水説:環境版ドーハの悲劇=潮田道夫

毎日新聞 2012年12月12日 東京朝刊

 <sui−setsu>

 世界中の国が一堂に会して、全員一致で何ごとかを取り決める。そういう物事の進め方が壁に突き当たっている。

 世界貿易機関(WTO)では世界一斉関税引き下げ交渉ともいうべきドーハ・ラウンドを10年以上やっているが、何も決まらない。細々と交渉は続いているが、大団円はやってきそうにない。

 地球温暖化問題もそうだ。くしくもそのドーハ(カタールの首都)で、国連気候変動枠組み条約第18回締約国会議(COP18)が約2週間にわたって開かれた。

 一応「ドーハ合意」はできた。温室効果ガスの削減義務がなかった中国や米国なども加わって、20年から新たな削減の取り組みを始める。その中身を3年後のCOP21までに詰めることとなった。

 一見「ポスト京都」の道筋ができたかのようだ。が、私には環境版「ドーハの悲劇」だったように思われる。国連の枠組みで温室効果ガスを減らすのは望み薄であることが見えた会議だった、と思う。

 どの国も環境は大事だが、食うのが先だ。先進国経済は日米欧とも不調で景気のよかったBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)にも警戒信号がともっている。

 各国とも成長路線への回帰優先だ。温室効果ガスの排出削減は経済成長にブレーキをかける。大義は分かっても譲歩できない。

 ドーハでは環境NGOグループが、日本と米国に「化石賞」を贈って、後ろ向きの姿勢を皮肉った。だが、日本政府のスタンスは妥当であり批判は的外れだ。

 日本は京都議定書の約束を守るため、海外から排出余剰枠(クレジット)を何千億円も購入する羽目になった。震災で原発が止まり火力発電で代替したから化石燃料代が急増している。震災前に比べ、年間4兆円以上の負担増が続いていく。

 その負担がいまの景気後退の一因になっている。これ以上、外国に国民の税金を献上するような仕組みに参加できないのは当然だ。

 日本は国益を守りつつ、世界の温室効果ガスの排出総量を減らす道を模索すべきだ。例えば途上国の石炭火力は大量の温室効果ガスを出しているから、その発電効率を技術協力で高めていく。

 貿易・投資分野では、世界一斉でなく2国間・地域内協議で、先行できるところから自由化を進めていく流れになっている。温暖化問題でもその方が実効がある。

 日本は途上国と2国あるいは数カ国間で協議し、相手国の温室効果ガスを減らしていくことに努力の重点を移した方がいい。(専門編集委員)

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