1.この「Reset2」の事を初めて聞いた時

 「関ヶ原の戦いを…3人で…Resetで…」
「エ゛ッ!」そう「エッ!」ではなく「エ゛ッ!」。「エッ」に点々がついた感じ「エ゛ッ!」でした。僕は心の奥底で「本当ですかーっ」と叫んでしまいました。誰かが「嘘ですよーっ」って返してくれるのを待っている、そんな気持ちでした。何故か半笑いになっていう自分の顔に気づいたのはその話を聞いてから数分後だったと思います。
  その日はある仕事で寛ちゃん(津田寛治)、BOBAさん(田中要次)、僕は揃った日でした。収録後、監督が合流し、近くの店に入り、そこで「Reset2」に関する説明がありました。この3人は幼馴染みであるという事、農民であるという事、関ヶ原の戦いに望む足軽であるという事そして関ヶ原の戦いが始まるほんの1時間強前の設定であるという事……。
本当にできるのであろうかという不安感と、これはやりたいと言ってもなかなかできる経験ではないという期待感と両方を感じてました。まだ漠然としている状況の中、僕の頭には「死」という言葉がこびりついてはなれませんでした。
 家に帰ってから僕は前作「Reset」のことを思い出していました。根岸さん、遠憲さん、片岡さん、洋三郎さん、光石さん諸先輩方は、「Reset」をやると初めて聞いた時、どんな思いを抱いたのでしょうか。 

2.関ヶ原に行って

 関ヶ原に行って現場を見たいという希望のもと、ある日僕達は監督、横田プロデューサー、映画ライターの斉藤さんと共に現地を訪れました。
関ヶ原駅に降り立った瞬間、その空気の違いに戸惑いました。ずっしり重く、何かがのしかかってくる様で、胸がぐっと占めつけられる、そんな感覚でした。昼食後、まずは関ヶ原ウォーランドに向かいました。その中にある資料館には、その戦いで使われた鎧や刀、槍、兜などがずらっと展示されていました。その全てが時空を越え、僕に何かを語りかけている。何故かわからないけど悔しくて仕方がありませんでした。
次に石田三成陣跡に行きました。それは小高い丘の上にあり、登り始めてすぐ僕は頭が痛くなりました。監督も同じような感覚なのか「来るなって言ってんのかなぁ」と一言…。
それでも登り続け、三成陣跡に到着しました。そこからは関ヶ原全景が一望でき、その戦況も一目で把握できる場所まさに本や資料にも書かれている通りの場所でした。「ここで三成は勝利を信じ、指揮をとっていたんだ。その後に起こる裏切りや敗北を知らずに。」景色が霞んで見えました。
三成陣跡を訪ねた後、僕達はぽっかりと広がった平地を足取りも重かったのですが歩きました。四方を山に囲まれ、今は道ができ、田畑となっているその場所で約四百年前に天下をかけた戦いがあったという事実を思うと悲しくて仕方ありませんでした。
道沿いには真っ赤な花が咲いていました。その赤は血の色を思わせ、鮮烈に頭に焼き付きました。近くで枯れ草を燃やしていたオバサンからこの花が彼岸花(悲願花)であることを聞きました。「本当に悲しすぎますよね。この花は何故この場所に根をおろしたんだろう。」
その後山道を登り、大谷吉継の墓まで行きました。地元のガイドの方に聞くとそこは皆あまり行かない所だと言ってました。ですが、僕達はどうしても行っておきたい理由がありました。それは僕達は大谷吉継軍の足軽であると設定していたからです。墓石に手を合わせ、しばらくすると何故か気持ちが少し楽になっていました。とても不思議な感覚でした。
その日の夜、宿に入り、皆でそれぞれに感じた事等を話していました。僕の中には「生きぬく事」「生きぬきたい」という気持ちが大きくなっていました。それは今日、この地に来て「死」という事や、「失なう」という事を今まで以上に感じたからかもしれません。 

3.撮影前

 今回のRESETは3人の幼なじみという設定で、それぞれの生活や個々の人間性、背景等、共有しなければいけない部分が多々ありました。個々に集めた情報や資料を基にあらゆる事を話し合い、関ヶ原の戦い前日に至るまでの時間を作り上げていきました。
 撮影当日の朝、信じられない光景が目の前に広がっていました。天候は雨、山間に広がる深い霧、まるで四百年前のその日に、タイムスリップしたかのようなそんな朝でした。鳥肌が立ち、心臓は高なり、足が震えました。
 宿の食堂に行き、コーヒーを飲むと少し気持ちが落ちつきました。ほんの一瞬ではありましたが、窓の外の景色も穏やかにすら感じました。時間はあっという間に過ぎ、僕達はメイク、衣装と準備を整えその時を待ちました。この時の気持ちは言葉にすることができません。今思い返してもそうなんですが、それを表現する言葉が見つからないんです。
現場に到着し監督からカメラ位置の確認、決め事の確認などが話され、すべての準備が整いました。
 すでに僕は関ヶ原の戦いに向かう道中にいました。「生」と「死」というものが頭中をぐちゃぐちゃになって渦巻いていました。 

4.撮影後

直後:
確かに監督の“カット”という声は聞こえました。ただその後自分が何をしていたのかあまりよく覚えていません。ただ1つだけ「時間が足りなかった」と感じていました。それは役者としての“自分”なのか“ロク”という人間が、そう思ったのか。何か呼ばれた様な気がし、フラフラと現場に戻ると監督、寛ちゃん、BOBAさんがいました。「森ちゃん何やってたの?」その言葉にも「わかんないんだよ」と答えることしかできませんでした。

“ロク”を離れて:
全てが終了した帰り、僕達は遅い夕食をとりました。僕はこのRESET2の80分間を思い返していました。冷静に考え動いている時間とすっかり飛んでしまっており時間がありました。監督や寛ちゃん、BOBAさんから聞かれても曖昧で、すぐには答えられない所がたくさんありました。
東京に戻る車中、僕は監督が言っていた言葉を思い出していました。「片岡が言ってたんだけど、そんな人間がいてもいいんじゃないって‥‥‥まさにその通りだよな」

翌日:
僕は関ヶ原の戦いへの想いをこう書き記していました。

  生きる事、死ぬ事
戦いの前、中、後
何を得て何を失うのか
ただ1つ 天下を取るという事の為
どれ程の物、事、者が失われたのか
生きるという事、それは死ぬ事を理解すること
生きぬきたいと思う事、それは死にたくないと思うこと
  人が人を殺すということ
人が人に殺されるということ
RESET=再び置くこと
関ヶ原=再び置いてはいけない事

最後に:
まだまだ書きたかったエピソードはいっぱいあります。それはまた後日、何かの形でお伝えできればと思っています。
最後に、この作品に参加して下さったすべてのスタッフの皆様「本当にありがとうございました」。現場ではうまく伝えられませんでしたが、感謝の気持ちでいっぱいです。この時間を共に生きた事を幸せに思います。そして監督!ありがとうございました。 



- 森下能幸
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