2012年9月21日(金)

少子化と戦うシンガポール

1人あたりのGDPが日本を上回り、著しい経済成長を遂げるシンガポール。
実は、日本よりも深刻な少子化に直面しています。



 

シンガポール リー・シェンロン首相
「シンガポールは国民が次の世代を育てたくなる場所でなければならない。」
 

危機感を強めたシェンロン首相は先月(8月)、少子化対策を国の重点課題にすると強調しました。
出生率はこの20年あまり下がり続け、去年(2011年)、1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の平均は1.20と世界最低の水準になりました。
晩婚化も進み、テレビでは積極的な恋愛を促す名物医師も登場。
少子化に歯止めをかけようと、あの手この手の対策に乗り出しています。
シンガポールが直面する少子化の実情に迫ります。
 

傍田
「日本でも大きな社会問題となっている少子化ですけれども、シンガポールや韓国は日本よりもさらに状況が深刻です。」



 

鎌倉
「こちらをご覧ください。
1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の平均で表される指標、『合計特殊出生率』についてアジアの主な国々を比較したものです。
フィリピンは3.19、インドネシアが2.25となっています。
そして、日本は1.39、それに対して、シンガポールはさらに低い、1.20となっています。
 

このうちシンガポールと日本について出生率の推移を比べてみますと、シンガポール、この赤い線ですけれども、この20年ほど少子化の進行に歯止めがかかっていないことがわかります。」


 
傍田
「経済の発展に伴ってアジアの国々で進行するこの少子化。
その現状をシンガポールで取材しました。」
 

シンガポール 世界最低水準 深刻 進む少子化

少子化が深刻なシンガポールで先月流れたCMです。
独立記念日の夜の過ごし方を提案し、話題になりました。

「今日は国民の日。
みんなで義務を果たす時だ。
だけど演説でも花火でもパレードのことじゃない。
さあ、今夜は子作り、子作り。」

シンガポール政府は、子どもを出産しやすい環境を作ろうと、有給の出産休暇制度を4か月にまで拡大したり、日本円で最大
40万円を支給する出産一時金の制度を設けるなど、対策に取り組んできました。
さらに、結婚を促そうという取り組みも進んでいます。
政府が設けたこちらのお見合いサイトでは、
独身の人が登録するとパーティーなどの案内が届きます。

「カモ~ン」

これは政府の少子化対策に協力してきた名物医師が、恋愛や結婚、そして出産に関心を高めて欲しいと始めた女性向けの情報番組です。
出産に欠かせない健康な身体作りに役立つ「ラブ・サラダ」という料理のレシピを紹介。
出産の悩みを解決するスマートホンのアプリも開発中です。

Dr.ラブ
「これは赤ちゃんを望んでいる人たちのためのツールです。
出産前の食べ物やリラックスの方法などを学ぶことが出来ます。
子づくりについての情報を友人と共有することで少子化対策になるのです。」

 

しかし、こうした対策にもかかわらず、少子化に歯止めがかかりません。
その要因の一つとして指摘されているのが女性の社会進出です。

吉岡記者
「中心部にあるビジネス街です。
ここを歩く人たちを見ますと男性と女性の割合というのはほとんど変わりません。」

徹底した能力主義のシンガポールでは、男女の分け隔てなく優秀な人材が登用され、経済成長の原動力となってきました。
働く女性の8割あまりはフルタイムの正規雇用。
およそ4割の日本を大きく上回り、女性が企業の要職につく割合は、アジアでも飛び抜けて高いといわれます。
一方、女性のキャリア志向が強まるとともに、結婚や出産は後回しになりました。
一昨年、政府が行った調査によりますと、20代後半の女性で独身の割合はこの10年で14ポイント増え、54%にのぼっています。
晩婚化が進行しているのです。

市民
「シンガポール女性は仕事が大事なの。
子どもは仕事の妨げになるわ」。

「この国で子どもを育てるのは簡単ではありません。
子どもが多いと、最善なものを与えられません。」

ファッション雑誌の記者として働くシャーメイン・ホーさん、33歳。
この業界で働いて8年あまり、現在はシニアライターとして活躍しています。
残業や深夜勤務は日常茶飯事、休日に自宅で記事を執筆することもしばしばです。
将来は独立し、会社を興すのが夢です。
来年(2013年)初めに結婚を控えるホーさん。
しかし、仕事を続けながらの出産、子育てに不安を感じています。

シャーメイン・ホーさん
「シンガポールでは子どもを持つのが難しいといわれるけれど、それはお金の問題だけじゃなくて仕事が犠牲になるのが問題なの。」

ホーさんの婚約者
「彼女がキャリア志向なのは良いことだし、私に何か起きても彼女が家計を支えることが出来ます。」

いつかは出産もしたいと考えていますが、同時に頭に浮かぶのは、シンガポールの厳しい競争社会です。

シャーメイン・ホーさん
「定員100人の大学に1000人が応募しているような状態で国中で競争しているわ。」

競争が激しさを増すなか、「いくら費用がかかっても子どもに高いレベルの教育を受けさせたい」という親は以前より増えているといわれます。
ホーさん自身も同じ考えです。

シャーメイン・ホーさん
「子どもには出来るかぎり最高の環境を与えるのが親の責任だわ。」

独立という自分の夢を追いかけながら、出産もして、子どもには英才教育を授ける。
その両立は容易ではないと、ホーさんは感じています。

シャーメイン・ホーさん
「理想は5人の子どもが欲しいけど、理想と現実は違うからせいぜい2人までかしら。」

吉岡記者
「仕事を続けながらどうやって子育てしますか。」

シャーメイン・ホーさん
「今は何も考えたくないの。
将来のことを想像すると、とても怖いわ。」

シンガポール 進む少子化

鎌倉
「スタジオには家族や少子化の問題にお詳しい中央大学教授の山田昌弘さんにお越し頂いています。
山田さんは、『婚活』や『パラサイト・シングル』といった流行語を作り出したことでも知られています。」
 

傍田
「ちょうど先週、山田さんはシンガポールで、現地で少子化を含めた結婚事情の調査をされてきたということなんですけれども、現在のそのシンガポールの少子化の事情、現状、どういうふうにご覧になりましたか。」

山田昌弘さん
「結婚直前のカップルにインタビューしたんですけれども、頭ではというか、理想では4人も5人も欲しいというふうに言うんですけれども、現実にはって言うと、特に女性ですよね。
男性はもう本当に、無邪気に言うんですけれどもね。女性の方は『いやぁ』とか言って、なかなかたくさん産み育てるっていうのは難しそうなこと言っていましたね。」

鎌倉
「私もいま見ていて、すごくこう、何ていうんですか、共感するというか、漠然としたこう不安っていうのもすごく分かるような気がするんですけれども、それってその、日本となにか似ているところがあるのか、あるいはこうシンガポール特有のものがあるのか。
シンガポールって結構ながくから少子化対策をしているにもかかわらず、なかなか歯止めがきかない。
何か特有の背景っていうのはあるのでしょうか。」

シンガポール特有の問題は

山田昌弘さん
「少子化が進んでいる国っていうのは、ヨーロッパと東アジアの、いわゆるユーラシアの両極で凄く進んでいるんですね。
私はヨーロッパの少子化と東アジア、韓国とか先ほども出ましたけれども台湾とかの少子化とはパターンが違うのではないかというふうに思っているんですね。
ヨーロッパ型の少子化というのは、いわゆる特に女性が自分のキャリアを追求したい、まあ自分の時間を持ちたい、という形での少子化なんですね。
だけれども、東アジア型の少子化というのは、日本もそうなんですけれども、子育てにお金がかかったり、手間暇がかかる。
貧しいころはよかったんですけれども、豊かになると自分たち以上に子供に学歴をつけさせたい、という意識が強くなるんですね。
特に、韓国、日本はそうなんですけれども、それでシンガポールっていうのは、ちょうど中間っていうのもあるんですけれども、この二つの要因が重なっているような気がするんです。
今言ったように、シンガポールは女性の参画化が非常に進んでいますから、キャリアを追求しようとする女性も多い訳ですね。
一方で、やはり特に中華系のシンガポール人はそうなんですけれども、日本や韓国と同じようにとにかく子どもを産んだら、自分以上に育てないと。
お金じゃないと言っていましたけれど、やはり留学とかも考えますとお金もかかるし、特にシンガポールでは、子供が大きくなると仕事を辞めるっていう母親が多いんですね。
つまり小さいうちはメイドさんとか、親戚とかでいいんだけれども、子どもが大きくなると今度は母親が自分の目で教育をコーディネイトするっていうような役割を求められて、そういう意味で子どもの数が少なくなる。
この、自分のキャリアも追求したいし、子どもが生まれたら手間暇、お金をかけたい、この両方の要因が重なっているというふうに思っています。
だから深刻化しますよね。」

恋愛に対する価値観の変化は

傍田
「日本だと草食系男子というような言葉があったり、若干その恋愛とか結婚に対する価値観そのものがどうも若い世代で変わってきているというようなところもあるんですが、そういった部分というのは、シンガポールの場合、あったりするんですか。」

 

山田昌弘さん
「シンガポールの人たちは、草食系にはなかなかなっていないという話、ただですね、ちょうどいったときにAKB48カフェというのができたということで行ったんですけれども、相当若い世代の人の中ではやはりそういう、現実の恋愛よりも、バーチャルな恋愛っていう人が増えているっていう話は聞きますけれども、多分日本や韓国ほどではないというふうに思っています。」

アジアの国々 少子化の傾向は

鎌倉
「ちょっと広がった視点でお伺いしたいんですけれども、シンガポール同様に今おっしゃったように、韓国、香港、台湾といったその経済成長、高度経済成長じゃなくて、経済成長から少し豊かになった国や地域、そういったところが一様に日本と並ぶくらい、それ以上に少子化が進んでいるんですけれども、これ経済発展と少子化、どんな要因、関係性が考えられますか。」

山田昌弘さん
「経済発展が進むと、高学歴化をしないとなかなか社会で活躍できなくなると、だんだんと結婚する時期が遅れていくと、女性も男性もですね。
そして、自営業とかは別ですけれども、やはり今は外で働くというのが主流ですから、そうするとやはり子育て環境というものの整備というのが課題になってくるけれども、まだそれに追いつかない状況があるんです。

ただシンガポールは子育て環境はいいんですね。
ただ、こちらの養育の手間や、教育費の負担というものがあるので、つまり経済発展というのは、親が豊かになって高学歴になるということですから、自分の子どもをそれ以上に育てたいっていう気持ちが、特に東アジア諸国では強くなるんですね。
さらに、豊かになってしまうと、今度は落ちたくないわけですよね。
そうすると、たくさん育てて今の水準が維持できなくなるかもしれないという不安もありますし、さらに価値観の多様化ということで、いわゆる子供を育てるだけが人生じゃないと思う人も増えてくる。」

少子化 有効な対策は

傍田
「先ほどのレポートを見ていても、シンガポールもいろいろと対策は打ってはいるようですが、決めてはなかなか見つからないってことですが、日本の場合も含めて少子化対策、何か歯止めをかけていく有効な対策っていうのは見出しうるものなのでしょうか。」

 

山田昌弘さん
「日本はいろんな対策が遅れている方だと思うんですけれども、特にシンガポールもそうですけれども、教育費の不安というのが非常に大きいですよね。
結局結婚する人が少なくなってるというのも、結婚して子どもを育てるくらいに十分な経済力が無いっていうところが多いわけですから、もちろんシンガポールがあれだけ国をあげて婚活支援をしているんですけれども、それでもなかなかっていうことですので、日本も見習うっていうのも変な話なんですけれども、歯止めをかけるためには特に、教育費負担というものの不安というものを若い人たちから除くような政策っていうのが一番効果があると思うんですよね。」

傍田
「少なくとも、そのやっぱり対策の重要な一つのメインにはなってくるというんですかね。」

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