いずみ・まさふみ 1952年生まれ。埼玉県出身。京大法学部卒。旧国鉄入社後、JR四国の経営企画室長、財務部長を経て、2010年6月から代表取締役社長 |
新幹線は必須インフラ 人口減少しても成長目指せ 泉雅文・JR四国社長インタビュー
整備新幹線の未着工3区間(北海道、北陸、九州)の新規着工方針が決まり、四国の経済団体や4県は「国内の新幹線網から取り残される」と新幹線の導入を求め声を上げ始めた。四国に新幹線は必要なのか―。JR四国(四国旅客鉄道株式会社)の泉雅文社長に話を聴いた。
▽地域に鉄道なくなる
―四国に新幹線がなぜ必要なのか。
四国だけ時速200キロ以上の高速交通インフラが欠けている。それでいいのかと思う。新幹線(最高速度・時速300キロ)なら4県庁所在地間を約20分~1時間10分で結べる。4県庁所在地から新大阪まで1時間台になる。地域の在り方が変わってくる。
JR四国の収益力の弱さは結局、高速道路との競争力が弱いことに起因している。特に都市間の高速輸送が弱い。
新幹線は都市間鉄道として必須だ。そうじゃなかったら、たぶん50年後に都市間鉄道は四国に残っていない。
今までうやむやにしてきた課題が、JR瀬戸大橋線と並走する瀬戸中央道(本州四国連絡道路)の料金大幅値下げで明確になった。
―新年度も決算見通しは厳しい。
JR四国は財務、収益基盤が弱い。国の経営安定基金の果実で補てんするという体質だ。瀬戸中央道の料金によっては今後も厳しいと4県知事に申し上げてきた。
―そもそも、JR四国は地域の交通インフラとして役割を果たしているのか。
8両編成の列車であれば一度に400人位は運べる。人口30万人~40万人の県庁所在地の、特に朝の通勤通学では強みを発揮している。
赤字ローカル線でも、高校生の通学時には一度に200人を運ぶ。バスでは手に負えない。
▽高速化は限界
―現在の鉄道網をスピードアップすればいい。
JR四国が発足してから、電化や新型特急車両の導入、特急通過駅や踏切の施設改善でスピードアップはしてきている。四国内で平均時速60キロだったものが、予讃
線(高松―松山)の特急で時速85キロ位まで向上した。土讃線(高松―高知)も時速70キロ位に上げた。
JR西日本の岡山駅も改良され、山陽新幹線との接続時間は短くなっている。
既存のインフラにいろいろな改良を積み重ねてきた。これ以上の高速化は、抜本的な新線建設などをしないとできない。
―赤字ローカル線の廃止はやむを得ないという考え方もある。
市場原理でいえば一つの考え方だ。しかし、そう簡単にやめられないし、やめたくもない。地元からぎりぎり努力してくれという要望がある。
▽経済成長狙うべき
―新幹線で稼ぎ赤字ローカル線を維持していこうという考え方か。
新幹線の一つの効果だ。悪く言えば内部補助だろうが、よくいえばネットワークの活用だ。鉄道がつながっていることによって、結果的に新幹線に乗ってもらえる効果はある。
―四国は人口減少が進んでおり、将来大きな需要が見込めるのか。
九州新幹線を見ると元気がいいし、長野新幹線も地域経済に貢献している。新幹線は運営経費もかかり、JR四国の「救世主」になるかは分からない。地域社会のためにはいいのではないか。
―それにしても四国の人口は少なくないか。
将来推計人口を見ると、20数年経っても四国には約300万人(現在約400万人)が住んでいる。小さな国の人口に相当する。こんなに人がいるんだからと思うべきだ。
日本全体では、50年後には1億人を切っている。それでも、人口が7千万人、8千万人もいる国は大国だ。
―膨大な建設費用がかかる。
日本全体の人口が減っていく中で、鉄道を含む社会インフラをどうするのかというテーマがある。経済成長を狙わないと、国が駄目になると思う。財源をどうするのかという議論はあるにしても、社会インフラをそれなりに強くする必要がある。
▽お人よしでいいのか
―本四間に3本も架橋したから、四国新幹線で新たな投資は不要という意見もある。
本四架橋後、四国には高速道路しか来ていない。交通では、ほかに何もやっていない。次なるインフラはなくていいのか。
例えば関門海峡(山口県下関市―北九州市)は計4本のトンネルと橋が通っている。人口集積は違うが、四国に3本の橋があっていいじゃないか、当然だという言い方もあるかもしれない。
―四国の経済力の問題もある。
「四国は衰退していく地域だ」と割り切れば別だ。社会インフラ整備をやってほしいと、国にいうことがそんなにわがままとは思えない。ほかの地域は高速道路も新幹線も建設し、空港まで整備しているところもある。
―他の地域の納税者が納得するか。
整備新幹線のスキームは、東海道・山陽新幹線の収益の一部を建設費に回している。つまり、東海道・山陽新幹線の利用者が建設費を負担しており、そのうちのかなりの部分を四国の人が担っている。
四国の人が使ったお金が、四国にはまったく来ないで九州、北陸、北海道に行っている。四国の住民は慎み深い。「四国は人がいいですね」と4県知事らに申し上げたことがある。他地域との競争に負けっ放しでいいのかと思う。
▽分散型国土へ
―四国には東海・東南海・南海の3連動地震の心配がある。
東日本大震災後、学者の話を聞くと、これまで日本は経済至上主義で国土保全をあまり考えておらず、東京一極集中になって非常に脆弱な国土構造になっているのではないかという反省が出ている。
首都直下など南関東の地震と西日本の地震は起きるだろう。東京や東海地方がやられたら、経済的ダメージは今回の比ではない。
震災に備えて分散型の国土にするなら、交通インフラはより重要になる。高速道路も新幹線も重要になると思う。10兆円、20兆円の投資でかなり分散化できるらしい。被災時の経済被害を考えたら、それくらい使ったっていいじゃないか。
▽在来線も活用
―新幹線建設に伴って在来線の廃止問題が浮上する。
現行のやり方だと、在来線はだいたい第3セクターがやる。都市間の輸送は新幹線で、都市圏内、地域圏内は在来線でと役割分担すれば、もっと便利になる可能性がある。
―例えば愛媛県東部の山間部に新幹線のトンネルを通すと、今治市周辺地域の半島部は取り残される。
あれだけの人口がいる地域だから在来線は残さざるを得ない。東予市、今治市、北条市と人口が集積している。今治エリアは経済力がある。
ローカル線で特急を走らせてもいい。今でも新幹線で東京、大阪から岡山まで来て瀬戸大橋線に乗る。それと似たようなことになると思う。
―地元の地方自治体の財政負担を心配する声も上がっている。
第3セクターだと、確かに県などが負担している。新幹線の建設費は、公共事業と比べると地元の負担は少ないのではないか。うまくいけば税収で回収できるという人もいる。
―地方交付税の支援はあるのか。
そういう意味では国頼みだ。鉄道は民間事業者がやっているから、民間で勝手にやれと思われがちだが、どうみても社会インフラだ。中国やヨーロッパでも公共投資でやっている。
▽合理化難しい
―経営合理化の努力は十分か。
正直に言うと、かなりやってきたので手詰まり状態だ。JR四国の発足当初より労働生産性は2倍以上に伸びている。発足当初の営業損益は約149億円だったが、最近は約90億円に減っている。かなり改善しているが、ゼロにはもっていけない。これ以上の収益アップは難しい。
駅長を減らし駅の無人化を進め、ワンマン列車もさらに増やした。今後、コンクリート製枕木やロングレールを導入して、後々の補修費を減らしたい。
―関連事業は。
不動産事業は赤字だ。バブル崩壊後にでき上がった高松市郊外の大規模分譲住宅はなかなか売れないで残っている。「武家の商法」だったと反省している。
―処分はしないのか。
手じまいに近い。努力したが、なかなかうまくいかないので辛いところだ。
▽観光鉄道で生きる
―地域との連携がまだ不十分ではないか。
新幹線は社会インフラだから、地域と一緒に誘致運動などをやらないと駄目だ。
観光鉄道という切り口もある。「乗りたいから乗る」という需要がある。JR四国だと、アンパンマンの原作者やなせたかしさんが高知県出身であることにちなむ「アンパンマン列車」が代表例だ。私たち自身が「走って当然」とマンネリ化していた。東北に派遣したらすごい人気だ。テレビ映像を観て涙が出た。
最近では、お菓子のおまけのフィギュアで有名な「海洋堂」と提携したホビートレイン。「海洋堂ホビー館四万十」が高知県四万十市にできたから、わざわざ行こうとなる。地元の町おこしにかかわる人たちが列車に乗って物を売ったりしている。
観光鉄道は、地元の観光と一緒にやらないとうまくいかない。新幹線で観光客がやって来て、観光鉄道に乗るようになれば、ローカル線も生きる。
―高松駅に「さぬき高松うどん駅」と愛称を名付けた。
香川県の「うどん県」プロジェクトとタイアップした。話題性が出れば、四国に行ってみようと思ってもらえるかもしれない。来年に香川、岡山両県の瀬戸内海で開催
される「瀬戸内国際芸術祭2013」の前宣伝にもなるだろう。
▽費用対効果を研究
―四国の官民でつくる「有識者懇談会」が昨年夏に新幹線整備を求める提言をまとめた。
ありがたい。鉄道の抜本的な高速化が必要と明示された。
提言を受け、高速化を検討する準備会を4県と事業者で立ち上げた。具体的な便益や効果を客観的に数量化したい。いずれ北陸新幹線延伸の話も出てくるだろうから、費用対効果が明らかでないと議論の土俵に上がれない。
4県の考えは必ずしも同じではないが、議論の場に入っていただいたことはありがたい。
(インタビューは3月27日に行いました)