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取り返しのつかないこと
「さあ、クライマックスだ。彼は暗い地面の下で永遠に……」
「そこまで!!!」
鋭い声が静止をかける。おどろいた生徒たちが振り向くと、金髪の美女がたっていた。
「私はソレイユ王子の召喚騎士ビーナス。その奴隷を殺すことは許さん。王子の命令である」
高らかに宣言する。
「王子だって?」「王子がなぜ助命を?」
混乱する生徒たち。
ビーナスはつかつかとノームの前まで歩き、目の前で王子の命令書を広げた。
「確かに王子の署名が入っている。だけど、なんで王子が……」
「貴様ごときには知る必要はない。杖を下ろせ」
ビーナスの言葉にしぶしぶ杖を降ろした。
(なんだか知らないが助かった……)
すり鉢状になった砂の底で首だけ出していた隼人が安堵する。
「納得したそうだな。では……」
解散するように言おうとしたビーナスだったが、再び杖を振り上げたノームをみて眉をひそめる。
「貴様、なんのつもりだ」
「貴族に反抗されてそのまま見過ごすなど、騎士の名折れ。そこの男は仕方がないにしても、その女まで許すわけにはいきませんね。……さて、お前の番だ覚悟しろ」
ユリスに杖を突きつけるノーム。
隼人はこの言葉を聞いて再び青くなった。
「……いい加減にしろ。これ以上やるなら、私が相手になろう」
その有様に耐え切れなくなり、イグニスがかばう様に立ちはだかった。
「ひっこめ!」
「元はといえば、その魔民が泥棒をしたからこうなったんだ。罪には裁きを!!」
「そうだ!!やれ!!やってしまえーーーー」
ユリスの処刑を求める声が貴族や騎士からあがる。
「イグ姉さん!だめだ!」
後ろでブルーリンがいさめるが、イグニスは引かない。
「これ以上残酷な罰など必要ない。今の貴様は騎士ではなく、血に飢えた獣だ」
「なんだと!」
にらみ合う二人の騎士。
「まて!!ユリスを殺すな!!なんでもするから、許してくれ!!」
首まで埋まっている隼人が必死に言うが、ノームはまったく聞き入れなかった。
「……もし、私が死んだら、隼人さんを許してくれますか?」
その時、ユリスが静かに座り込んで、ノームに問いかけた。
「あ、ああ。盗人であるお前を始末したらな」
引っ込みがつかなくなっているノームの言葉に静かに頷くユリス。
「わかりました。では、お願いします」
静かに頭をたれる。
「ユリス!!」
「……いいんです。魔王様のためなら私の身など、どうなっても。でも、約束してください」
ユリスはじっと隼人をみつめる。
「いつかきっと、『高天原』に私たちを導いてくださいね」
そういって微笑んだ。
「ユリス!!」「だめ、やめて!!」
見ていた奴隷達が騒ぐ。
「やれ!!」「盗人に死を!!」
興奮した貴族たちが叫び声を上げる。
「……ノーム。やって。中途半端はだめ。貴族に逆らう奴隷は許されないのよ」
アイリスは恐ろしく冷たい顔で命令した。
「アイリス殿!!」
「公爵家次女である私に逆らうの。たとえ騎士でも見逃せないわよ」
「姉さん!!これ以上アイリスに逆らったら、、うちまで……」
「くっ」
ブルーリンの言葉にイグニスが引き下がる。
「ふふ。まあいいでしょう。そこの盗人奴隷には王子は何もおっしゃってなかったしね」
ビーナスも認める。
「さ、決まりね。ノームお願い」
アイリスの言葉を聴いてひとつうなずくと、ノームは杖を構えた。
ユリスは絶望に沈んだまま、静かに頭をたれる。
「やめろ!!やめろやめろやめろ!!!」
どれだけ隼人が喚いても、誰も相手にしなかった。
ノームは鬼の表情で杖をふる。ユリスの体は静かに地面に倒れ伏した。
「さあみんな、これで処刑は終りだ。奴隷たちも我々に逆らったらどうなるか、身にしみてわかっただろう」
残酷な高笑いを浮べるノームに貴族たちは頷き、使用人奴隷たちは恐怖に顔をひきつらせた。
「ユリスーーーーー!」
そして、砂の穴の中で隼人はいつまでも叫んでいた。

次の日

「なんで私が退学になるんですか」
顔を真っ赤にして詰め寄るアイリスだったが、学園長オウルは欲深そうな笑みを屑さない。
「貴方は学園の財産である奴隷メイドを勝手に処分しましたねえ」
へらへらと笑う学園長
「そんなもの、補償すればいいだけでしょう!」
「それだけではなく、召喚された騎士は貴方に反抗していますよね。王子が止めなかったら殺させていたとか。これは伝統ある神法学園の生徒としていかがなものかと。王子もあの魔民が貴女の騎士として従ってくれないと、ご不快に思われるようですし」
さりげなく大神殿を管理するソレイユ王子に責任転嫁する。
「あいつが反抗したのは私にです。つまり、私が裁いたのですわ!責任などありません」
一歩も引かないアイリスだったが、学園長室にいたもう一人の人物が間に入った。
「アイリス嬢、くどいですよ。貴方が友人の騎士をたきつけて魔民の少年を殺そうとのは、本人からも他の人からも証言がとれています。そんな事をするのは貴族失格です」
金色の髪をしたミケーネ神官が諌める。
「でも!!」
「まさか神に選ばれた騎士を主たる貴族が処刑しようとするとは。神に仕える者として貴女を許すわけにはいきません」
ミケーネがアイリスを責め立てる。
彼女はアイリスに軽率な事を言ったせいで、隼人を処刑寸前まで追い詰めてしまった心底悔いていた。
(私が騎士が死ねば新しく召喚できるなどと言わなければこんなことには・……。まさか本当に騎士を処刑するなどという暴挙にでるとは)
思わぬ事態に自分の力不足を嘆く。
しかし、アイリスは王子を持ち出されても怯まなかった。
「わかりました。この件では父であるライム公爵にお話させていただきます。私の所有物である騎士を処罰しようとことに、どういった罪があるのか父に説明していただきます。もちろん、何らかの処罰があった場合、ライム公爵家を敵に回すことをお忘れなく」
勝ち誇った顔で虎の意を借るアイリスに、学院長の顔が渋くなった。
「ま、まあ。落ち着いて」
退学をちらつかせて寄付金を引き出そうとしていた学園長が落ち着かせようとするが、アイリスの怒りは収まらない。
「当然、ライム家とその傘下の家の今後の寄付はなしです。また、今後は王室との付き合いも考えなければならないでしょうね。ではごきげんよう。今から実家に帰りますので」
きびすを返して部屋から出ようとするアイリスを、学園長があわてて呼び止める。
「待ちなさい……仕方ない。今回だけは処分なしといたしましょう」
「学院長……それではあまりに王子の意思を無視されているのでは? 」
抗議するミケーネだが、オウルは説得にかかる。
「仕方ないでしょう。国内第一の公爵家を敵に回すと、学園の存続にもかかわります。王子にとっても、よい事は何一つないでしょう」
「それはそうですが……」
「その代わり、もし今後あの騎士が事故であれ故意であれ死んだ場合、問答無用で退学ですぞ」
「……わかりました」
悔しげに唇を噛むアイリス。
「仕方ありません……私も王子を説得しましょう」
ミケーネも納得して引き下がった。

「困るな。今君の処遇について、アイリス嬢と交渉中なんだ。おとなしくしていてもらわないと」
再び学園の地下牢に幽閉されている隼人に向かってソレイユ王子が言う。
「ふざけるな!!俺の物を盗んだことはまだしも、ユリスを殺しやがって!あの女ぶっ殺してやる」
牢内でいきり立っている隼人。
ソレイユ王子はため息をつくと、静かに話し始めた。
「……学園の奴隷メイドについては、ライム公爵家から学園に補償金が支払われていて、示談が成立している。そのメイドも髪飾りの盗難をした発言しているし、少々のやりすぎもやむをえんだろう」
「貴様!!」
「落ち着きたまえ。奴隷の生殺与奪の全権は所有者である学園が決めることだ。その学園が公爵家との間と示談が成立している以上、君が何を言っても無駄だ」
「……」
視線で殺そうとでもするかのようににらみ付ける隼人。
「……それから、君の所有物を主人が勝手に売ったとのことだが、君は騎士なので主人に従う存在とも言える。盗難が成立するかどうか微妙なところだ」
「そんなことはどうでもいい!!!あいつを殺してやる」
牢の中で喚く隼人。
「いい加減にしたまえ!!ただでさえ君は奴隷か騎士かで身分が定まっていないんだぞ。そのような態度をとるなら、私も君を奴隷とみなすようになるぞ」
「奴隷上等だ!!騎士なんか願い下げだ!!お前らなんかに従うもんか!!」
取り付く島もない隼人の態度にソレイユ王子も態度を硬化させる。
「わかった。ビーナス、やってくれ」
「はっ。『シャインスパーク』
隣にいたビーナスが杖を振ると、光の玉が飛び出て隼人の体に当たる。
全身に激痛が入り、地面に転がって苦しむ隼人。
「ぐぐぐぐく……」
痛みのあまり全身が麻痺し、隼人は動けなくなった。
「しばらく、学園の使用人奴隷をして頭を冷やすがいい。その態度を改めないと、騎士としては認められないからな。看守!」
「はっ!!」
髭もじゃの大男があわてて跪く。
「この男を学園の奴隷頭の下に連れて行き、しばらく礼儀と常識を教えてやれ」
「かしこまりました!」
大男が隼人を牢から連れ出して奴隷頭のところに連行する。
その姿を見送っていた王子はため息をついた。


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