなおも指を動かしてやる。 「や・だ・よ。姉貴も結構喜んでんじゃん」 「バ、バカッ!ちょ、あ、あんた、やっ、やりすぎッ」 ぐっ、と俺の棹が握りしめられる。そのまま上に引きずりあげられて・・・ 「うわッ、ちょッ、姉貴、無茶すんなッ!」 「あ、あたしだけ、イかそうなんて、生意気なのよ!」 言った次の瞬間、俺のモノはすでに姉貴の体の中に入っていた。姉貴の体は既に濡れ きっていて、完全に勃起したモノがすんなりと入った。姉貴の腰が上下左右前後、自在 に動く。これが、最高だ。突然で驚いたけど、反対する理由はない。 「ちょ、ちょっと、まてよッ、おいッ!ひっ、」 「我慢は体に悪いわよ!はあっ、ああっ、ああんっ」 「や、やか、やかましいッ!い、いっ、」 イく!!(フォント×1.4倍) 「だいぶうまくなったじゃない?」 「お陰様で」 「・・・・・・・・・ねぇ、タツ」 「んあ?」 「あんた、初恋って、経験済み?」 「・・・・・・はぁ?なにそれ?」 「答えなさいよ」 「そりゃぁ、小6とか中学の時にも好きなヤツはいたし。高校の時は、ほら、麻子とけ っこうなとこまで行ったし。わかんねえけど、したんじゃねぇの?」 「あっそ。・・・やっぱそんなもんかぁ」 「何?なんかあるわけ?」 「・・・別に。ちょっと聞いてみただけ。・・・明日、学校でしょ?早く寝なさいよ」 「誰かの相手してなきゃ、とっとと寝てるよ・・・ぐはっ」 最後のは、俺が思いきりみぞおちにエルボを喰らわせられた音だ。俺は腹を抱えて呻 きながら、とりあえず寝る努力を始めた。 ピピピピピピピ・・・・・・ 目覚まし時計の音で目を覚ます。横で眠りこけている姉貴の頭を押しのけて時計のア ラームを止めに行く。・・・10時25分。 「・・・・・・やべっ!」 まったく、姉貴のせいだ!あわてて俺は布団を飛び出し、パンツ一丁の状態からズボ ンをはきつつシャツを着て、携帯をひっつかむとカバンに放り込み、靴下もはかずに玄 関に飛び出した。その時、姉貴がゆったり上体を起こして、寝ぼけたような声をかけて きた。 「ん〜?学校?」 「授業あるから、もう出るぞ!ちゃんと鍵かけとけよ!帰りはバイト寄るから!」 「はいはい、しっかり勉強しておいで、愚弟くん」 「やかまし!」 姉貴に、もう一度昨日の質問の意味を聞こうかと思ったが、時計を見てやめた。10 時35分。駅はここから歩いて12分、電車は44分だ、走って間に合わないことはな い。ここで貴重な時間を失うわけにはいかない! 「じゃあな!!」 そう叫んで家を飛び出した。しかし・・・・・・なんだったんだろ、昨日の質問。単 なるいつもの嫌がらせか?それにしちゃ、様子が変だったけど。 なんとか遅刻せずに教室にもぐりこみ、さらに襲い来る睡魔との激しい攻防を繰り返 したあと、俺はバイト先に向かった。ハンバーガーがメインのファースト・フード店だ が、近所にコンビニもあるし、この一週間ほど客の入りは激減している。まぁ、バイト の身としては給金にさえ響かなければ暇なほうがありがたいのだが。 「辰哉ァ、遅いぞぉ」 制服に着替えて店にはいると、先に来ていた浩介が声をかけてきた。身長は俺より少 し高め、眼鏡をかけた秀才タイプで、実際俺より頭がいい。料理も俺よりうまくて、姉 貴と同棲する前はこいつの世話になるつもりだったというのはそういう理由もある。 「いいじゃん、どうせ客入ってないんだし」 「今出てったとこだよ」 「何人?」 「ついさっき出ていった姉ちゃん二人と、しばらく前に高校生が三四人」 「昼時にそれだけか?・・・・・・少ねぇ・・・」 「それは言わないお約束」 テーブルを拭いたり、イスをなおしたりしながらいつも通り、バカ話で盛り上がる。 お前の大学のあの娘はどうなった、いやとっくにお手つきだった、そういえばあの漫画 ・・・ 「あれ?おい、辰哉。あれ、有紀さんじゃないか?」 話題を遮って浩介が窓の外を指さした。見ると、ショートカットの女がペットボトル のお茶を飲みながら、なにやら男と親しげにしゃべっている。 「あ・・・あぁ、姉貴だ」 ン?なんだ、この違和感は?まぁたしかに姉貴を街で見ることなんてあんまりなかっ たし、まして男連れのところを見るのははじめてだ、そのせいだろう。・・・たぶん。 「相変わらずキレイだよな、有紀さんって。まったく、どうしてあの人の弟がこれなの かねぇ?全く、あの人と同棲なんて、羨ましい限りだよ」 わざとらしく浩介がこちらを見やる。浩介は昔から姉貴のファンだった。付き合いが 長いから姉貴の正体も知っているはずだが、一度は冗談混じりながら告白したこともあ ったはずだ、むろん一蹴されたが。それでも浩介は「有紀さん」ファンを自称している。 「ハッ、あんな姉貴がよけりゃぁいつでも譲ってやるよ。お前がマゾでもない限り、三 日でいやんなること請け合いだぜ」 「強がるなって。で、お前、有紀さんの相手知ってるのか?結構格好いい人じゃないか」 「いや、誰かと付き合ってるのは知ってたけど・・・」 確かに、格好いい。身長は180cm強、やせ形のスポーツマンタイプだ。バスケット とかやっていたら似合うだろう。顔はよく分からないが、遠目には充分格好いい。ちょ っと染めているらしい茶髪が軽い感じだが、全体として悪い印象は受けない。 「どうしたい、タッちゃん。お姉さまが男にとられて寂しいか?」 「はぁ?なにいってんだ、おまえ?」 口だけで応対しながら、俺は姉貴たちから目を離せなかった。二人は楽しそうにしゃ べりながら通りを歩いている。手に袋を提げているのは、おそらく近くのデパートで買 い物でもしてきたのだろう。 (結構・・・おしゃれしてるよな、姉貴) つまり、本気だってことだ。何となく、変な感じ。店の中から見ている限り、姉貴は 男と一緒に幸せを満喫している可愛い女の子だ。家で見慣れている横暴な姉貴とはイメ ージが違う。それが、なにか・・・なにか、変な感じだった。 「・・・あれ?あの人って、そういや、うちの大学の人かな?」 ふいに浩介が言い出した。浩介もどうやら自分の憧れの人が男と一緒に歩いていると いうのは心中穏やかでないらしく、二人の様子を観察していたらしい。 「知り合いか?」 「会ったことはないけど・・・楠本さんじゃないかな?バスケ部の主将で、かなりの前 の学内通信で、紹介されていたような・・・気がしないこともないこともないような気 がする」 最後の訳の分からない否定の連続は、浩介が自信がないときによく使うセリフだ。 「へぇ、バスケ部か。らしいな」 「あぁ。けど・・・あの人、うちの、ミス・J大と付き合ってるって聞いたんだけどな?」 「ミス・J大?」 「井上瑞希っていう、超美人。写真集のモデルにもなってるらしくて、頭はともかくス タイルと顔は抜群だな。俺も見たことあるけどさ、先輩に『あいつにはミスタ・J大が くっついてるからダメだ』って言われたんだよな」 「それが、あの楠本とかいう人か?」 「ああ。けど・・・あの人も趣味いいよなぁ。井上さんのりかえて有紀さんかぁ、ヤッパ 人間は顔か?嗚呼、人間とはかくも、外貌に弱いものなのか。ここに百世に稀なる天才 児が不遇をかこっておると言うに、来たりて慰める美女の一人もおらぬとは!嗚呼・・・」 大げさに天を仰ぐ浩介。たまにこいつが陥る妄想だ、ほっといても構わない。 「ほら、猿芝居やってないでさっさと仕事するぞぉ」 俺はとりあえず仕事に戻った。けど、なんか・・・・・・妙に苛立つ。 その日、俺が家に帰ると姉貴は先に家に帰っていた。俺は何となく今日のことを言い づらく、姉貴たちを見かけたことは言わずにおいた。なんでそんな気分になるのか、俺 にもよく分からなかった。 2 特にさしたる事件もなく、俺の日常は過ぎていった。姉貴の紹介で俺は楠本さんにも 会った。思った通りの爽やかスポーツ青年だった。前に見かけたときと同じ変な不快感 があったけど、それは俺がもともとスポーツ嫌いだからだろう。野球もサッカーもバス ケットも人並み程度の知識は持っているが、好んで観ようとは思わないし、ひいきのチ ームもない。バリバリのスポーツ系とそりが合わないのは仕方がないのだ。 「姉貴、明日の飯、どうすんだ?」 「え、なんで?」 「言ってたろ?木村たちが遊びに来るんだよ。久しぶりだし、浩介とかと一晩騒ぐから」 「あ、そっか。ン〜、明日は陽介と映画だから、たぶん食べて帰るわ。知ってるでしょ、 『○と○尋の神隠し』」 陽介、楠本さんのことだ。 「・・・・・・帰りは?」 「昼間ちょっと補習あって、それからだから・・・10時にはならないと思うけど」 「そ、じゃぁ俺のほうが遅いな。・・・じゃ、俺そろそろ寝るわ」 なぜか知らないが、「楠本陽介」の名を聞くたび、俺はどうも変にいらいらする。い や、そんな明確なものじゃないが、何となく気持ちが落ち着かなくなるのだ。 「・・・姉貴」 「ん?」 「楠本さんと・・・どこまでいってんの?」 「・・・何よ、いきなり」 「べつに。けどさ、結婚とか、考えてるわけ?」 「・・・ばぁか、まだホテルだって行ったこと無いわよ。・・・純情な乙女に何言わす のよ?まさかあんた、いっちょまえに妬いてたりする?」 「冗談!!・・・けど、結構長続きしてると思ってさ、飽きっぽい姉貴にしては」 「うるさいわね、さっさと寝なさいよ」 「へいへい、失礼しやした」 ・・・・・・妬いてる?俺が?まさか!なんでそんな必要がある?確かに姉貴は俺の 初めての女かも知れないけど、俺はあくまで被害者だぜ?ありえない・・・絶対に。 木村真一、後藤優介、池内俊。三人とも高校の時以来の友人だ。頭脳プレイヤー(?) な俺や浩介と違って木村は柔道、後藤と池内は野球と、ばりばりスポーツ系だが、その わりには馬が合って、地元では浩介と五人でいつも行動していた。 新宿で待ち合わせて、その付近をぐるぐる回り、さて飯をどこで食おうか、と相談し 始めた頃だった。確か、アルタに「いいとも」が映っていたから、十二時過ぎだろう。 「辰哉、今日、有紀さんは?」 鉄橋を渡っているときだった。浩介がふいに声をかけてきた。 「姉貴?午前は補習で、午後は楠本さんと『千と千○』観に行くって言ってたけど」 「・・・なぁ、あれ、楠本さんじゃないか?」 浩介が指さした方向には、確かに駅に向かって横断歩道を渡る長身の青年の姿があっ た。遠くてよく見えないが、確かに楠本さんに似ている。浩介には、近視のくせにめざ とく遠くにいる知人を見つけるという特技がある。だが、あのひとは、 「なんだ、どうした?」 木村や後藤が割り込んでくる。 「いや、あの人がさ、もしかしたら有紀さんと付き合ってる人じゃないかなって」 「へぇ、どいつだ?」 「あの、横断歩道渡ってる、背の高い、赤いシャツ着た・・・」 「女連れの?」 そうなのだ。その、楠本陽介らしき人物は、女連れなのだ。となりに、小柄ながら遠 目にもけっこうな美人と見える、妙齢のご婦人を連れておられるのだ。 「結構美人だな、あの連れ。けど、あれ、どう見ても恋人同士だぜ?有紀さんと付き合 ってるって、二股ってことか?」 後藤は言いにくいことをずけずけ言う。 「・・・人違いだろ。行こうぜ」 俺は、やっとそれだけを口にした。 「いいのか、辰哉?」 「なにが?別にあれが楠本さんだって決まった訳じゃないし、万一そうだとしても、そ れは姉貴との問題であって、俺の知ったことじゃない」 できるだけ平然と、言えたつもりだ。けど、俺自身、納得していないことは知ってい た。 「いいのか、ほんとに?」 「だから、いいって。それより、飯どうする?」 俺は、なにか知らないが胸の奥から湧いてくる不快感を無理矢理抑えつけて言った。 立ち去らなくては。早くこのことを忘れなくては、俺は、何をしてしまうか分からない。 「そうか、お前がそう言うなら別にいいけど・・・・」 浩介は眼鏡の奧で色んな表情を浮かべながら、俺の耳元で、囁いた。 「あれ、たぶんミス・J大。井上瑞希さんだ」 飯は、結局そば屋ですませた。六時にはアパートの近くの焼き肉屋に予約を入れてあ るから、それまで時間を潰さなくてはならない。木村たちは今夜は浩介の部屋に泊まっ て、明日の朝一番に田舎に帰る。遊ぶ時間はたっぷりあるから、東京案内をさせられた。 新宿、渋谷付近を適当に歩き回る。これが女の子ならショッピングを楽しむのだろう が、そんな殊勝なヤツは一人もいない。久々に五人でバカ話に花が咲いた。 だが、俺は何となく気分が重かった。浩介の最後のセリフが引っかかる。つまり、楠 本さんは、井上という人と別れずに、姉貴と付き合っていたと言うことか?後藤が言う ように、二股で。だとしたら、姉貴は半年間、騙されていたのか?それは、それはつま り、 「───あ、浩介」 「ん?」 もう、五時前だった。俺たちは焼き肉屋に向かうべく、タクシーに乗り込もうとして いるときだった。 「悪い、先行っててくれるか?ちょっと買い物すませてから行くから」 「はぁ?買い物ぉ?」 「忘れてたんだ、すぐ追いつくから。何なら、先に食べ始めててくれてもいいから」 「分かった、早く来いよ。すいません、運転手さん、行って下さい」 なにか文句を言いかけた後藤を抑えて、浩介が言ってくれた。サンキュ、親友。 俺が何をしたいのか、自分でもよく分からない。だが、ともかく、俺は一目散に走っ ていた。姉貴が今日行くと言っていた映画館は、この近くだ。そして、それは五時まで だったはずだ。急げば、まだ会えるはずだ。 3 「あ、姉貴」 映画館を出て、駅へ向かう途中にある、小さな公園。近道しようと中に入ったら、そ こに、姉貴たちがいた。姉貴たちも、近道をしようとしていたらしかった。 「タツ?」 驚く姉貴。当然だろう、デートの最中に、弟が突然息を切らせて走って乱入してきた ら、誰だって驚く。 「どうしたの?」 楠本さんの声も多少とまどい気味だ。 「い、いや、偶然、木村たち、案内してて、こっち来たから、ちょっと、こっちまで」 「何で走ってんの?」 俺は、息が上がってる。予想外の所で会ってしまったせいもあって、俺の思考回路は まともに回転していない。いや、そもそも、俺は何をしたくて走ってきたんだ? 「え、い、いや、」 「何なのよ?」 言い訳を考えつく前に、口が動いていた。 「ちょ、ちょっと、楠本さんに、聞きたいことがあって」 「俺に?」 ますます楠本さんの顔が訝しげになる。俺は、チラリと姉貴の顔を見た。言っていい のか?間違いだったらどうする?いや、間違いならそれでいい・・・・・・もし、万が 一、本当だったら?俺が言っていいのか?姉貴は、姉貴はそれで喜ぶのか? 「陽介に用って、どういうことよ?」 その時、猛烈な不快感が胸の奥からこみ上げてきた。前から姉貴が「陽介」と楠本さ んを呼び捨てにする度に感じていた、微かな不快感。それが、何十倍にもなって突然俺 を襲った。畜生、あんたのせいだぞ。俺は楠本さんを睨みつけ、そして、息を整えて言 った。 「今日の昼間、新宿にいませんでした?」 楠本は、瞬間息を呑んだようだった。俺は躊躇した。これ以上言って言いものか?だ が、胸の奥の不快感は容赦しない。楠本への疑惑は、ほとんど確信に変わった。こいつ は、姉貴を騙していた。俺は、突然、ほとんど衝動的な怒りに駆られて、叫んだ。 「井上さんとデートですよね!?」 「・・・・・・!!」 「井上?ちょっと、陽介、どういうことよ?」 姉貴の声がとんがる。「前の彼女」の話は聞いていたらしい。 「・・・・・・辰哉くん、言っている意味が分かんねぇんだけど・・・」 しばらくして楠本が洩らしたのは、そんなセリフだった。ますます不快になる。 「白きる気っスか?陳腐なセリフですね」 「俺は午前中、大学で練習を・・・」 「知るかよ!!ともかく俺は、今日の十二時過ぎに、新宿で、井上さんといちゃついて る、おたくを見たんだ!」 「人違いじゃ・・・」 「双子の兄弟でもいるのか?俺の記憶じゃ、今のおたくと同じ服着てたよ。それとも、 偶然か?赤いシャツ着て、Gパン履いて、黒いカバン担いで、180cm以上で、茶髪で、 井上さんと歩いてる男が、そんな何人もいるのか?」 黙っている。その表情は、ちょうど街灯の逆光で見えない。 「ちょっと陽介、何黙ってんのよ?タツが言ってるの、ホント?」 「・・・・・・・・・・るせぇ」 「え?」 「うるせぇよ、がたがたわめくな!!」 ビリッと、空気が揺れたみたいだった。勝ち気な姉貴が気圧されて半歩後ずさる。 「・・・・・・お前、何様のつもり?」 顔を上げた楠本は、いつもの爽やかスポーツ青年じゃなかった。 「俺と有紀の問題だ。お前がしゃしゃり出てくる筋じゃねぇ」 グワッと、楠本の右腕が伸びて、俺の首もとを掴んだ。身長差、約15cm、簡単に吊 り上げられるような恰好になってしまう。 いつもの俺ならこんな事になる前に謝って逃げ出していたはずだ。「暴力反対」。 「サルと話しても無駄だよ」。「俺は知性派なんだ」。口では色んなことを言っていた が、要するに怖かっただけだ。自分が弱いから。強い者に刃向かう力がないから。だか ら。いつも長いモノに巻かれていた。けど、畜生、今は。 「・・・・・・するな」 「はぁ?」 「てめぇが姉貴を呼び捨てにするなッ!!」 気付いたとき、俺は宙を舞っていた。ケツから思いっきり地面に落ちる。立ち上がろ うとして、左の頬の傷みに気付いた。殴られたらしい。 「なに寝言言ってんだ、ブラコン坊や?」 「ちょっと陽介、なにすんの!」 姉貴がこちらに寄ってこようとする楠本の右腕を掴んで止めた。 「黙ってろ、後で相手してやる」 ぐいっと姉貴が強く押し戻される。 「何する気よ!?」 「先輩への礼儀を教えてやるだけさ」 「タツが言ってること、ホントなのね!?」 「お前の知ったことじゃない。文句ならホテルで聞いてやる」 ニヤッと笑った、その時の楠本の顔が、ひどく醜く見えた。整った顔のあいつだから、 余計、欲望丸出しにしたその顔は、汚らしく見えた。 「姉貴に触るな」 そう言った覚えはある。けど、ちゃんと言えたかどうか。何しろケンカなんか、小学 校以来だ。一発喰らっただけで頭の中は真っ白、走ったせいで息は乱れているし、足は ふらつくし、折から日も暮れてきた。ただ、その時俺が立っていられたのは、それは、 ただ姉貴への・・・・ 「失せろ!!」 記憶は殆ど無い。楠本の蹴りを、何発か喰らった覚えだけがある。反撃はほとんどで きない。俺の短足ではキックも届かなかっただろう。 「タツ!!」 覚えているのは、姉貴が後ろからハンドバックを楠本の頭に振り下ろしたこと。そし て、それがクリーンヒットして。 「つっ、このアマァッ!」 あいつが振り返ってこちらに背を向けた。俺は、後先考えず、突っ込んでいた。 「ぐっ!?」 楠本が倒れた。だが、俺の方も、さっきので力を使い果たして、もう動くのもだるい。 へたり込んでいた。立たれたら、やられる。 「こ、この・・・!!」 立ち上がろうとする楠本。・・・腰を打ったのか?立ち上がりにくそうだが、それでも 圧倒的不利は変わらない・・・一発殴られたら、もう終わり・・・・・・ 「ほらッ、何やってんの!?」 急に腕を引っ張られた。勢いで立ちがって、走り出す。楠本は追いかけようとしてい るが、さっきの衝撃でまだ少し足下がふらついている。それを、半分薄れかかったよう な意識で眺めながら、俺は姉貴に引きずられて公園から逃げ出した。 周りに人がいた方が見つかりにくいだろうと思って、繁華街へ出る。二人で並んで歩 くのは久しぶりだった。アゴとか腹とかあちこちがズキズキと痛むが、幸い骨が折れた りはしていないようだ。体中が土まみれなことと、切れているらしい唇の端の血さえ気 にしなければ、まぁ見た目は何とかなる。姉貴の方は元々デートだったからおしゃれを してきている。はたから見たら、俺たち、どう見えるんだろ?なんて考えていると、ふ いに姉貴が呟くように尋ねてきた。 「どういうつもり?」 「どういうって・・・・・・」 「あんた、陽す・・・楠本にケンカ売って、勝てると思ってたわけ?」 「あれは、成り行きで・・・・・・」 「あのままだったら、死んでたわよ、あんた!?」 姉貴の声が甲高くなる。その声に驚いてか、すぐ前を歩いていたおじさんがチラッと 振り返った。 「姉貴、声大きいよ」 「答えなさい!」 「・・・・・・姉貴さぁ、本気だった?」 「話逸らす気?」 「違うよ。だからさ。・・・姉貴が、もし、楠本さんのこと、本気だったらさ、俺、余 計なことしちゃったかなって」 「・・・・・・どういう意味」 「変な話だけどさ。楠本さんが、違う女と歩いてるの見て、何か物凄く腹立って。俺、 姉貴は結構本気だと思ってたから。姉貴が、あいつに騙されてるなら、そんなの、許せ なくて。・・・変だよな、俺。姉貴のことなのに。俺なんか、口挟むことじゃないのに」 「・・・・・・タツ」 「ごめん、姉貴。お節介だったよな」 「何で、そんなに腹が立ったの?」 「・・・え?」 姉貴が立ち止まる。俺の顔を、姉貴の大きな目が見上げている。・・・俺が身長抜い たの、いつだったけ? 「そ、それは・・・・・・や、やっぱ、姉貴が騙されてたら、弟としては、さ」 「それだけ?」 「い、いつも、世話なってるし」 「それだけ?」 姉貴の顔が迫ってくる。それだけ?それだけか?頭の中がパニクりだす。俺は、姉貴 の顔を正視できなくなって、顔を背けた。 「お、俺・・・」 「何?」 バカ、何を言うつもりだ?姉弟で。 いつも抱き合ってるのは? あれは姉貴に付き 合ってたからだ、俺は、被害者で。 好きでもないのに抱いていたのか? そうじゃな い、そうじゃないけど、 正直に言ってしまえ! 違う! 認めろ!お前は、 違う! 「俺・・・・・・あ、姉貴のことが・・・・・・」 「何?タツ、言って」 ダメだ、言うな!変態野郎!いいのか、後戻りできなくて!?よく考えろ、お前は! 「俺、姉貴のことが、好きだ」 変な話だった。自分で言って、自分が一番驚いている。俺は被害者のはずだった。だ が、確かに、いつの頃からか、姉貴という存在が、自分の中で大きくなっていた。 高二の頃か。仲の良かった女友達が、突然告白してきた。結局その子と付き合うこと になったんだけど、あの時、俺は心の中でこうは思わなかったか? (姉貴よりは落ちるよな) ・・・麻子、ごめん。 姉貴との奇妙な同棲生活。四日に一度くらいの割合で行われる近親相姦。だが、その 間、合コンで知り合ったどの女たちとも、俺はなぜか一線を越えるつき合いをしたこと がなかった。それは、自分の理想が高いせいだと思っていた。だが、その理想は? 生まれたときから仲は良かった。同じ習慣、同じ環境で育ったんだから、気が合うの は当たり前だ。姉貴の趣味は、どの女友達より理解できた。 両親は晩婚で俺が生まれたとき、二人とも三十路を超えていた。だから、なにかあっ たとき、相談相手は両親より姉貴の方が多かった。姉貴の方が気楽で、信頼できた。 気が強くて、横暴で、好き者で、けど、勉強もスポーツもできる姉貴は、俺の憧れだ った。気が付けば、あらゆる女を姉貴と比較している自分がいた。 楠本陽介が現れたとき、俺の胸に去来した感情は?俺の知る限り、自分のものだけだ ったはずの姉貴の側に、もう一人の男を認めた、その時。その時、俺は、俺は。 「姉弟だけど。あんな関係になっても、まだ自分でも気付いてなかったけど。ノーマル だって言い続けて、変な話だけど。俺、楠本さん紹介されたとき、すっごくさびしくて。 けど、なんでかわかんなくて。 「今日、楠本さん見たとき、やっと自分が、姉貴のこと、本気で、女として好きなんだ って、そう気付いて。姉貴が、大好きな姉貴が、騙されて、俺以外の男と付き合ってる って、そう思ったら、堪らなくなって。それで、それで、俺」 「タツ」 「姉貴、ごめん。俺、変だよ。こんな事、考えたこともなかったのに。けど、俺、」 「あたしも」 「・・・え?」 「あたし、男運無いよね?高木先輩にも騙されたし、楠本にも騙されて。でも、気付い たのよ。さっき、あんたがぶっ飛ばされたとき。本気で好きだったのは、誰なのか」 「・・・・・・」 「あんたの童貞貰ったとき、変な気持ちだった。でも、後悔はなかった。 「好きでもない男になんか、指一本触れさせない。東京来てから何人も付き合ったけど、 みんな違った。楠本は好きだったけど、でも、何か違った。楠本があたしに求めている のは、本当のあたしじゃなかった。恋愛って、こんなんじゃないって思ってた。この人 となら死ねるって、そんな人に会いたかった。でも、みんな違った。 「ありのままの自分を出して話せるのは、結局タツだけだった。弟だから、当たり前な のかも知れない。でも、あたしは、あんたが来てくれたとき、ホッとした。飾らずに話 せる相手がいる。家に帰れば、その人に会える。あんたはあたしにとって、救いだった。 あたしの・・・・・・最愛の、弟」 「あ、姉貴・・・・・・」 「・・・入る?」 姉貴が、ふいに口調を変えておどけるような目で右を指した。俺たちの立ち止まって いるビルの斜め向かいが、『Saffran』、ラブホだった。 4 こんな所にはいるのは初めてだ。部屋を選んで、中に入るとベッドがあって、どでか いテレビが置いてある。 「こんなんなんだ・・・・・・」 「知らなかったの?映画でよくやってるじゃない」 「・・・姉貴、何の映画見てんだ?」 アパートに帰ればすぐ下の浩介の部屋に木村たちがいる。今日は、今夜だけは、俺た ちは二人きりでいたかった。 「それより、あんた、埃だらけよぉ。とりあえず、お風呂入ってきたら?」 「ん?ああ、そうだな」 言われたとおり、風呂場へ行く。中に入ると、やけにでかい。何をするんだ、と考え て、一人で真っ赤になってしまった。見ると、周りに色んな道具が置いてある。 (考えて見りゃ、異常だよな。実の姉とラブホなんて・・・) 「すること」自体はいつもやっているから、それには抵抗がない。だが、自宅以外の 場所でするのは初めてだった。そのせいか、体を洗っていると、棹が早くも勃起し始め た。 (いっぺん、ぬいとこうかな?) 初めてのところだからと言ってあまり興奮するのも気恥ずかしい。とりあえず、石鹸 を流した俺は、勃起し始めたモノを掴んだ。 (昨日もやってないし、まぁいっぺんくらい抜いても、勃つことは勃つだろ) で、やりはじめた、そのとき。 ガラッ 「なにやってんの、あんた?」 姉貴が入ってきた。 硬直する俺。姉貴はいつの間に脱いだのか、服を脱いで、バスタオルを纏っただけの 姿だ。化粧も落としている。家でも見慣れたはずの姿だが・・・色っぽい。 「な、なんだよ、姉貴!」 焦ってどもる俺。いくら「そう言う関係」の二人でも、さすがに実の姉にオナニーの 瞬間を目撃されたらたまらない。 「頑張ったご褒美にお風呂一緒に入ってあげようかと思って。しかし、あんたね、いく ら何でも気が早いんじゃない?」 「声ぐらいかけろよ!」 「そんなに溜まってるわけ?もてない男の方が辛抱ないのかしら?あんた、ちゃんとし てる?あれ、しないと体に悪いらしいわよ」 「ほっとけ!」 勃起しているモノをタオルの下にしまいながら、俺は絶叫した。 「ま、いいわ、せっかくだし。出しなさいよ、手伝ってあげる」 「いいよ、べつに」 「遠慮しないでいいわよ。どうせ、そういうことするための場所なんだから」 「・・・嫁入り前の乙女の台詞じゃないな。・・・ひっ!」 楠本に殴られた跡らしい青あざを、思いっきり姉貴がつねった。あまりの痛さに下半 身への注意が薄れた、その途端、姉貴に棹を奪われていた。 「完全臨戦態勢ね、上々」 言うなり、姉貴が俺の棹を口にくわえた。 「あ、あねき!?」 姉貴は絶対にフェラはしてくれない。曰く「何であたしがあんたを喜ばせなきゃいけ ないの」。また曰く「何が悲しくて恋人でもない男のザーメン飲まなきゃいけないの」。 「黙ってなさいよ、あたしだって初めてなんだから」 姉貴の顔がちょっと赤くなっているのは、気のせいだろうか。 「あ、姉貴!や、止めろよ!い、いや、ともかく、ちょっと!?」 「言ったでしょ、恋人でもない男のザーメンなんか、誰が飲むかって」 「え?」 つまり、それは 「お、俺のこと・・・っ!?」 姉貴は答えない。稚拙に舌が動く。もとから勃起していた俺のモノの、その敏感な部 分に、柔らかい、暖かい姉貴の舌が触れる。そして、バスタオル越しに見える、姉貴の 体。微かに動く下半身。顔を赤らめながら、必死で俺のモノを舐める姉貴の顔。・・・ ダメだ!! 「姉貴!!」 「んぷ!?」 爆発した。姉貴の口の端から溢れて、周りに飛び散る。慌てて口を離した姉貴が苦し そうにせき込む。 「・・・姉貴、大丈夫?」 「ケホ、ケホ、・・・あんたね、出すなら出すって、そう言いなさいよ!ああ、ビック リした。何よ、全部飲んじゃったじゃない。ケホッ、ケホッ」 「ご、ごめん・・・・」 「・・・げぇ、変な味。理穂は、好きな男のならおいしいって言ったけど。あんた、ち ゃんと洗ってる?変なもんまで混ざってないでしょうね?」 バスタオルの端で自分の口元を拭う姉貴。タオルが乱れて胸元が丸見えになる。 「じ、自分のザーメンの味なんて知るかよ」 「知ってても怖いけどね。・・・・・・ねぇ、あんた、やっぱ溜まってんじゃない?」 姉貴が呆れたように呟いて、俺の股間を指さした。・・・また勃起しはじめている。 「あ、姉貴がそんな恰好してるからだろ!」 「なによぉ、あたしのせいにする気?」 「いや、全面的に姉貴のせいだろ!」 「あんたがスケベなのよ!」 「うぐ!?」 姉貴のフックが俺の腹に決まった・・・骨、折れたんじゃないか? けど、そんなどつき漫才は、こんな所に来て二人とも緊張しているせいだった。早々 に風呂場を退散した俺はバスローブを着てベッドに腰を下ろしてから、突然思い出した。 (ここ、ラブホテルなんだよなぁ) 改めてそう感じる。ピンク一色のけばい装飾品。一人分よりかなり大きいベッド・・・ つまり、セミダブル。ベッドのはしにはテレビが置いてあるが、やはりつけたらそーゆ ービデオが流れているんだろう。 変な気持ちだった。いつもやっていることが、とてつもなく凄いことに思えてきた。 姉貴とのSEX。最愛の相手との、同棲生活。恋人との会話。 「だからかぁ」 今、初めて気付いた。そうだ、俺が、ずっと抱き続けていた違和感。それは、姉貴に 対する思いだった。本気で愛していたのに、自分ではそれに気付かず。それでも抱き合 い続けていた。最愛のSEX-Friend。そんな、矛盾した微妙な関係が、違和感の原因だっ た。 「辰哉」 振り返ると、姉貴がいた。さっきと同じ、バスタオルを巻いただけの姿。しかし、今 は自慢の髪を洗い、全身から湯気を立ち上らせている。顔が火照っているのは、風呂の せいだろうか? 「な、何か・・・緊張するな」 俺は立ち上がって、姉貴に近寄った。こんなに緊張したのは、生まれてはじめてだ。 いつも抱いている相手なのに。いつも会っている相手なのに。・・・実の、姉貴なのに。 「姉貴・・・・・・愛してる」 「・・・あたしも」 俺たちは抱き合い、どちらからともなく、お互いの唇を求め、貪りあった。甘い。こ んな味だったんだ。 「俺ら、キスしたの、はじめてだね」 「でも、最後じゃないよ」 姉貴が微笑む。最高の笑顔。俺は、姉貴の笑顔のためなら死んでもいい。 バスタオルを取った、姉貴の体。見慣れたはずの風景。恥ずかしげに体を隠す、姉貴。 「綺麗だよ、姉貴」 俺はそう呟いて、ゆっくりと姉貴に手を伸ばした。柔らかい乳房。ツンと尖った乳首。 「ああ」 姉貴ののどから漏れる小さなあえぎ。いつもと同じ事。だけど、その全てが新しく、 感動的で、俺を打った。 「た、辰哉!?」 姉貴が悲鳴交じりの声を挙げた。姉貴の視線が向いていないのをいいことに、俺が、 姉貴の足を思いっきり開いてやったのだ。 「な、何やってんのよ、止めなさい!」 前から一度はやってみたかったが、何となく抵抗があった。だって、俺自身がぶちま けているところだ、嫌だろ、想像したら?でも、その時俺は何も考えてなかった。ただ、 姉貴が愛おしかった。だから、俺は姉貴自身に、口をつけた。 「お返しだよ、さっきの」 そう言い返して俺は、姉貴の柔らかな茂みの奧に舌を這わせた。ゆっくりと、だんだ ん姉貴の体の中に、俺の舌が吸い込まれていく。しっとりと湿ってくる泉。俺がはじめ て味わった、「姉貴」。それは、とてつもなく甘美な味だった。 「いやぁ、タツ、やめて・・・ダメ、そんなトコ・・・」 「なんで?結構いけるぜ?」 顔を上げた俺の前に、すっかり上気した姉貴の顔があった。真っ赤になって汗をかい ている姉貴の顔が、凄く色っぽい。 「・・・・・・」 俺たちは再びお互いの唇を奪った。 「!?・・・」 姉貴の舌がぬるっと入ってきた。一瞬ビックリしたけど、俺は姉貴を迎えた。・・・あ れ?今、俺の口の中って、「姉貴」と「姉貴」が会ってるって事か? 「姉貴・・・」 「辰哉・・・」 ゆっくりと俺は、一物をとりだす。すでにビンビンにそそり立っているそいつを、俺 は姉貴の淵に、さっき俺が散々舐め回した、その淵にあてがった。 「ゴム、ねえよ?」 上気した姉貴の顔が微かに笑む。 「いいよ」 ゴクリ。・・・初めて関係した夜。もう、一年以上昔のことだ。あの日、以来。もしか したら、心の中ではずっと憧れてきたこと。 「いくぜ?」 姉貴の頷きを見ながら、俺は、自分を、姉貴の中に、入れた。 「・・・ああっ、・・・は、はじめてやるみたい・・・・・・」 「お、俺も・・・」 ぐっと俺を引き入れる、生の、姉貴のもの。 「あ、ああっ、タ、タツ!きょ、今日のあんた、かっこよかったよ!!」 「姉貴・・・!」 「これからも、ね、これからも、ずっと愛してるからね!」 「姉貴!!」 「ね、タツ!ね、もっと!もっと!!今日は、さ、先にイッたら、許さないからね!!」 「あ、姉貴こそ、一人でイくなよな!」 姉貴の腰と、俺の腰が、加速度的に早くなる。 「はぁあッ、ああん、い、いいッ!タツ!もっとぉ、もっとぉ!!」 「最高だよ、姉貴!!」 「ああッ!いいっ、辰哉ァッ、気持ちいいよぉッ!」 「姉貴!姉貴!姉貴!」 「いっ、ああッ!辰哉、イッ、イくッ、イッちゃう!!」 「お、俺も!あ、姉貴、俺も!イく!!」 「タツゥ!!」 5 そんなわけで、姉貴と俺の同棲生活はどんどんエスカレートしてる。あそこまでいっ ちゃうと、なかなかお互い満足できなくて、最近ますますヤバくなってるのが、我なが らちょっと怖い。 あの日、俺たちは結局朝帰りだった。アパートに入るところで、ちょうど駅へ向かう ところだった浩介たちと出会い、散々文句を言われた。姉貴は無情にも先に行ってしま い、俺は何をどう弁解すればいいのだか、しどろもどろになって大いに焦った。なにせ、 ただでさえ事情が事情だ、しかも昨日はほとんど寝ていない。 「あ、いや、つまり、その、」 なんて事を言っていたら、そこへ 「おい、電車間に合うのか?」 という浩介の素晴らしい一言、これが効いて木村たちは帰っていった。 「サンキュ、親友」 「何がだ?」 「いや、別に、ま、ちょっと色々あってな」 「有紀さんと楠本さん、別れたのか?」 「ああ」 「ふうん、じゃ、また俺にもチャンスが巡ってきたわけか」 「はぁ?」 まだ諦めてなかったのか?悪いな、姉貴は俺が・・・・・どうでもいいが、眠い。姉 貴に邪魔されず、ゆっくり寝たい・・・ 「実の弟に手を出すくらいなら、近くにいい男がいるって、伝えといてくれ」 「ふぁぁ、はいはい。じゃ、また・・・・・・・・・い!?」 あくびしながら背を向けて、そして、その体勢のまま、硬直してしまった。こいつ、 ・・・気づいてたのか!? Sister Panic 完。 [2002/02/08]