<敵に聞け>(2) 自民ならいつか来た道に
1946(昭和21)年に公布された日本国憲法の正本。昭和天皇は上諭(前書き)で、新憲法は「国民の総意」「新日本の礎」であり、その誕生について「深くよろこび」と気持ちを表している |
ライバルたちに「この政党に入れてはいけない理由」を語ってもらう「敵に聞け」。今回、俎上(そじょう)に載るのは世論調査で大幅議席増も予想される自民だ。公約では「国防軍の保持を憲法九条に明記」「集団的自衛権の行使を可能にする」と打ち出したことが目を引く。
◆改憲
そもそも集団的自衛権とは「自国と密接な外国への武力攻撃を、実力で阻止する権利」のこと。日本では九条を根拠に権利の行使を認めていないが、安倍晋三総裁は「米軍が攻撃された時、日本は何もしなくていいのか」と繰り返している。
民主の護憲グループ「リベラルの会」を率いる前職の近藤昭一さん(愛知3区)は「米軍が攻撃された場合というより、米国が起こす戦争に日本が巻き込まれ、攻撃に加担することになる」と解説する。イラクでの復興支援やアフガニスタン戦争の給油作業など、以前の自衛隊の活動とまるで違い、直接の戦闘に加わるというわけだ。
実際、米国が始めたイラク戦争で、英国は集団的自衛権を行使して参戦した。自民の改憲草案は、憲法の前文「再び戦争の惨禍が起こることのないように決意」や、九条二項の「交戦権は認めない」を削っている。
近藤さんは「九条があるから自衛隊は人を殺さずに済んできた。第二次世界大戦で多くの命が失われ、『戦争はもうやめよう』と決意した日本人の精神が変化してしまう」と危惧する。
“味方”にも異論がある。自民と友党関係の山口那津男・公明代表は「長年定着した自衛隊の名称を変える必要はない」と明言。集団的自衛権行使も何度も反対している。
「戦前に逆戻り」という批判は政党を超えて多い。元防衛官僚で、一九九二年にカンボジアへの自衛隊派遣を決めた時の担当局長だった小池清彦・新潟県加茂市長(75)が補足する。「自民の主張通りになれば、自衛隊から初めて戦死者が出る。すると隊員のなり手がいなくなり、徴兵制が復活する。“赤紙”で招集された若者が血を流すことになります」
◆原発政策
大半の政党が何らかの形で脱原発を掲げる中、自民は「三年以内に再稼働の可否を判断」「十年以内に電源のベストミックスを確立」と、原発への姿勢を覆い隠すような言い回しに終始する。
官邸前の脱原発デモに参加している日本未来の党前職、橋本勉さん(岐阜2区)は「ベストミックスに原発を残すのは目に見えている。論点をぼかし、国民を取り込もうとしているだけ。核燃料のごみがこれ以上増えたら、また新たな処理施設も必要になりますよ」と語気を強める。
共産新人の三沢好夫さん(長野5区)も「安全神話をつくり、原発を推進してきたのが自民。経済優先の福島原発事故前に戻ってしまう」と警告する。
◆公共事業
自民は「防災」を旗印に公共事業で堤防や港湾を整備する「国土強靱(きょうじん)化」を掲げる。党内では「十年間で二百兆円」という数字も。
元新聞記者で日本維新の会新人、山本洋一さん(愛知4区)は「土建国家に逆戻り。公共事業で再配分しても、砂漠に水をまくようなもの」と指弾する。政治部時代、ゼネコン幹部の息子が自民有力者の事務所で働く現場を目にした。「景気回復には多くの分野で既得権を壊し新規参入を進めることだが、業界に牛耳られる自民には無理」と言い切る。
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政権を失った三年間で「自民は深い反省をした」と言う安倍さん。政権を奪い返し、新生自民の姿を見せるのか。それとも自分が思い描く「美しい国・日本」に世の中を当てはめようとし、いつか来た道に戻るのか。