――ノンフィクション作家が心がけるべきことは、なんですか。
僕が尊敬する作家の広津和郎(1891〜1968)は、作品はどれも無味乾燥なんだけれど、「散文精神について」という有名な講演をしています。どこまでも忍耐強く、執念深く、ただただ淡々と物事を見るべきだというのがその論旨で、これこそ僕らが忘れてはならない心得だと思う。
この散文精神で書かれる作品は、「動詞と名詞だけで書かれる文芸」とも言いかえられる。形容詞や副詞はほとんど必要ない。動詞と名詞は、時代が変わっても、けっして腐らないからなんです。
――1990年代から「ノンフィクション冬の時代」と言われています。受難はまだ続きますか。
ノンフィクションは根底において、僕らがいま、どんな時代に生きているのかを伝える文芸です。ライターを経済的に支えられる媒体がなくなってしまい、絶望的なまでに徒手空拳にならざるを得ないけれど、それと裏腹にいまの世の中は、ノンフィクションに書かれるべき対象が山ほど転がっている豊穣(ほうじょう)の時代だと思うんですよ。
ダイナミックに時代をわしづかみにする気構えさえ身につけていれば、活路はまだあるはずです。
文/保科龍朗
(更新日:2012年07月10日)
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