「あなたが沖縄の人だったら」 基地の現実 重い選択
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自らの著書を手に、本土への怒りを語る翁長雄志・那覇市長=那覇市役所で |
きょう四日、衆院選が公示される。米軍基地問題を抱える沖縄と、原発事故の福島。国策が影を落とす二つの地では、政治家自身が中央の政党政治に距離を感じている。どのような選択をすれば、沖縄や福島の苦しみを分かち合えるのか。地域を超えた、一票の課題だ。 (中山高志)
米軍新型輸送機のオスプレイに真っ赤な通行止めマーク。沖縄を代表する都市のトップの胸元には、丸い缶バッジが揺れる。
「あなたが沖縄の人間だったらどうする。米軍機が墜落して家族が死ぬかもしれないというのに『しょうがないや、日本全体のためだもんね』って言うのか。そんな地方が日本のどこにあるんだ」
時折オスプレイがごう音を響かせて上空を通過するという那覇市役所仮庁舎の二階。市長の翁長雄志(おながたけし)さん(62)が、温厚な表情とは裏腹の厳しい言葉を突きつけた。
自民党の政治家だった父や兄の背中を見て育ち、自民党県連幹事長も務めた生粋の保守政治家だ。しかし九月のオスプレイ配備反対集会では赤色のゼッケン姿で先頭に立つなどかつて激しく対立した革新勢力とも手を結び、沖縄の基地負担軽減を強く訴えている。
「きっかけは鳩山(由紀夫)さん」。政権交代のあった三年前、鳩山首相の民主党政権は既定方針を覆し、米軍普天間飛行場の県外移設を打ち出した。しかし、ほどなく県内移設に逆戻りし、県民の希望は打ち砕かれた。
「自民も反自民も本土はみんな『沖縄に基地を置いとけ』ということなんだと感じた」。国土面積の0・6%の沖縄に、米軍基地の74%を押しつけ、経済成長を満喫してきた本土。長い間の我慢が限界に達した。「オール沖縄」で「オールジャパン」に立ち向かう方向へ大きくかじを切った。
衆院選が始まる。「強さ」を競うような保守系政党の論戦の中で、尖閣諸島についても強硬論が語られることを翁長さんは懸念する。
「地上戦の経験がある沖縄は、中国と争ったら危ないというのは皮膚感覚で分かる。観光立国で生きる意味からも『やめてくれ』と言いたい。身の危険を冒す感覚がない人が、尖閣から遠いところで強気になっている」
一方で、オスプレイ配備や沖縄の基地負担軽減をめぐる議論は低調だ。「多くの沖縄の人が米軍に犯されたり殺されたりしながら泣き寝入りしてきた。そういう中で日本の国が守られているんですよ」。中央にいては知ることのできない生々しい現実が、安全保障の最前線にはある。
沖縄全体の所得に対する基地収入の割合はかつての15%から5%に減った。「沖縄が日本に甘えているのか、日本が沖縄に甘えているのか。日本の安全保障は、国民全体で考えてください」