2013年に注目すべきIT業界の10のトレンド

1. アップルは壁にぶつかるのか、それとも壁を打ち破るのか

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アップルのティム・クックCEO

 ハイテク業界はいくつもの大きな変化を経験してきたが、2012年のそれは特に顕著だった。そして今年の出来事やトレンドは2013年の潜在的に重大な転換のお膳立てとなった。マーケットウォッチは来年に注目すべきIT業界のトレンドとカギとなる質問を10項目にまとめた。まずはアップルである。アップルには過去10年間に「iPhone(アイフォーン)」「iPad(アイパッド)」「iPod(アイポッド)」でまったく新しい製品カテゴリーを開拓するという他に類を見ない実績がある。その結果は、過去10年(会計年度)の総売上高の平均成長率40%という数字にもはっきりと表れている。この間、純利益は40倍以上にもなった。このような成長が永遠に続くはずもない。9月末までの2012年度の売上高成長率は44%弱だったが、わずか2年前の79%と比較するとかなり鈍化している。アナリストたちは現在の会計年度の売上高成長率が約24%になると予想している。しかし、革新的な製品で知られるアップルの評判は、同社が新しい分野に踏み込めるかどうかで大きく左右される。スティーブ・ジョブズ氏の死から1年、アップルはすべての製品ラインナップのデザインを全面的に見直し、絶賛を浴びた。これに対する投資家の反応は、最新のアップデートが明らかになった10月23日以降、価値を15%押し下げるというものだった。アイフォーンやアイパッドの好調な売れ行きが株価を押し上げるのか、投資家はまったく新しい冒険的事業を待たなければならないのかは不透明なままだ。

2. パソコンは勢いを取り戻せるのか(そして「ウィンドウズ8」はその原動力になれるのか)

Source: IDC

 不安定な経済とスマートフォンやタブレット端末の着実な成長のあおりを受け、パソコンの販売台数は減少傾向にある。今秋に発売された基本ソフト(OS)ウィンドウズ8が販売台数の回復に一役買うのではという期待もあったが、そうはならなかった。パソコン市場が2013年に盛り返すとみているアナリストもいるが、米調査会社IDCのアナリスト、ボブ・オドネル氏は「人々が新しいユーザーインターフェイスに慣れたり、サプライチェーンが安価なタッチパネル対応のノートパソコンを提供するまでには時間がかかるので、ウィンドウズ8の効果が実感できるようになるのは1年後かもしれない」と話す。

3. マイクロソフト(とスティーブ・バルマー氏)は復活できるのか

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マイクロソフトのスィーブ・バルマーCEO

 パソコン市場の縮小で窮地に立たされているソフトウエア最大手のマイクロソフトだが、急成長中のスマートフォン・タブレット端末市場での存在感はいまだに薄い。そうした中の来年1月、スティーブ・バルマー氏は同社の最高経営責任者(CEO)として13年目を迎える。かつては誰もが認めるIT業界の盟主だったマイクロソフトだが、バルマー氏の指揮下で同社の株価は着実に下がっている。ビル・ゲイツ氏からその職を引き継いだ2000年1月以降では85%超の下落だ。

4. メグ・ホイットマン氏はヒューレット・パッカードに対するウォール街の信頼を回復できるのか

 メグ・ホイットマン氏は2011年9月にヒューレット・パッカード(HP)のCEOに任命された。ウォール街はこれを慎重ながらも楽観的に受けとめた。しかし、オートノミーの買収に過剰な対価を支払い、その後に同社の不正会計疑惑が出るなどした騒動をめぐって動揺していること、急変している市場での同社の競争力に疑念が高まっていることもあり、そうしたセンチメントの大半は消えてしまった。米調査会社エンドポイント・テクノロジーズ・アソシエーツのロジャー・ケイ社長は次のように述べている。「ホイットマン氏にとって自分が適任だとウォール街を説得するのは、骨の折れる仕事になるだろう。オートノミーの件は大失態だった。最初の発表の時点で、常識ある誰もがその買収額を高すぎると思っていた」

5. オッテリーニ氏の退任後、インテルのトップに立つのは誰なのか(そして同社はARMベースのチップメーカーからより大きなシェアを獲得できるのか)

 ポール・オッテリーニCEOの下、インテルはパソコン市場での支配的立場をさらに強めた。同氏は2013年5月の退任へ向けて準備を進めているが、半導体最大手の同社は、ARMホールディングの技術が支配する急成長中のスマートフォン・タブレット端末市場で苦戦を強いられている。バーンスタイン・リサーチのアナリスト、ステーシー・ラスゴン氏は「同社は外部からの視点が必要かもしれないモバイル分野で新たな試練に直面している」と指摘する。しかし、オッテリーニ氏はインテルが内部から後継者を選ぶと考えている。というのも「インテルは同社の問題を素早く理解し、すぐに信頼を築ける誰かを必要としている」からだという。

6. フェイスブックはウォール街を再度熱狂させることができるのか

 数カ月間に及ぶ過剰宣伝の末、フェイスブックは2012年5月に新規株式公開(IPO)を実施した。ところがその後、膨大な顧客ベースから収益を上げる能力に疑いが生じると、フェイスブックの株価と同社への投資家の関心は急激に落ち込んだ。だが年末が近づくにつれ、第3四半期の好調やモバイル広告の獲得などが追い風となり、同社株は反発してきた。ウェドブッシュのアナリスト、マイケル・パッチャー氏はこう指摘する。「同社に本当に必要なのはモバイル市場の成長性を受け入れ、そこでの収益がどれほど増えているかを示し続けることだけだ。投資家はフェイスブックの売上高成長の可能性を信じたがっており、発展の兆しを探しているのだから」

7. マリッサ・メイヤー氏の指揮の下、ヤフーは復活のお膳立てができるのか

 起こりかけている委任状争奪戦、スコット・トンプソンCEOを退任に追いやった学歴詐称スキャンダルなど、ヤフーにとっては厳しい年となった。インターネット検索大手のヤフーは最終的に経営陣と取締役会の徹底的な見直しをした。マリッサ・メイヤー氏がCEOに就任した7月以来、ヤフー株は17%上昇している。BGCパートナーズのアナリスト、コリン・ギリス氏はこの上昇をメイヤー氏への信任投票だとしながらも「本当に大変な仕事はこれからだ」と述べ、「売上高成長を加速させる」必要性こそが最大の課題だと指摘した。

8. ジンガとグルーポンの反騰はあるのか

 フェイスブックのIPO以前の波に乗っていた交流サイト(SNS)向けゲーム開発大手のジンガとクーポン共同購入サイト大手のグルーポンは1年前に大いに期待されて株式を公開したが、両社とも新しいビジネスモデルに特徴的な難問に直面し始めると、すぐに失速してしまったようだ。両社の株式は今やIPO価格の何分の1かで取引されている。当初の市場価格からだとジンガは75%以上、グルーポンは80%以上も下落している。株価を反騰させるには、両社が元々の中核商品以外でも収益成長を拡大する能力があることを証明する必要があるだろう。ジンガは当初、「ファームビル」のような「インベスト・アンド・エクスプレス」とも呼ばれているソーシャルゲームで利益を上げていたが、その人気も衰えつつあり、競争も激しくなっている。同社は顧客層を拡大し得るより多くのモバイルゲームやソーシャルゲームの開発に力を入れている。グルーポンは同社が先駆けだったクーポンを提供する「デイリーディール」以外でも地元の商店と共に成長していく能力を見せつける必要があるだろう。

9. ブラックベリー(とリサーチ・イン・モーション)は生き残れるのか

 2013年に対処すべき重大な問題を抱えているハイテク企業はいくつかあるが、カナダのリサーチ・イン・モーション(RIM)ほど生きるか死ぬかのプレッシャーに直面している企業はほとんどない。同社は象徴的な製品ブラックベリーでスマートフォン事業のパイオニアとなったが、その市場シェアはアイフォーンやアンドロイド搭載携帯に凌駕されてしまった。現時点では、負け組のウィンドウズ・フォンですら、伝統的なブラックベリーよりも有利だと考えられている。ソーステン・ハインツ氏をCEOに就任させるなど、RIMは経営陣を刷新し、同社がプラットフォームの水準を数段高めたと主張するモバイルOS「ブラックベリー10」を開発することで大きな賭けに出た。この新プラットフォームを利用した最初の携帯電話機は2月か3月の発売が見込まれている。その後、RIMは顧客からの支持を得るべくプレッシャーにさらされるが、同社にどれだけの時間が残されているかは不明である。それ以前に契約者数が落ち込むと、利益率の高い基幹ネットワークサービスからのキャッシュフローを減少させることになるとして心配するアナリストもいる。発売からの2四半期でブラックベリー10がどれだけ売れるかがカギとなる。したがってアナリストたちは9月の終わりの決算発表でその新機種が成功したのか、失敗だったのかを判断することになるかもしれない。これには文字通り、社運がかかってくるだろう。

10. 流行語は何になるのか――クラウドか、SaaSか、それともSDNか

 2013年のハイテク業界からはどのような新しい流行語が生まれるのだろうか。何年にもわたり、特にコーポレートITの世界で新語や新トレンドに追いついてきた投資家にとっては重要な問題だ。かつては「オン・デマンド・コンピューティング」とも呼ばれていた「クラウド・コンピューティング」のおかげで企業は自社用のインハウスデータセンターを設置する代わりに、ネットワークを通じてコンピューターの容量を利用できる。「ソフトウエア・アス・ア・サービス(SaaS)は給与管理、在庫管理、従業員研修といった作業のためのビジネスアプリケーションに企業がウェブベースのサービスとしてアクセスできるものである。比較的新しい「ソフトウエア・デファインド・ネットワーキング(SDN)」はデータセンターのネットワーク機能や構成を制御するのにソフトウエアや仮想化が一層重視されているという傾向を示すもので、ルーターやスイッチの重要性が軽視される可能性がある。こうしたトレンドはときに、業界のセグメントを再編成させ、オラクルのラリー・エリソン氏、シスコシステムズのジョン・チェンバース氏といった名声を確立したハイテク業界の大物たちの戦略に疑問を呈し、クラウド・コンピューティングによる顧客管理サービス大手、セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ氏、人材管理ソフト大手、ワークデイのデービッド・ダッフィールド氏のような新たな先駆者にスポットライトを当たりもする。

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