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決闘
こうして、隼人はアイリスたちと戦うことになったのであるが、ユリスは顔面を蒼白にしながらまず止めに入った。
「だめです隼人さん。あなた殺されちゃいます。相手は貴族様と騎士様なんですよ」
貴族の恐ろしさを心底知っている彼女は、隼人を引きとめようとしたが、隼人は止められなかった。奴隷扱いしてくる貴族に心底憤っていたのである。
「けど、ここで引き下がるなんて出来ねえよ。殴りとばしてやるよ」
隼人は喧嘩の経験はあまりなかった。しかし、ユリスを死刑にするといいはなったアイリスを許せないと思ったのである。さらに、次のアイリスの言葉でよりヒートアップしてしまった。
「あんたって本当にバカね。その奴隷女の言う通りよ、あんたの相手は神法を使える騎士なのよ。あんたなんかが勝てるはずがないじゃない。ふふ、せいぜいがんばるのね」
そういい捨てると、ノームとなぜか引っ張り出されたイグニスの元に駆け寄る。
「イグニス。ノーム。貴族に逆らったあの奴隷をキッチリ殺してね」
目をきらきらさせて頼み込む。
「アイリス様、お任せください」
ノームは胸を張るが、イグニスは気が進まない様子である。
「アイリス様。確実にあのメイド奴隷が盗んだという証拠があるわけでもないし、女を護るために体を張るとはなかなか騎士道精神にあふれた少年ではないですか。それに免じて許してあげても……」
隼人の男らしさに好感を覚えたイグニスがとりなすが、アイリスはきく耳を持たない。
「だめよ。中途半端な制裁はやめて。貴族に逆らった大罪人。キチンと殺して」
冷たい顔で殺すように依頼する。
殺してという言葉にさすがに周囲はシンと静まった。
「おいおい、仮にも君の騎士だぜ。さすがに殺すってのは……」
見物していた貴族の生徒からそんな声が上がる。
彼らは戦いなどは騎士に任しているので、実際に目の前で人が殺されるところなどを見たことはない。中には血生臭いことを嫌う者もいた。
「だめよ。貴族が決闘を申し込んだのよ。決闘ってのは相手の息の根を止めるまでするものよ。そうじゃない決闘ごっこしかできないなら貴族の誇りなんてないわ。たとえ私の騎士として選ばれたものでも、例外ではないわ」
冷酷に言うアイリスから、どうしても他人の手で殺してやりたいという意思が伝わってくる。
「いい加減、こんな騎士にうんざりしているのよ。主人である私に無礼を働くし、何もできない黒髪だし。なにより、貴族に逆らう奴隷なんて生かしておけないわ」
思わず本音を漏らすアイリス。
顔をしかめるイグニスだったが、やがて覚悟を決めたように隼人に向き直った。
「……すまんな。君は先ほど命を懸けて貴族に逆らうことを宣言した。その男気は買うが、主人に反逆する騎士の存在を誰も認めないだろう。この上は私と正々堂々と戦って意地を見せるがいい」
そういって戦いの準備のために部屋から出るイグニス。
隼人は今更ながらに恐怖に震えてしまった。

大神殿にて。
豪華なデスクに座った美少年、ソレイユ王子が熱心に鏡をのぞいている。
鏡には隼人やアイリスが映っていた・

「まずいですね……せっかく召還された魔王候補者が危険に陥っている」
腕組みをして考える。確かにこの国のみならず全世界で伝説の魔王は忌み嫌われているが、彼には隼人をなるべくなら殺したくない理由があった。
光の国トーキンに伝わる救世伝説には、魔王もまた欠くべからざる一ピースなのである。
彼の部屋に飾られている大きな太陽を模した柱時計。カチ、カチと音を鳴らし続ける時計の円盤のなかには分針と時針があり、十一時五十九分の位置で止まっていた。
「……私が生きている間に『大停止』がくるとは限らないが、そろそろ予言された5000年が過ぎたころだ。あと猶予は一分相当分の期間……そんなとき、魔民が騎士として召還された。彼が魔王の可能性がある。……ビーナスはいますか?」
鈴を鳴らして自分の騎士を呼ぶと、ドアが開いて金髪の美人が入ってきた。
「騎士ビーナス、御前に」
ひざを突いて礼をする。
「早速ですが、今から神法学園に出向いて、決闘を止めて欲しいのです。黒い髪の騎士を救ってください」
主人の言葉に動揺する騎士。
「……おそれながら、黒髪などという不吉な騎士は、始末したほうが世のためでは?」
「ところが、そうもいかないのです。お願いします」
ビーナスに王子が懸念していることを事細かく話す。
最初は胡散臭そうに聞いていたが、最後は真剣な顔をするようになった。
「わかりました……」
かなり不満そうだったが、一礼して出て行く。
(頼みますよ……。万が一本物の魔王だったら、この世界を救うために必要なのです)
鏡を見ながら複雑な思いをもつ少年だった。

神法学院 学院長室にて

「ふむ……決闘か。まあ、いい刺激になるでしょうな。黒髪奴隷たちも、奴の制裁を見て改めて従順になるでしょう」
のんきに言うでっぷりと太った中年男。これが学院長であるオウルである。
彼は大貴族の出身で、金で学園長の地位を買ったと噂されていた。
その噂を裏付けるように、金さえ積めば少々のことは認めている。
「いい加減にいなさい。王子ソレイユ様のご命令ですよ。ただちに決闘許可を取り消しなさい」
高飛車に言ってくる騎士ビーナスの言葉を聞いて顔をしかめる学園長。
「はて。ソレイユ王子は大司祭として大神殿においでだ。一方こちらは神法学園。王子にこちらに命令する権限がありましたかな? 」
耳の穴をほじりながら言う。
「そ、それは……。確かに命令する権限はありませんが、王子の要請なのです」
「なるほど、命令ではなく要請ですか。ならば正式に却下します。お帰りください」
ドアに向けてヒラヒラと手を振るう。

「そのような事を言っている場合ではありません。決闘などをしてしまうと、彼が殺されてしまうではありませんか!」
「まあ落ち着きなさい。所詮学生の決闘ごっこ。喧嘩して終りですよ。召還騎士がいくら未熟でも、奴隷ふぜいを殺すほど誇りがないわけじゃあるまい」
主人であるアイリスが別の騎士を召還するため、殺す覚悟を決めているのも知らない。
「はあ……いいですか?魔民が召還されたということが気になるのです。今までにそんな事はなかった。それに、あの騎士の背中に浮かび上がった正体不明の文字……まかり間違えば、彼は魔王になる可能性すらあります」
ビーナスの言葉にオウルは一瞬キョトンとした顔になるも、次の瞬間大爆笑した。
「ははは……『魔王』などと。奴隷たちが自らの境遇を慰めるための御伽噺ですよ。そんなものを信じるとは、ソレイユ王子はなかなか想像力豊かですな」
思い切り馬鹿にしたような口調で笑う。
「くっ……」
「それに、『魔王』になる可能性があるのなら、なおさらここで死んだほうが都合がよろしいではありませんか。王子は何を考えておられるのか?」
「もういいです。王宮に連絡してすぐに中止命令を……」
きびすを返して退室しようとするビーナスの背中に声がかかる。
「ふふ。ライム公爵の次女はこの国一番の貴族の子女。ライム公爵の後ろ盾を得た王族のうちの誰かがもっとも王位に近くなるのです。あまり逆らうような事をしないほうが身の為ですぞ」
「失礼する!!」
あらあらしい声を上げてビーナスは部屋を出た。
(ふん。王子など王の器ではない。このワシに一度も贈り物を送ってきたこともない世間知らずよ。ワシに貢げば有力貴族の跡取りたちとの間を取り持ってやれるものを。気の毒だが、一生大神殿の飾り物だな)
:決闘の許可を取り付けるために、アイリスが渡した金を数えながらオウルはそう思うのだった。

神法学園 中央広場。

正面から向き合う隼人と、騎士2人。周りで見守る人間の中には、残酷な笑みを浮かべるアイリスたちと、顔が真っ青なユリスの姿もあった。
「ほう。逃げずにやってくるとは感心だな。いや、愚かなのか?逃げもせずに処刑場までくるなんて」
ノームがあざ笑うように言う。
(糞・・・本当は逃げたかったんだが、お前の取り巻きが見張ってたんだよ)
声にならない愚痴を押し込める。
隼人はあれからずっと騎士たちによって見張られていた。
「……なるべく早く謝罪して、そこの女を引き渡すのだな。恥をかくだけだぞ」
むしろ隼人に同情したような顔をしているイグニスの言葉にはっとなる。
「いや。証拠もないのに死刑なんておかしい。ちゃんと裁判にかけるべきだ!!」
「おろかな。奴隷に裁判など必要ない。疑わしき奴隷は死ぬべきだ!!」
杖を取り出すイグニスの顔にはもはや容赦はない。
決闘の名を借りた処刑が行われようとしていた。

「それでは始めようか。」
 ノームが杖を振り上げると、周囲の小石が浮き上がり、隼人の方を向く。
「ちょっとまて。なんだそれ。卑怯じゃないか」
「はあ?何を言っている?騎士の僕が神法で戦うのが卑怯だと?……ここまで僕をコケにするとはね。『ストーンブレッド』」
 ノームが杖を振ると、無数の石がすごいスピードで隼人の体に当たる。
「ぐっ……くそ!」
顔面に当たって意識が朦朧とする。傷だらけになって膝を突く隼人。
「まるで亀だな。どれ……」
余裕の表情で近づいてくるノームに、隼人は立ち上がって渾身の力をこめて殴りかかる。
しかし、ノームの前にできた石の盾に防がれ、逆に拳を痛めてしまった。
「あっははははははは。何をしているんだね。騎士なら何らかの神力でもあるんじゃないのかね?そんな無様な様子じゃご主人さまからも見捨てられて当然だね」
大笑いをするノーム。彼はこれでもかなり手加減をしていた。
周囲の貴族からもあからさまな嘲笑が漏れる。
「ははは、素手で殴りかかるなんて馬鹿じゃないか?」
「あれじゃ貴族を守ることなんて全くできないわね」
隼人を思いっきりあざ笑う貴族たち。
この世界の貴族は本当に魔民モノとしかおもっていないのであった。

「ぐ……もうダメだ。ユリスを連れてにげるしかない」
散々に小石に打たれて全身に傷がつき、プライドを捨てて二人で逃げようとする隼人。だったが、ユリスの方を向いたとたんにイグリスが前をふさぐ。
「……あきらめろ。所詮、何をしようと無駄だ!!」
「嫌だ!!」
「聞き分けのない。『フレイムボール』」
イグリスが杖を振るとサッカーボールくらいの火が発せられ、隼人に当たる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
服に火がつき、隼人は熱さのあまり転げまわった。
「……早く降伏しないと焼け死ぬぞ゜」
「嫌だ……くそ!!熱い!!なんでもいいから、この火をのけてくれ!!」
反射的に念じると、体の中に感じていた力が放出される。
隼人の体から神力が発せられ、火が隼人の体から消える。
「うわ!!」
「なんだよ!!」
周りで見ていた生徒たちの一人の服に火がつく。
あわてて周囲の生徒が水の神法を使って消した。
「これは……なんだ。私の炎を消すとは……」
驚愕するイグリス。、
なんとか火を『アポーツ』で転移させた隼人だったが一気に体内の神力をなくし、脱力して膝を突き荒い息をしている。
「……お前は良くやった。私はお前を騎士として認めてやってもいい。だから、これ以上意地をはらず、その女を引き渡せ」
「い……や……だ」
息も絶え絶えで隼人はそう繰りかえした。
「隼人さん……。もういいんです!それ以上逆らったら、隼人さんまで死んでしまいます!」
ユリスが泣き叫んでいるが、隼人の耳には聞こえない。
そんな隼人に余裕を持って近づくノーム。
「おいおい、土下座でもして僕を拝みでもすれば、助ける気も起こったのに。まだ僕たちに逆らうのかね。興ざめだよ。……人を殺すのは初めてだが、君みたいな魔民なら良心もとがめまい。僕の初体験の相手にでもなってもらうかね。どうせ騎士としていつかは敵を殺して童貞を捨てねばならないのでね」
無数の砂が隼人の体に取り付き、お互いに結びついて拘束する。
「ま、まて。そこまですることは……」
イグニスがあわてて止めるが、ノームは残酷な笑みを浮かべて隼人を見るだけである。
「そうです。お願いですからやめてください。アイリス様、私が髪飾りを盗んだんです。だから、私を処刑してください」
とうとうユリスが飛び出して、アイリスの足元にすがりついた。

「うふふ。やっと認めたわね。でももう遅いわ!あの奴隷は罪人をかばって貴族に反抗した。たかが魔民の分際でね。貴族に反抗するような奴隷はいらない。イグリスたちに始末してもらって、新しい騎士を召還するって決めたの」
「そんな・・・・」
ユリアは泣き崩れる。
「アイリス様、ちよっと待ってください。まさか最初から私たちに彼を始末させようと?もしや、彼を殺して新しい騎士を呼ぶために仕組んだんじゃ…… 」
思わず出たアイリスの本音を聞きとがめる。
「問答無用よ。ノーム。お姉さまのためよ!やりなさい」
「貴族に反抗する奴隷に天罰を!!」
パッセもブルーリンもはじめてみる処刑に興奮している。
「そうだ!!」
「黒髪など生きる資格はない!!」
興奮した貴族や騎士たちからも処刑を求める声が次々とあがる。
その声を隼人はぼんやりと聞いていた。

「ま、僕も少々やりすぎの気もするが、これも貴族を守る騎士の務めなのだろう。きっちり葬って挙げるよ。『サンドインフェルノ』!!」
隼人が固められている石柱が立っている地面が砂になり、石柱が砂に沈み始める
「さすがに直接殺すのは手が汚れる。このまま埋葬してあげるよ。暗い地面の底で永遠に悔やむがいい」
隼人はどんどん地面に吸い込まれていく。
「隼人さーーーーーーーん!!!!」
泣きながら隼人を助けようとするユリスだったが、飛び込もうとする寸前にイグニスに押さえつけられる。
「よせ!もう間に合わん。命を無駄にするな!!」
「離して!」
力いっぱい暴れるユリスだったが、幼いころから鍛えられているイグニスにかなうわけもなかった。
隼人の頭が地面の下に消えそうになる。
「隼人さん……」
地面に座り込んで泣き崩れるユリスをみて、一部の生徒は同情したような顔になるが、大部分の生徒は目の前で行われた処刑に興奮している。
「俺、初めて人が死ぬところを見るよ」
「人じゃないわ。魔民よ」
「それもそうか」
あちこちで聞こえる笑い声。この声を聞き、ノームはますます興奮していった


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