財務金融委員会 質問議事録
(平成23年3月2日)


山本(幸)委員  自由民主党の山本幸三です。

 先週の金曜日に予定をしていたのでありますが、与党の強行的な採決方針ということで流れましてね。参議院に行ったから、ではゆっくりやるのかなと思っていたら、きのうの夜、おいしい料理を食べていたら、急にあしたやることになったからということでありました。

 私でも心の準備というのはあるんですから、少しきちっとしたスケジュールをつくってもらいたいなと思います。そういう意味ではちょっと激しくなるかもしれませんから、御勘弁を願いたいと思います。

 まずG20ですが、このことは昨年の十月の二十六日の当委員会で、その前のソウルのG20の声明のことから非常に私は危惧していると。経常収支の不均衡というのが取り上げられた。

 その前にちょっと委員長にお願いしておきますが、私はそのときに、ガイトナーから来た書簡を出してくれとお願いしたはずですが、いまだに出ていない。これは早く出してもらいたい。

 それから、ついでに、今回のパリの会議に先立って、ガイトナーなりフランスの財務大臣から来た書簡があれば、それも出してもらいたい。お願いします。

石田委員長  ただいま山本幸三君の申し出の件につきましては、理事会で協議をいたします。
山本(幸)委員  それで、要するに経常収支の不均衡なんてないと、私はここで証明したつもりですよ。だから、そんなことをこれからのG20で決して決めてはいかぬよと。そんなことをやれば、日本の政策手段が限られちゃうんだ。思い切った介入もできなくなるし、そのほかの悪影響も出てくる。

 そういう意味では、理論的におかしな経常収支不均衡というのは認めたらだめだとあれだけ強く言っていたにもかかわらず、今回の声明では、「過度の不均衡を縮小し経常収支を持続可能な水準で維持することの必要性を強調した。」そしていろいろな指標だかを書いていますが、この文章が入っただけで終わりですよ。

 大臣、何でこんなことを認めたんですか。

野田国務大臣  山本委員にお答えをしたいというふうに思います。

 ずっとG20で問題意識としてあったのは、どうやって対外不均衡を是正していくかということでございます。

 それは、いわゆる金融危機がございましたけれども、もちろん金融セクターの問題もあっただろうけれども、対外不均衡の問題もあっただろうというのが多くの人の意見としてありました。では、それを是正するためにどういう議論を深めていくかということの中で、参考となるガイドラインを議論しながら定めていこうという中で、経常収支という議論が出てまいりました。

 経常収支については、昨年、委員とも議論をさせていただきましたけれども、これは民間の家計や企業も入る、そしてもちろん政府部門も入りますけれども、その経済活動として出てくる結果であって、財政収支のようにコントロールすることはできません。したがって、経常収支で赤字が出たり黒字が出たりすることは、これはある意味、自然なことであります。

 ただし、それが継続的に大規模に続いている場合にはその要因を分析しようじゃないかというのがこれまでの議論の結果でございまして、その中で、対外不均衡を議論する際に、自然体として経常収支の議論もしていこうということになったということでございます。

山本(幸)委員  あなたは対外不均衡と経常収支の不均衡を使い分けましたけれども、対外不均衡というのは何ですか。
野田国務大臣  経常収支、それぞれの黒字、赤字、バランスを崩して出てきているということであります。
山本(幸)委員  そうしたら、対外不均衡と経常収支の不均衡は一緒じゃないですか。そうしたら、経常収支の不均衡というのはないんですよ。

 経常収支とは、おっしゃったように、企業にしろ個人にしろ、最適だと思って行動した結果をちょっとどこかで線を引いただけの話なんだ。こんなもの、赤字も黒字も、不均衡なんかありませんよ。

 万一あるとすれば、経済学の辞典に出ているのは、赤字国で、外貨が払えなくなったような状況になったら問題だと。だから、不均衡といったら赤字国だけが問題だと言えばいいんですよ。アメリカ、おまえら赤字で困るんだったら自分でやれと。黒字国なんか責任も何もないですよ。

 あなたは、この点について、日銀総裁から何かアドバイスを受けたことはありますか。

野田国務大臣  委員御指摘のように、大幅な経常赤字が継続している場合というのは、国内で消費が過熱をしていてバブルが発生する可能性があるとか、あるいは将来的に対外債務の支払いが困難になる可能性がある、そういう問題が一つあると思います。

 経常的な黒字が大規模で続いている場合も、全く問題がないかというと、例えば、為替制度が硬直的で国際競争上優位に立っていて、貿易黒字がずっと積み上がっていくという可能性もある。

 そういう意味で、赤字でも黒字でも、場合によっては問題がある、そういう意味で議論をするというふうに私は理解していますが、お尋ねの、日銀総裁にこの問題を御指導いただくということではなくて、問題意識をむしろ共有しながら一緒に臨んだということでございます。

山本(幸)委員  黒字なんか問題ないの。

 それで、実は、日銀総裁はおもしろいことを言っているんだ、このことについて。

 白川日銀総裁は、フランス中央銀行に寄稿した論文で、不均衡の見きわめに経常収支を使うことは危険だと言っているんです。「経常黒字や赤字は経済主体の自発的な選択の結果として生じるものであるため、その存在自体が問題であるとはみなすべきではない。」と。

 私は、白川さんは、金融政策についてはでたらめ言っていると思っているけれども、たまにはいいことを言う、この経常収支については。そう言っているんですよ。

 その白川さんのアドバイスを聞いて、こんなものは認めないようにすればよかったじゃないですか。

 白川総裁はどういう考えですか。

白川参考人  お答えいたします。

 G20には野田大臣と一緒に出席いたしまして、先ほど来の野田大臣と、私は認識を同じくしております。

 山本先生の前でこういう話をするのは大変気が引けますけれども、経常収支の黒字あるいは赤字というのは、これは、先生が御指摘のとおり、一国全体の貯蓄あるいは投資のパターン、これを反映しております。そういう意味で、経常収支の均衡それ自体をターゲットにして政策を運営することは適当ではないということ、これは今回のG20のコミュニケでも確認されております。

 そう申し上げた上で、一国の経済が長い期間、対外的に何らかの形で不均衡を続けていた場合、それは黒字国であれ、赤字国であれ、問題を起こし得る可能性がある。そういう意味で、幾つかのガイドラインに従って持続可能性を点検していこうということでございまして、結論的には、先生が申されている基本的な貯蓄、投資の理解、あるいは経常収支の理解、これらについて認識し、その上で今回のG20での議論はそごがないというふうに思っていますし、かつ、野田大臣とも全く認識を同じくしているものであります。

山本(幸)委員  随分、論文で言っていることと違いますね。

 黒字で、大き過ぎて、何か問題が起こるんですか。おっしゃったように、それは中国みたいに固定レートにしていれば、自分のところがインフレになるだけですよ。だから、自分でやればいいんだよ。

 変動相場制で黒字で、大き過ぎて、何か問題が起こりますか、大臣。

野田国務大臣  先ほど申し上げたとおり、大規模な経常黒字が継続をしているという場合は、為替制度が硬直的になっていて国際競争上優位に立っている、それで貿易黒字が積み上がっていく、その可能性がある。

 特定の国をどうのということはございませんが、そういう可能性はあるという意味で、一つのやはり議論の材料になるというふうに思います。

山本(幸)委員  そこが問題なんだ。黒字が続いていれば、それは為替レートが操作されているんじゃないかというふうに思われてしまう。この黒字不均衡論を認めれば、そういう議論を引き起こすんですよ。だから問題だと言っているんですよ。そうすると、おまえのところは操作しているんだろうと言われるんですよ。それがねらいなんだ、ガイトナーは。だから、僕はガイトナーの書簡を見たいと思っているんだけれども。

 それに乗っちゃだめなんだ。ガイトナーに対して、何言っているんだと。黒字なんか関係ないよ、赤字で困るんだったら、おまえのところが貯蓄・投資バランスを変えればいいじゃないか、そう言えばいいんですよ。それを言い切らないからだめなんだ。何が通貨外交ですか。

 こればかりやっていてもしようがないんで、私はきょう日銀総裁と徹底的にやりたいと思っているので、次に移ります。だから、そこはよく考えておいてくださいよ。間違っている。これは、これからの為替政策、金融政策に影響してきますよ。

 そこで、僕は金融政策の話に行くんだが、資料を配ってもらっていますね。これは前回も配っていて、ちょっとできなかった話なんですが、一ページは省略して二ページ以降を見てもらいたいんです。

 ここで私は、白川さんとバーナンキさんの発言を対比して並べております。これを見ると、いかに我が日銀総裁が不明確で、自信がなくて、無責任な発言をしているか、それに比べてバーナンキは極めて明確で、何だって自分たちはちゃんとできるよと、責任感と自信を持っているということがよくわかりますよ。

 これは、どちらの発言も論文やあるいは記者会見から引用していますので、全部バックデータがありますから、私はこんなこと言っていないなんてことは言わせませんからね。

 その前提で言いますが、まず、白川さんの発言でびっくり仰天したのが、二ページ目の一の4というところなんですが、中略の後、「名目賃金の伸縮的な調整はサービス価格の下落という形でデフレの原因ともなった。」

 どういうことですか、これは。労働組合の幹部が聞いたらぶったまげるよ。自分たちが賃金引き下げを受け入れたのがデフレの原因だと言っているんだよ。

 これはどういうことですか、日銀総裁。

白川参考人  日本とアメリカのインフレ率の違いというものを過去十数年間分析してみますと、九割方が財ではなくてサービスでございます。

 サービスの値段がなぜ下がっているかということ、もちろんいろいろな要因がございます。そのうちの一つの要因として、サービスというのは、これは御案内のとおり、労働集約的な活動が多いということで、賃金の影響を大きく受けるわけでございます。

 一九九〇年代の後半あたりから、日本の賃金の設定というのは非常に伸縮的になってきて、前年対比でマイナスという世界に入ってまいりました。これは、労使双方とも厳しい経済情勢のもとで雇用の量を確保するということで、賃金の引き下げ、これ自体はもちろん大変に厳しいことでございます。

 そのことは十分認識しておりますけれども、しかし、事実としては、労使が賃金の引き下げをある程度甘受し、それで雇用を何とか確保しようとしたということも、これは一つ影響しているというふうに思います。

 私はもちろん、これがすべての原因だと言っているわけではございませんけれども、日米で比較した場合に、あるいは欧州もそうでございますけれども、サービスの値段が日本は下がっている、その一つの理由として賃金が影響しているということを申し上げた次第でございます。

山本(幸)委員  とんでもない発言で、それは因果関係が逆でしょうが。あなたが失敗してデフレを起こしたから、その結果、企業はリストラせざるを得なくなったんですよ。そして、その負担を労働者が受け入れざるを得なくなったんですよ。労働者の方が先に下げたからデフレになったなんて、とんでもないことを言いなさんなよ。そうじゃないんですか。
白川参考人  ただいま賃金についての御質問で、そのことについてお答えいたしましたけれども、日本のデフレ、これをどういうふうに理解するのかという全体の御説明をさせていただければというふうに思います。

 日本のデフレ、これは基本的に需要が不足をしているということが理由でございますけれども、ごく短期的に見た場合には、例えば、リーマン・ショック後、経済が大きく落ち込み、需要が不足した、その結果、需給ギャップが拡大したということがもちろんきいております。

 一方、バブルが崩壊して長い期間、日本の物価上昇率が欧米対比、低いという原因を考えてきた場合に、もう一つの大きな需要不足の原因としては、先々の成長に対してなかなか期待が持てない、そのことが将来所得の低下につながって、またそれが支出の低下につながっているということでございます。

 それでは、なぜ日本の成長、先々に期待が持てないのかというときに、これはもちろん因果はめぐるところはございますけれども、しかし、日本の成長力というものが徐々に低下をしてきている。その一つの要因としては、急速な高齢化のもとで需要が低下してくる、あるいは、そうしたもとでさまざまな負担、これは現役世代の負担ということも含めまして、将来の所得、実質的な所得がなかなかふえていかない、そうしたことが影響してきているということでございます。

 そういう意味で、私が申し上げたいことは、こうしたトレンドとしての成長率の低下、こうしたものもデフレの原因である以上、こうした問題に取り組む必要があるということを申し上げております。

 もちろん、金融政策については、この間、我々としては、デフレの克服のために全力を挙げております。また後から御質問あると思いますので、そのときにまた御説明いたしますけれども、もちろん金融政策の果たすべき役割も大きいと思って、全力を挙げております。

山本(幸)委員  話をごまかすんじゃないよ。私は、まず賃金の話を聞いていたんだよ。その後、今言ったことを言いますよ。

 何が、金融政策を全力挙げてやっているですか。何もやっていませんよ、私に言わせれば。結果が出ていないというのは、金融政策を何もやっていないということと同じですよ。あなた方が幾らやっていると言ったって、結果が出なきゃだめなんだ。

 そこで、まずこれを詰めておきますが、名目賃金が下がったということ、それがデフレの原因で、あなた方は責任がない、そう言うが、私は逆だと思う。あなた方の金融政策の失敗でデフレが起こってきたから、企業がリストラせざるを得なくなって名目賃金が下がってきた。

 どっちの因果関係ですか。どっちですか。

白川参考人  賃金についてのみ答えるようにということでございますので、賃金についてのみお答えいたします。

 日本の賃金の設定は欧米に比べて非常に伸縮的であるということの結果として、失業率は、これは日本の経済情勢、雇用情勢は大変厳しい状況でございますけれども、しかし、失業率というものを見た場合には、これは欧米に比べて非常に低いということでございます。

 これは、どういう方式がいいか、いろいろな議論があると思いますけれども、欧米に比べて日本は、賃金の低下を受け入れても、しかし雇用の量を確保したいという社会的な選択を行ったというふうに思います。

 金融政策が果たす役割がないというふうに言っているわけでは全くございません。金融政策は、全力を挙げてデフレの克服に向けて努力をしております。こうしたことが実を結んでデフレから早く脱却するということを願って、政策運営を行っております。

山本(幸)委員  全然認めようとしないんですか。これは大問題ですよ。

 デフレの原因は労働者にあるんだ。そんなことを聞いて怒らない労働者がいたら、僕は見たいね。とんでもないことを言っている、日銀総裁は。これは許せない。それが一つ。

 それから、先ほど、デフレの原因というのは相対的には需要が少ないからだと。

 それで、今度は一の2のところですが、「人口減少と生産性上昇がじわじわ下がる傾向に歯止めがかからないことが、デフレという現象に出ている。これに取り組まない限り、デフレから脱却できない。」一の3、「デフレの根本原因は需要不足。決して「魔法のつえ」があるわけではない。生産性向上に地道に取り組むことが不可欠。」

 あなたは、人口減少と生産性上昇が下がっている、これが成長力を弱めてデフレの原因になっている、そう言うんですね。

白川参考人  この一の1あるいは2、3に書いていることの多少説明になって恐縮でございますけれども、経済の成長率、GDPの成長率は、これは労働者の数の伸び率と、それから労働者一人当たりのGDPの伸び率、とりあえず生産性という言葉で表現しますと、この二つで基本的には長い傾向は説明できるわけでございます。

 人口の減少というよりか、労働人口が急速に減少してくる、生産年齢人口が減少してくるということの意味合いでございますけれども、これは、消費あるいは生産あるいは納税の中核層でございます。こうした中核層が非常な勢いで減ってまいりますと、どうしても需要が減ってくる。

 他方、高齢者の需要増ももちろんございます。医療、介護等を中心にして需要はございますけれども、しかし、そうした潜在的な需要が、さまざまな要因によって十分に需要が顕在化しない場合には、どうしても需要の不足ということが起きてまいります。その結果、労働者一人当たりのGDPの成長率、生産性、こういったものが下がってくるということでございます。

 それ以外にも幾つかのルートがございますけれども、したがって、急速に高齢化が進むもとでどうやって潜在的な需要を顕在的な需要にしていくかということ、これがやはりないと、なかなか労働の生産性というものは上がっていきにくいというふうに思います。

 それからもう一つ、この引用の中には書いてございませんけれども、ここ当分の間、労働力の急速な減少が見込まれる以上、どうやって労働の参加率を上げていくかということにやはり取り組む必要があると思います。そうしたいろいろな取り組みの結果、GDPの成長率が高まってくるという期待が生まれてきますと、これは人々の消費にもやはり影響してくるということでございます。

 私は、これは少し長い目で見た経済の基調を申し上げているわけで、これだけでもちろん短期のことが決まるというふうに言っているわけではございません。短期的な面では、繰り返しになりますけれども、金融政策の面で全力を挙げております。

山本(幸)委員  あなたが言っているのは、供給の方の、潜在成長力を上げるためには生産性とか、人口減少を補うために労働参加率を上げるとか、そういうことが必要だと言っているわけです。これはむしろデフレをふやす方向に働くはずだ、供給能力拡大なんだから。

 だけれども、大事なことは、あなたがちょっと言ったけれども、それをどう顕在化させるかが大事なんです。それは金融政策ですよ。

 そこで、その前にきちっとしておきたいけれども、人口減少と生産性がインフレ、デフレに関係あるか。岩田さんという人が本を書いてそういうことを言っているんだけれども、わかっていないんだね。

 生産年齢人口が複数年減少した国はOECDで十一カ国ありますよ。だけれども、デフレになったのは日本だけだ、全く関係ない。しかも、彼が言っているのは個別の価格の話であって、一般物価水準の話をしていない。関係ありませんよ、生産年齢人口とインフレ、デフレは。

 それから、生産性。OECDで、労働生産性の変化率とインフレ率の関係を見てみるか。

 これは一九七一年から二〇〇七年の数字ですが、白川総裁が言うように、労働生産性が上がらなければ成長率が上がらなくてデフレになるということが正しければ、この関係には正の相関が存在するはずですけれども、だけれども、データを比べてみると、全く正の相関はない。

 例えば、七一年から八一年は相関係数はマイナス〇・八九、八二年から九二年はマイナス〇・六五、九三年から二〇〇七年まではマイナス〇・四八ですよ。逆でしょう、労働生産性とインフレ率の関係は。

 それはそうですよ。あなたが言ったように、労働生産性が上昇率が高ければ供給能力は増大するんだから、インフレになるどころかデフレになりますよ。それがこのマイナスの相関で調べられているんだよ。

 実証的に見れば、全部間違っていることを言っているんですよ、あなたは。どうですか。

白川参考人  今私が申し上げていることは、これは決して私だけではなくて、オーソドックスな経済学者、余りそういうふうに申し上げるのは私自身は好きではございませんけれども、例えば、クルーグマンという経済学者も、昨年日本に来て、その後、日本の経済の分析として、自分自身は従来、人口動態ということと日本の経済活動、デフレとの関係について十分な認識がなかったけれども、やはり今回こうしたことについてもっともっと研究を深める必要があるというふうに感じたということを感想として書いてございます。

 今の御質問の点でありますけれども、私は、とりあえず便宜的に生産性ということで申し上げましたけれども、これは一人当たりのGDPの成長率でございます。GDPを規定するのは、そうした一人当たりのGDPの伸び率とそれから人口でございます。全体としてGDPの伸び率が下がってくるというのは、労働人口の減少とそれから一人当たりのGDPの成長率、この両方にそれぞれ原因があるということを申し上げているわけでございます。

 先生が御指摘の、需要と供給の関係でむしろ逆ではないかというお尋ねは、これは、現在の供給力を一定にして、供給力がふえればどういうことが起こるか、それは確かにそのとおりでございます。

 一連の議論で申し上げていますことは、現在の供給力が一定のもとでも、しかし将来、供給力、したがって、これは三面等価ですから、所得も減ってくるという期待が広がってきますと、人々がなかなか本格的には需要をふやしていけない、支出をふやしていけないということになりまして、結果的にそれが現在のデフレの方にも影響してくるということでございます。

 先ほど、相関関係という話がございましたけれども、日本のGDP成長率、トレンドとしての成長率とそれから中長期的な予想インフレ率を比較してみますと、かなり高い相関関係にございます。これは、現在日本が直面しているような急激な労働人口の減少という事態を近代の経済において経験したことがないということとも多分関係しているんだろうというふうに思います。

山本(幸)委員  何を言っているか、わけがわからない。現在の供給力が一緒で何とかと。もう少しバーナンキみたいに、はっきりわかるように言いなさいよ。

 私は証明した。生産年齢人口とインフレ、デフレは全く関係ない、それから生産性上昇率とインフレ、デフレは全く関係ない。もし文句があるんだったら、あなたの主張が正しいというんだったら、ちゃんと実証的なデータを出して、そして言いなさいよ。あなたの言っていることは間違っているんだから、私に言わせれば。

 そこで、さっき言ったように、将来的に大事なのは、予想インフレ率と成長率は相関する、そのとおりですよ。だから、私が言いたいのは、予想インフレ率を早く上げろと言っているんです。それは金融政策しかできない。それは私の議論の本質だから、後でやります。

 その前に、一の1、あなたは常々、日本は緩やかな物価下落を経験した、つまり、デフレは経験したけれども、デフレスパイラルは生じなかった、だからいいんだと言っている。

 デフレスパイラルといったら、デフレと景気後退が同時に起こることの意味のようですが、これが大問題なんですね。デフレスパイラルさえ起こらなきゃデフレでいいのか。私はそれが一番の間違いだと思っていますよ。

 この点についてはどうですか。

白川参考人  私も山本議員と同じ認識に立っておりまして、現在デフレスパイラルは生じていませんけれども、しかし、デフレの克服、これが非常に大事な政策課題であるというふうに認識しております。日本の経済がデフレから脱却し、できるだけ早く物価安定のもとでの持続的な成長軌道に復帰することが大変大事だというふうに思っております。そういうふうに認識しているからこそ、包括的な金融緩和という形で全力を挙げております。

 それから、デフレスパイラル云々の件でございますけれども、これは、私が欧米の政策当局者と議論している際に、欧米の政策当局者からいつも聞かれる一つの質問は、日本はしかし、なぜデフレスパイラルが生じなかったんだろうか、これについて、自分たち自身、政策上これは非常に大事な論点だから大いに議論したいというふうに言っておられまして、私自身もそうした問題意識にこたえて発言しているわけでありまして、しかし、政策論として、私は、デフレの克服が大事だという点については先生と認識を同じくしております。

山本(幸)委員  簡単に私に同意してもらうとちょっと困るんだけれども。

 それならそうはっきり言いなさいよ。デフレだけれどもデフレスパイラルじゃなきゃいいんだというふうに常々言っているように聞こえますよ。

 デフレは絶対だめだ、悪だ、そう主張して、ではそれをいかにして早く脱却するかを出すのがあなたの仕事ですよ。

 そこで、もう一個行きますが、「三 たくさん量を供給すれば、デフレから脱却できると思っている訳ではない。」これはどういうことですか。

白川参考人  日本銀行は、現在、潤沢に資金を供給しております。これは、日本銀行の例えばバランスシート、これとGDPの関係を見ても明らかでございます。

 アメリカも今同様に、中央銀行のバランスシートは拡大しております。しかし、リーマン・ショック後、中央銀行のバランスシートは大きく拡大したにもかかわらず、アメリカの物価上昇率は着実に低下をしております。

 したがって、金融政策の刺激度を見るときに、中央銀行のバランスシートの大きさ、それだけで判断できるわけではない。さまざまな政策を使って、経済主体の支出に影響を与えていく変数、よくバーナンキ議長はファイナンシャルコンディション、金融環境という言葉を使っておりますけれども、そうしたものに有効に働きかけていく必要があるというふうに考えております。

 そういう意味で、量だけではないですよと。実質的に経済主体の支出に影響を与えていく、さまざまな金利、信用スプレッド、貸し出し態度、こうしたものに影響を与えていくように、さまざまな政策手段を使ってそうした状況を実現することが大事だ、そういう趣旨でございます。

山本(幸)委員  よくわからない。量と言いながら、またほかのことを話し出す。

 あなたはバランスシートのGDP比を言うんだけれども、日本は高い高いと威張っているんだけれども、私はこれは予算委員会で言ったけれども、それは二十年間GDPが変わらなきゃ高くなるに決まっているじゃないですか。それはあなた方の失敗で高くなっているんだよ。ほかの国は、アメリカなんて三、四%、ずっと二十年間成長していたんだから。それに比べて、GDP比が低いというのは当然でしょう。それを、全然成長していない日本では高いから潤沢にやっています、ばかなことを言いなさんな。

 これは伸び率が大事なんだよ。リーマン・ショック後、アメリカにしろ、イギリスにしろ、資産を二・五倍にした、二・四倍にした。日本はたったの一〇%だ。それでデフレが脱却できるわけがない。円高になる。それが起こっているわけでしょう。バーナンキなんかそう言っていますよ。

 私の問題意識は、日銀がお金を供給してもデフレから脱却できない、つまりインフレにならないと言っている、そういうふうに理解しますが、それでいいんですか。

白川参考人  まず、日本銀行は、量の面でも、あるいは質的な面でも、デフレの克服のために全力を挙げてございます。山本先生の御評価は今お聞きいたしましたけれども、しかし、客観的なデータで見る限り、大変に量を拡大しております。

 先生の御質問の趣旨として、バーナンキ議長とそれから日本銀行、あるいは私との比較ということで議論が展開されておりますので、若干バーナンキ議長自体の考え方についても触れさせていただきたいと思います。

 バーナンキ議長は、FEDの政策について、量的緩和という言葉を使うことが不適切であるというふうに言っております。量的緩和は、典型的には銀行の準備預金量を変化させることを通じた効果を追求する政策を指すが、少なくとも米国における状況下ではこうしたチャンネルは相対的に効果が弱いように思われるというふうに言っておられます。

 これは、日本がこの十数年間経験した事態と同じでございます。非常に量は拡大しておりますし、このことは、金融システムの安定を確保する上で、経済活動の下支えに大変大きな貢献を果たしました。しかし、このことだけでデフレが克服できるわけではないというのが日米の経験でございます。

 したがって、それ以外のルートも使って、一生懸命、金融緩和の効果を上げたいというふうに思っております。

山本(幸)委員  あなたは、予算委員会のときに、バーナンキはそう言ったとしきりに言うんだけれども、私は調べた。バーナンキはそういう趣旨で言っているんじゃないですよ。バーナンキは、議会で、お金の量をふやしたらインフレになるんじゃないかと議員が心配するので、そんな心配は全くありませんよという趣旨で言っているだけですよ。そのほかのところでは、量的拡大すれば、ちゃんと物価にも成長率にもききますと言っていますよ。

 バーナンキのことはいいんだよ。あなたの考えを聞きたい。あなたは、量を供給してもデフレから脱却できないと言っているが、それなら長期国債を買いまくればいいじゃないですか。どうですか。

白川参考人  長期国債を買うという手段は、現在、日本銀行は非常に積極的に使っております。長期国債の買い入れ金額というものをGDPとの比較で見ますと、今大量に買っていると言われていますアメリカの中央銀行と全く同じでございます。

 それで、今御質問の中で、国債を、そうした買い方じゃなくて、もっともっと買っていく、その場合に、国債の買い入れの仕方、これがどういうふうに国民あるいは市場参加者に認識されるかということは、これは非常に大事なことでございます。

 仮に、そうした買い入れが、財政赤字のファイナンス、いわゆる経済学者がマネタイズというふうに呼ばれるような、そういうふうな買い方になっているというふうにみなされますと、これは今度は、今、日本の財政状況が悪い中、長期金利の方にも影響が出てくる、そうしたことをやはり懸念せざるを得ないというふうに思います。

 アメリカにおいても、この国債の買い方について、一方で経済の刺激ということを考え、他方でマネタイズというふうに見られないように細心の注意を払っているというふうに見ておりますけれども、私もそこは同じように考えております。

山本(幸)委員  では、長期国債を買っていたらマネタイズされると思って金利が上がるかもしれないという懸念がある。マネタイズされる心配があるというのは、インフレになる心配があるということと同義ですよ。

 つまり、長期国債をたくさん買っていけばインフレにもなり得ると今言ったじゃないか。ところが、あなたはずっと、たくさん量を供給すればデフレから脱却できると思っているわけじゃないと。矛盾しているじゃないですか。

白川参考人  こういう委員会の場ですから、余り何か学会のような形で議論するということはどうかなという感じにも思いますけれども、もし、国債の買い入れということについて、とにかくインフレ率を上げることだけに専念をし、とにかくインフレ率が上がるまで国債を無尽蔵に買いまくるという政策を行い、かつ中央銀行が今後ともそういうふうに行動すると思ったときに、どこかの段階でインフレ率が非連続的に上がるということがあるのかないのかというふうに問いを立てれば、それはそういうことは起こり得ると思います。

 しかし、我々が今目的としていますことは、物価安定のもとでの経済の持続的な安定ということであって、インフレあるいはハイパーインフレを起こすということが目的ではありません。

 したがって、中央銀行が仮にとにかくインフレ率を上げるんだという政策に入り、しかし一たんインフレ率が少し上がった段階でまたそのインフレ率をコントロールするというふうに市場参加者がみなしますと、なかなかインフレ率は上がっていきにくいと。これもまた、大変恐縮ですけれども、よくここの議論に出てきますクルーグマン自身が言っていることでございます。

 そういう意味で、繰り返しになりますけれども、高率のインフレを起こすために、とにかくそのことだけにすべてを挙げて、中央銀行が経済の持続的な安定ということを忘れた場合には、これは大変に厳しい状況が出現するというふうに思います。

山本(幸)委員  だったら、買っていけばインフレになり得るよと言っているわけで、こんな間違ったことはこれからは言いなさんな。たくさん量を出せばデフレから脱却できると思っているわけじゃない。たくさん量を出せばインフレになる可能性があると、あなたは今認めたんだ。

 そこで今度は、インフレになったら突然ハイパーインフレになっちゃうんだ。そんなばかなことがありますか、非連続的に。

白川参考人  お答えいたします。

 現在、日本銀行は既に大量の国債を買っております。しかし、それにもかかわらず、インフレ率は残念ながら十分には上がってきていないという現実でございます。

 先生の御提案は、消費者物価上昇率が上がるまでとにかく国債をどんどん買っていく、いわば無制限にでも国債を買っていくというスタンスを示せば、どこかでインフレ率が上がるのではないかという御指摘だと思います。

 人々の予想形成、これがどういうふうになされるか、これはよくわかりませんけれども、しかし、過去の内外の歴史を振り返りますと、人々の予想はどこかの段階で非連続的に変化しているというのが経験則のように思います。

 非連続的な変化が生じた段階で、今度はまた突然、その逆方向の、つまり、非連続的なインフレ期待のもとで生じた急激なインフレを抑えるような政策を行うということが本当に可能なのか。可能でない場合には、これはさらに高いインフレ率になってきますし、それから、それがもし可能であるというふうに思った場合には、そもそも出発点としての、非常に大量の国債買い入れそれ自体がインフレをもたらす力も、なかなか働きにくいということのように思います。

 こうした議論が、通常、学者の中で行われているように感じております。

山本(幸)委員  そんな議論なんか行われていませんよ。

 要するに、あなたは認めたんだ、量を供給すればインフレになる。だから、もうこんなばかなことを言いなさんなよ。それが一つ。

 それから、確かに私は、国債を買ってインフレ的にしろと言っているんだけれども、それは、実際にインフレということよりは、デフレ期待からインフレ期待に持ってこい、そう言っているわけですよ。期待感を変えればいいんだ。それをやって、もしハイパーインフレが怖いとなったら、上限を決めたインフレ目標政策が一番いいじゃないか、下限も上限もあるんだから。そのためにインフレ目標政策というのはあるんだよ。

 そこで、ちょっと聞きますが、あなたは、そういうことをやっていると非連続的にインフレになるということが経験則だと言いましたが、どういう経験がありますか。

白川参考人  財政とそれから中央銀行のかかわりの仕方ということは、これは幾つかの例があるというふうに思います。

 例えばギリシャ。ちょっと特定の国を申し上げるのはどうかなという感じもいたしますけれども。

 欧州のいろいろなソブリン危機の過程で、一昨年の秋ぐらいまでは、実は各国の国債の金利は、ほぼドイツの金利と同じような金利でした。しかし、現在は御案内のとおり、一番安全なドイツの国債との比較で見て、随分、長期金利、国債金利が上がっているわけであります。

 この間、客観情勢として、財政の状況、マクロの状況が大きく変わっていったのか、ファンダメンタルズが本当に変わったのかというと、ファンダメンタルズ自体がそれほど短期間に大きく変わったようには見えません。しかし、さまざまな出来事が組み合わさった結果、人々の予想が変わってきた、まさに非連続的な変化が生じたというふうに思います。一たんそうした変化が生じますと、今度は市場の中でまたさらにそうした動きが加速をされていくということであったように思います。

 そういう意味で、日本の財政運営と、それから中央銀行が物価の安定のもとで持続的な経済成長を図っていく、この金融政策との関係について、これはもちろん一般論でございますけれども、基本的な政策の軸がしっかりしているということが大事だと思っております。

山本(幸)委員  あなたはギリシャの例を出されたけれども、ギリシャと日本は根本的に違う。これはきょうはやりませんが。

 日本では、例として一九三〇年代の高橋財政があるでしょう。あのときに非連続的にインフレになりましたか。

 あのときは今よりもっと強硬なことをやったんだよ。日銀の直接引き受けをやったんだよ、国債の。そして、非連続的にインフレになりましたか。なりませんよ。インフレ率は二、三%で安定したんだ。金利も上がらなかった。同じことをやればいいじゃない。

 その日本についての歴史は無視している。おかしくなったのは高橋是清が殺されてからですよ。

 高橋の財政の四年間のときは、インフレも安定、成長率も安定、物価も安定したんだ。そうでしょう。それは認めますか。

白川参考人  高橋財政下の政策運営でありますけれども、現在、日本銀行は、国債の引き受け、これは原則できないということであります。国会の承認を経た範囲内で、現在、満期を迎えた国債の借りかえ、これは行っておりますけれども、しかし、財政法の規定に従って日本銀行は行動しないといけないわけでありまして、国債の引き受けという形での金融政策は考えておりません。

 高橋財政についてでございますけれども、高橋財政そのものについて申し上げますと、当時、日本銀行は国債を引き受けたわけでありますけれども、同時に、引き受けた国債のほとんどを市場に売ったわけであります。そういう意味で、実際に、日本銀行のバランスシートに国債が残ったわけではございません。

 しかし、一たん経済がよくなってきた段階で、つまり、先生がおっしゃった、物価も安定し、経済も成長するという何年かの時期を終えて、金利が上がっていかないといけない、そういうときに国債が売れなくなったということでございます。

 そういう意味で、実は、高橋財政を導入したその数年間はうまくいったけれども、しかし、うまくいったその結果として、今度は、今の言葉で言いますと、出口、エグジットにやはり失敗をしたというふうに思います。

 そういう意味で、政策については、入り口と出口、トータルでやはり評価をしていくということが大事だというふうに思っております。

山本(幸)委員  おっしゃったように、日銀が国債引き受けをやるということを発表しただけで、がらっと変わったんだ。つまり、期待感が変われば、全部変わるんですよ。それが大事なんだ。それをやれと言っているんだよ。

 出口で失敗したと。それはそうでしょう、殺されちゃって、次の大臣は軍部に抑え込まれちゃったからね。

 では、あなたは、日銀総裁として、そういうふうになりかけたら、それをコントロールする自信はありませんか。

白川参考人  まず、高橋財政について一言だけ申し上げますけれども、先ほど、国債の引き受けとの関係で御質問がありましたので、その点についてはお答えいたしました。

 しかし、高橋財政の政策を全体として見た場合に、金本位制に復帰した後、それをまたもとの体制に戻していくということで、金平価時代のいわば人為的に高かった円相場、これをやめたわけであります。その結果、円相場は一年ぐらいの間にほぼ半分ぐらいの水準に、実は円安になったということで、その結果、景気が立ち直っていったということだと思います。

 今御質問の、日本において将来問題が生じかかった場合に、日本銀行としてどういうふうに対応するのか、インフレの危険が仮に出てきた場合に、その覚悟はあるのかという御質問だというふうに受けとめましたけれども、これは、日本銀行法に定められた使命に従って、つまり、物価安定のもとでの国民経済の健全な発展、法律に定められたこの理念に従って、しっかり職務を遂行していきたいというふうに思っております。

山本(幸)委員  そこが頼りにならないと思うんですよ。

 このバーナンキの三の1、「金融当局は、長期的にインフレ率を決める能力を有するが、失業率はそう簡単ではない。」それから、三ページ目の一番最後のところ、二の2ですね、「資産購入は通常の金融政策手段ではないが、これについての心配はオーバー過ぎる。これまでもマネーの過剰供給、インフレ嵩進の惧れはなかった。必要となれば、これに対する備えはFRBには十分ある。」

 自信満々ですよ。心配を起こさなくても、おれたちがちゃんとやるから心配するな、それだけの能力は持っているし自信がある、これが中央銀行総裁のあるべき姿ですよ。それをあなたは何か、法律に従ってやりますと。

 あなたがしっかりしていれば、高橋財政の出口を、まあ高橋は死んじゃったから、高橋が生きていればそんなことにならなかったかもしれないんだけれども、それを体を張って守る覚悟さえあれば、出口で心配はありませんよ。その覚悟がないんですか。

白川参考人  まず最初に、バーナンキ議長の覚悟と同じように、日本銀行も、私もそうですし、政策委員会メンバー九名とも、これは、日本銀行法の精神に従ってしっかり職務を遂行していくという覚悟、決意はもちろんございます。

 日本銀行は、現在、包括緩和のもとで、ほかの中央銀行が買っていないような、例えばREIT、ETF、これも買い入れを行っております。極めて異例の政策を行っておりますけれども、この政策も、こうした政策が必要なときには日本銀行がしっかりやっていく、しかし、必要がなくなった場合にはこの政策はもちろんやめるという覚悟があるからこそ、こうした政策に踏み切っておるわけでございます。

 そういう意味で、日本銀行は、しっかり政策を運営していくという覚悟は、現在もそうですし、今後ともございます。

山本(幸)委員  その覚悟があるんだったら、どんどん国債を買いまくって、インフレ率を、デフレ期待からインフレ期待に早く変えて、そうやればいいじゃない。それが心配になりそうだったら、自分たちはちゃんとコントロールできるという自信があるんでしょう。何でそれをやらない。たかがREITとかCPとか、ちょこちょこっと買ったって効果も何もないよ、そんなのは。全然変わっていないじゃない。あなたはもう三年になるんだ。それでまだデフレが続いているんだ。何だ、これは。

 そこで、ちょっと聞きますが、物価の安定といって、審議委員の間の共通の理解は一%ぐらいだと言っているんですね。この一%というのは、僕は低過ぎると思うんだけれども、その点についてはどうですか。

白川参考人  日本銀行は、今先生御指摘の中長期的な物価安定の理解ということにつきまして、定期的に点検を行っております。現在は、今先生が御指摘のあった数字、つまり、二%以下のプラスで、中心値は一%程度であるという数字を採用しております。

 この根拠でありますけれども、先生もよく御案内のとおり、消費者物価指数のバイアス、こうしたことと、それから、金利がゼロ金利に直面した場合に金融政策運営が難しくなる、そうした可能性、つまり、のり代ということを意識し、現在のこの数字を定めております。

 日本の物価上昇率、この中長期的な物価安定の理解の数字がほかの国と比べて低いのではないかということでございますけれども、これは、例えば一九八〇年代の後半、つまり、今から考えますと日本が最も景気のよかったあの局面でも、例えば一九八八年の消費者物価上昇率は、たしか〇・四、五%でございました。これは、さまざまな経済の構造ということがやはり背後にあるというふうに思います。

 いずれにしても、先ほど申し上げた本質的な論点、つまり、指数のバイアスあるいはのり代を加味して最適な水準を日本について考えた結果、現在は、先ほど申し上げた一%程度というのが最適だというふうに判断しています。

山本(幸)委員  この辺は、おっしゃるとおりバイアス。だから、消費者物価も今ゼロと政府は見通しをしているけれども、この八月になればまたおっこちるんだね、五年ごとの改定で。〇・五ぐらい落ちますよ。だから、バイアスがあるから、当然それは見ておかなきゃいかぬ。

 それから、名目金利は、少しぐらいプラスがついていないと金融政策がやりにくいから、そういう意味では、もうちょっと高い方が私はいいと思いますよ。一%を切ったらすぐデフレになる可能性が出てくるんだ。

 そこは、バーナンキは二%を考えているんだね。三ページ目の一の2とか一の3とか。これまでも前進はあったが、全然満足していないと。「失業率は依然一〇%近くだし、インフレ率も二%を幾分下回っており、低過ぎる。」二%を切ったら低過ぎるという認識なんですよ。それは、デフレに陥る可能性をもたらして、これは日本のことを見て言っているわけだな。

 しかも日本は、ずっとこの十四、五年、GDPデフレーターであるか消費者物価であるかによって違うんだけれども、十四、五年はデフレが続いている。本来ならば、二、三%上がるべきところを、マイナスになっちゃったから、その差を埋めるということもあって少し高目で考えておかないと、経済は順調に回復しませんよ。

 その意味では、この一%というのは明らかに低過ぎる、私はそう思う。これは論理的に決め手がないから、あれだけれども。

 しかし、もう一つは、やはり日本の過去二十年間のフィリップス・カーブを見ていても、二%を切ると失業率が、がっと上がっちゃうんだね。その点から考えても、やはり二%ぐらい、二から三ぐらいに行くというようにしておかないと、私は日本経済は順調に回復しないと思う。

 その点についてどうですか。

白川参考人  金融政策において、目的とすべき、あるいは定義すべき物価上昇率についてはさまざまな議論があります。

 私どもは、毎年これを政策委員会で点検しております。そうした点検を行う際には、ただいま山本先生から御指摘のあった点、あるいは山本先生から御紹介のあった海外の事例あるいは議論も参考にしながら、次回点検するときにもこれはしっかり点検をしていきたいというふうに思っております。

山本(幸)委員  時間が少なくなったので、最後に聞きます。

 私は、インフレ目標政策をぜひとも入れなきゃいかぬと思って、民主党の皆さん方とも議論をして、これは必ずやり遂げる。法案も準備してやります。

 そのときの基本的な考え方というのは、中央銀行の独立性には二つあるんだ。一つは目標設定の独立性、それから手段選択の独立性の二つがあって、中央銀行の独立性といった場合は、世界各国の共通の理解は、それは手段選択の独立性であって目標設定の独立性はないんだ。それは政府が決める、あるいは政府と中央銀行が協議することもあるけれども、基本的には政府の責任において決める、これが本来の中央銀行の独立性についての考え方だと。

 このことはもう世界の常識ですよね。バーナンキも、去年の日銀がやったコンファレンスでそうはっきり言っていますよね。日銀さんは困ったかもしれぬけれども。彼はこう言っている。「金融政策の目標は政治当局によって設定されるが、その目標を追求する方法においては政治的支配から独立であるべきである、というコンセンサスが幅広く形成されています。」

 だから、世界の常識に沿った法改正をきちっとして、日本銀行にちゃんとやってもらって、早くインフレ期待にするように国債を買いまくって、それで非連続でインフレの心配があるんだったら、ちゃんとやるという自信があると言うんだから、やってもらえばいいじゃない。それは、はっきりするためには上限と下限をつくってやれば、何の問題もないじゃないですか。

 それについて、日銀総裁の見解。

白川参考人  日本銀行も含めて、各国の中央銀行の金融政策の目的は、これは法律によってはっきり定められております。これは日本も全く同様でございます。日本銀行の場合には、日本銀行法において、金融政策の目的、使命は、物価の安定を通じて国民経済の健全な発展に資するということを、これは明確に国会でお決めいただいているわけでございます。

 そのもとで、具体的な物価上昇率としてどういうふうな数字を念頭に置くかということは、先生御指摘のとおり、国によって違います。政府が決める先、これは数としては多くございませんけれども、政府が決める先もございますし、政府と中央銀行が決める先もありますし、中央銀行自身が決める先もございます。

 ただ、どういうふうな数字の目標にするにせよ、現在イギリスが直面していますように、あるいは多くの中央銀行が直面しているように、物価上昇率の足元の数字もさることながら、中長期的にどのような物価水準になっていくのか、短期的ないろいろな要因、例えば石油ショックもそうですけれども、中長期的に維持可能な、そういう物価の見通しはどういうふうになっていくのか、これが最大の論点になっております。

 そういう意味では、日本銀行として、ほかの中央銀行と全く同じように、先々の経済情勢の判断を誤らないようにし、かつ適切な金融政策を行い、できるだけ早くデフレから脱却すべく、全力を尽くしてまいりたいと思っております。

山本(幸)委員 いよいよインフレ目標政策をきちっとしなきゃいかぬという確信をいたしました。

 最後にまとめますけれども、結局のところ、白川総裁がずっと言ってきた人口減少と生産性上昇率とデフレとは全く関係ないということを、私は証明した。それから、名目賃金がデフレの原因だというのは間違い、これも証明した。それから、たくさん量を供給してもデフレから脱却できないなんというばかげた話は全く間違いだということも証明した。

 だから、これから発言するときは、そういうことは一切言わないように気をつけてもらいたい。

 そして、ちゃんと早く、デフレ期待からインフレ期待に変わるような政策を早急に打ちなさいよ。その後に、出口で心配だったらちゃんととめる自信があるというのだから、結構なことじゃないですか。何の心配もない。

 そのことを申し上げて、質問を終わります。


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