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2012年12月11日(火)付

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敦賀原発―脱・安全神話の時代へ

安全神話から決別して原発の安全性を判断する第一歩だ。福井県にある日本原子力発電敦賀原発の原子炉直下にある断層について、原子力規制委員会は活断層の可能性が高いとの考えを示[記事全文]

公務員と政治―過剰なしばり解く判決

評価が7割、疑問が3割、といったところだろうか。休日に、身分を明かさずに、支持する政党のビラを郵便うけに配る。同じことをして同じ国家公務員法違反の罪に問われた2人につい[記事全文]

敦賀原発―脱・安全神話の時代へ

 安全神話から決別して原発の安全性を判断する第一歩だ。

 福井県にある日本原子力発電敦賀原発の原子炉直下にある断層について、原子力規制委員会は活断層の可能性が高いとの考えを示した。田中俊一委員長は「今のままでは再稼働の安全審査はできない」と明言した。

 原子力規制行政の大きな転換点といえる。

 焦点は、原子炉から約200メートルの場所を走る活断層「浦底断層」が、原子炉建屋に影響を与えるかどうかだった。

 5人の専門家の見解は明解だった。敦賀2号機の直下にある断層が浦底断層につながり、つられて動く危険性がある。全員がそう認定した。

 「原発の敷地内に活断層があるというだけで異常事態だ」

 「浦底断層の影響は計り知れないものがある」

 評価の場で出た専門家の言葉の数々は、いかに現状が危険であるかを物語っている。

 国の手引きによると、活断層の上に原発の重要施設を建ててはならない。運転できないのならば、廃炉への流れは避けられない。

 日本原電は判断を重く受けとめ、炉の安全確保や今後の経営について、速やかに事業計画を作り直すべきだ。

 敦賀発電所は敷地のなかに約160本の断層が走っている。「断層銀座」と呼ばれるほどの地に、そもそもなぜ原発が建てられたのか。

 敦賀発電所の建設が始まった1960年代には、断層の研究が今ほど進んでいなかった面はある。だが、原発では大事故がおきないという安全神話のもとに、立地場所の地質を軽視していたのではないか。

 これまで専門家が活断層の危険性を言っても、国は運転を認めてきた。旧原子力安全・保安院の審査の甘さを、教訓にしなければならない。

 規制委は今後、やはり敷地内に活断層の疑いがある北陸電力志賀原発をはじめ、東北電力東通原発など計6カ所で調査を予定している。

 電力会社は今まで、100%の確証がなければ「活断層ではない」という態度だった。もうそれでは通用しない。

 規制委の島崎邦彦・委員長代理は調査について「経済的な問題などは一切考えずに、純粋に科学的な判断」を求めていた。

 危険な原発は動かさない。

 当たり前の規制行政のスタートで、多くの課題も浮上する。

 交付金に頼ってきた敦賀市など地元自治体の将来計画も、根幹から見直す必要がある。

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公務員と政治―過剰なしばり解く判決

 評価が7割、疑問が3割、といったところだろうか。

 休日に、身分を明かさずに、支持する政党のビラを郵便うけに配る。同じことをして同じ国家公務員法違反の罪に問われた2人について、1人は無罪、1人は罰金10万円の有罪が、最高裁で確定することになった。

 判決が示した考えはこうだ。

 法律が禁じる「政治的行為」とは、公務員の職務の中立性を損なうおそれが、観念的にではなく、実質的に認められるものに限られる。それは、公務員の地位、職務の内容・権限、行為の性質や態様などを総合して判断すべきである――。

 もっともな見解だ。これまで政治的行為は一律に禁止され、刑罰の対象になると考えられてきた。38年前の最高裁判決がそう読める内容だったからだ。

 私たちは社説で、この判例を見直すよう求めてきた。

 公の仕事はもちろん公正・中立に行われなければならない。

 しかし公務員もひとりの国民であり、政治活動の自由を含む表現の自由がある。刑罰をふりかざし、中身を問わずに行動をしばるのは間違っている。

 この当たり前の主張がようやく通った。制約の側に傾きすぎていたはかりを、あるべき位置にもどした事実上の判例変更と受けとめ、歓迎したい。

 だが、すっきりしない点は残る。せっかくの新たな判断基準も適用を誤れば意味がない。

 被告のひとりは厚生労働省の課長補佐だった。判決はこの点をとらえ、ビラ配布をゆるすと「政治的傾向が様々な場面で職務内容にあらわれる可能性が高まり、命令や監督を通じて部下にも影響を及ぼすことになりかねない」との立場をとり、二審の有罪判決を支持した。

 これこそ判決が否定したはずの「観念的」な理屈で、説得力を欠く。「一私人、一市民としての勤務外の行動で、職務の中立性を損なう実質的なおそれはない」とする須藤正彦判事の反対意見の方が常識にかなう。

 そんな問題をかかえるものの今回、最高裁が政治活動の自由を「民主主義社会を基礎づける重要な権利」ととらえ、公務員の政治的行為の禁止を「必要やむを得ない範囲に限るべきだ」と述べた意義は大きい。

 一部の労組活動のいきすぎを理由に、公務員が市民として当然にもっている権利まで抑えこもうという風潮がある。それで世の中はよくなるだろうか。

 私たちが本当に守るべき価値を見すえることの大切さを、事件は教えている。息苦しい社会に、発展や躍動はのぞめない。

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