ハラ決めて踊るぜ!の巻



…「Reset」…
それは、鈴木浩介監督がライフワークとして
これから撮り続けていくことを宣言したシリーズ作品の名称…
そのシリーズは今のところ一作品しかない。
「飛びたい人々」…
そんなサブタイトルのついたこの作品を僕が観たのは今から一年ぐらい前のことだった。
Resetの出演俳優の一人、光石研さんからトークショーの依頼を受けて、
初めてResetという作品の名前を知った僕だが、その内容を聞いてブッ飛んだ。
ストーリーは、自殺の名所で名高い廃ビルの屋上を舞台に、
たまたま同じ日の同じ時間に出くわしてしまった5人の自殺志願者たち…というものだ。
ストーリー自体は、食指は動くものの別にブッ飛んではないのだが、企画が凄いのだ。
台本が存在しない完全な即興劇。
最初から最後まで80分ノンストップ。
リハもテストも無しのブッツケ本番。
それを十数台のカメラで同時に撮る。
普通、即興というものは5分ないし10分でやるものであって、
80分の即興劇なんて聞いたことがない。
しかも、俳優なりスタッフなりがストーリーを途中で止める事があったら、
それが如何なる理由であれ、
この企画自体を無かったものにする。
苛めですか?…そんなに俳優が憎いですか?…
と浩介監督に、涙目で迫りたい衝動に駆られた。
だがまあ、何はともあれ人事で良かった!
という情けない安堵を感じながら「Reset」を鑑賞した…
いや〜凄かったっす!!
よく即興で、ここまでクオリティーの高いストーリーを紡げたものだと感心したのだが、
それも出演者を見みれば大きく頷ける。
今の日本映画を支える、酸いも甘いも噛み分けた5人の俳優陣!!
ブラボー!!いい作品をありがとう!!
そんな思いで、僕はその後のトークショーの壇上に立った。
メンバーは、光石研さん、おなじみ田中要次さん、僕、そして鈴木浩介監督の4人だった。
僕は、もう、うるさいぐらいに、
凄いだの神業だだの奇跡だのとハイテンションで喋っていたのだが、
突然ボバ(田中要次)さんがこう言った。
「今度は僕たちでReset2をやるなんてのはどうですか?」
・・・・・・・・え?僕たちって…俺も入ってんの?
…不意にコークスクリューパンチを喰らった3回戦ボーイのように僕が唖然としていると、
鈴木監督が「何言ってんの、十年早いよ」と言って笑った。
僕もすかさずこう言った。
「そうだよボバさん、
あれはあのメンバーだから出来ることであって僕たちには無理だよ」
会場からは穏やかな笑いがあり、その場は何事も無く流れていったのだが、
あの時のボバさんの不服そうな顔を、僕は今でも忘れない…。

それから半年後の夏…
あれは確か、ひょんな事から僕とボバさんと森ちゃん(森下能幸さん)の三人で
ラジオ番組をやることになった日のことだ。
オープンブースに入って、三人でワイワイやりながら外を見ていると、
ギャラリーにまじって鈴木浩介監督が立っていた。
なんで、こんなところに浩介監督がいるんだろう…いやな予感。
それから数時間後、僕ら三人は浩介監督と居酒屋にいた…
…Reset2の出演依頼をされるために…。
俳優なんてケロ〜ケ〜ロケロケ〜ロ〜…。

浩介監督が考えるReset2の構想は正気の沙汰ではなかった。
ブッツケ本番の即興を80分ノンストップでだけでもクレイジーなのに、
Reset2はその上に時代劇だというのだ。
時は豊臣秀吉が病死した直後の動乱期1600年。
天下分け目の、関が原の戦いに参戦した男たちの話…
しかし彼らは、足軽という最も末端の歩兵だった。
しかも昨日までは百姓をやっていた即席足軽。
戦で手柄を立てて百姓の生活から抜け出そうとしている。
そしていつかは憧れの秀吉様のように、城の主に…。
そんな足軽たちの心像風景を、
開戦直前の80分間という緊迫した状況下で描く意欲作…。
うーん、面白そうだ!演ってみたいというよりは観てみたいという感じだ!
ああ…時代劇なんてほとんどやったことないのに…
即興で昔の言葉なんか喋れないよお!!
…それに関が原に向かう足軽の話ってことは、
関が原の戦いを熟知していなくてはいけないではないか!!
学生時代のように勉強しろってか!!(全然してなかったけど)…試練はそれだけではなかった。
なんと登場人物たちの設定は幼馴染…
ということは、出演者の役の背景や過去の思い出を
俳優どうしが事前に打ち合わせしておかなくてはならないということなのだ。
「あの…俺らの他は誰が出るんですか?」とオズオズと聞いてみる僕。
「この3人だけだよ」と監督。
…マジかよ…
俺ら三人で80分持たせられんのかよ…なんというプレッシャー…。
ホントできんの?これ…。
もし失敗したら…。
三人は浩介監督の前で固まっていた。生ビールに手もつけずに…。
「どうした、お前ら。降りるんだったら今のうち言ってくれよ。
それならそれで、こっちも次探さなきゃなんないんだから」
…降ります…なんて言えるわけないじゃないか!
一生負け犬のレッテル貼られちゃうじゃないじゃないか!
…しかし…どれだけ、降りますと言いたかった事か…。
後で聞いた話だが、その時ボバさんは、
即興だったらセリフ覚えなくていいだけ楽か、と思ってたらしい…
なんてビッグな俳優なんだ!ビッグボバ!!
かくして僕ら三人はReset2に出演することとなった…。
ああ…人生って…。

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