今回の衆院選は新顔の候補者が目立つ。953人。新党から名乗りを上げたり、既成政党から新党に移った前職の後釜だったり。土地勘も、準備もない。「風まかせ」のドタバタ選挙が始まっている。
■選挙仲介業者が接触
7日朝、千葉県内の高速道路入り口。日本維新の会の40代の男性候補は車に向かって懸命に手を振った。
前日の午後は事務所で独り、机に向かっていた。書類づくり、看板業者やガソリンスタンドとの契約書……。「やることがありすぎて、なかなか遊説に出られないんですよ」
フルタイムで手伝ってくれていた友人2人のうち、選挙責任者だった1人がこの日、事務所に来なくなった。「おまえにはついていけない。選挙のやり方がオレとは違う」と言われた。
地元は茨城県。公務員を辞め、初めての選挙。ほかのスタッフは7人。ポスター貼りやチラシの折り込みを手伝ってくれるが、それぞれ仕事を抱え、来られる日は限られている。
公認が決まった11月末、選挙プランナーのあっせんを名乗る業者が接触してきた。「1千万円で必ず当選させる」「元国会議員秘書を参謀に連れてくる」「一流のウグイス嬢を用意する」。ファミリーレストランで2時間、口説かれた。
「任せてしまえば楽だな」と心が揺れたが、「危ないことはやめよう」という友人の言葉で目が覚めた。翌日、電話で断った。業者は700万円、490万円と報酬を下げて、食い下がってきた。
公示後、30万円の請求書が送られてきた。名目は「仲介料・キャンセル料」。詐欺まがいだが、相手にしている余裕もない。
知名度は低い。街頭ではまず、政党名と橋下徹代表代行の名を連呼する。「自分の名前だけでは勝てないから。空中戦です」
■ビラなし、事務所なし
「ビラちょうだい」
6日、埼玉県内のJRの駅前。駆け寄ってきた男性に、日本未来の党新顔の50代の男性候補者は、申し訳なさそうに言った。「これから印刷するんです」
立候補する選挙区を党から伝えられたのは公示2日前の2日夕。高知市在住で、埼玉にゆかりはない。自民の幹事長経験者のいる東京都内での立候補を検討していたが、党内の調整の結果、「国替え」となった。
3日は都内のネットカフェで朝を迎え、その足で埼玉県庁に行って立候補の記者会見をした。以来、駅近くのカプセルホテルに寝泊まりする。
4日、立候補に必要な供託金300万円を納める先の法務局の場所は、県選管の職員に教えてもらった。他の候補者が朝のうちに立候補の手続きを済ませる中、書類が受理されたのは午後3時すぎだった。
毎日4時間、街頭でマイクを握る。残った時間はポスター貼りや報道各社のアンケートへの回答にあてる。スタッフは数人。高知から運んできたワゴン車が事務所代わりだ。
民主の大物閣僚らを相手に脱原発を訴える。「いい選挙区に持ってきてくれた。焦り? ないよ。やるだけだよ」
7日朝、自転車での遊説をトレードマークにするはずだった長野県の民主新顔の30代男性は「戦術変更は残念ですが」と言い残して選挙カーに飛び乗った。
選挙区にゆかりはない。「知名度ゼロなので、有権者と直接顔を会わせる方法で」と候補者たっての希望の自転車作戦だったが、12日間ではとても回り切れない。やむなく選挙カーでの遊説を増やすことにした。
民主前職が離党して未来へ。不戦敗を避けたい党本部が白羽の矢を立てたのが党職員の男性だった。立候補表明は先月25日。党がお膳立てした後援会長と初対面した。選管に届けた住所は都内のまま。陣営は「時間が足りない」と焦る。
■953人、全候補の6割超
新顔953人は全候補者の63%。前回より108人多く、小選挙区比例代表並立制が導入された1996年以降では、同年の969人に次ぐ多さ。
主要12政党で新顔が最も多いのは共産の312人(公認候補の97%)。次いで引退議員が多かった自民が158人(47%)、国政初挑戦の維新が143人(83%)と続く。
以下、民主53人(20%)▽未来57人(47%)▽公明33人(61%)▽みんな61人(88%)▽社民27人(82%)▽大地4人(57%)▽国民新1人(33%)▽新日0人(0%)▽改革2人(100%)。