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Nay’s Diary

2005-09-23 肯定派からも信憑性が問われる「松岡環」

松岡 環著「南京戦・閉ざされた記憶を尋ねて」の内実
このようにして「反日の歴史」はつくられる


 松岡環という大阪府松原市の小学校教師が「南京戦・閉ざされた記憶を尋ねて−元兵士一〇二人の証言」(社会評論社)を出版したのは平成十四年八月であった。


 「朝日新聞」平成十四年七月十三日付夕刊はこの本の出版を宣伝するために大きな記事を書いた。「大半『初の証言』大阪の教諭ら5年かけ記録」「これだけ多くの兵士の声が集められたことはこれまでなかった」と。


 「毎日新聞」七月十四日付も同じく提灯記事を掲載した。「松岡環さん(54)は、『心から反省している人はむしろ少ない。戦争だったのだから仕方がないと言う人が多く、ショックでした』と話した」そうだ。


 同書の宣伝コピーはこうだ。「論争に終止符がうたれた。南京大虐殺の歴史の真実が初めて、明かされた」(!)。


 従軍慰安婦問題で同じような反日活動をしている西野瑠美子は「圧巻される生々しい告白。閉ざされた真実を白日の下に描きだした本書は、歴史を刻む記憶の遺産である」と推薦の言葉を述べた。


 八月十五日放送の「ニュースステーション」も早速飛びつき、久米宏は同書の内容を真実として伝え、日本国民に深く「反省」を促した。


 こうした大宣伝の結果、四千二百円もするこの本は一万部以上売れているという。平成十五年一月現在、同書は六十九の図書館に置かれている。


 ちなみに、「ニュースステーション」は何の考証もしなかったので「虐殺を証言した鬼頭さん」を「一九二六年生まれ」(すなわち、当時十一歳)と紹介した。すぐに「十一歳、奇跡の軍人 テレビ朝日『南京戦の真実』追及拠点」というホームページがつくられ、「テレ朝」はこの点については「お詫び」した。


 この事態に対して、東中野修道・阿羅健一両氏が本格的な『南京戦』批判を書いた。


 東中野氏は言う。

 百二名の兵士はみな『匿名』『仮名』なのである」。「誰が証言内容に責任を持つのか。証言内容が真実かどうか第三者的に検証できないようでは、客観的報道、客観的記録とは言いがたい」。「百歩譲って『証言』が事実だとしても、彼らの多くは憲兵の目を逃れて軍紀違反の違法行為を繰り返しながら処罰を免れてきた悪運強き戦争犯罪人でしかなかったことを明らかにしただけなのである。


(『諸君』平成十四年十一月号)。


 阿羅氏は言う。

(百二名の告白は)ほとんどが一回の取材によるものだけれど、三回取材が行われた人が三人だけいる。かつての兵士が語ったとは思われない言葉が途切れることなく続く。『ソ連製のチェッコ』とある。日本軍を悩ましたのは中国兵がもっているチェッコ軽機関銃だった。チェコスロバキア製だからチェッコと言っていたので、ソ連製のチェッコなどと言う日本兵はひとりもいない」。「告白のなかでは、『パンパン』などという言葉がしばしば使われている。パンパンが、敗戦後、米軍がきてから使われだした言葉であることは言うまでもない。


(「正論」平成十四年十一月号)


 二つの論文を読むだけで松岡の「証言集」がインチキであることは明白であるが、さらに驚愕すべき文章が発表された。それは「週刊金曜日」平成十四年十二月二十日号の「南京大虐殺をめぐる二つの空しい書物」という一文である。本多勝一が「まえがき」で次のように書いている。


 「(南京大虐殺)肯定論者でもいいかげんな作業だと利敵行為になりかねない例の一書をとりあげてみよう」。本多らの「南京事件調査研究会」は松岡の書物を「空しい」「いいかげんな」「利敵行為」と断定したのである。同研究会の小野賢二が詳しく問題点を指摘している。


 「(松岡氏らは)むしろ有頂天になっている。まさしく、元兵士は松岡氏らの自己表現の一つの道具でしかなかったのかもしれない」。


 「これほど間違いやおかしな表現の多い本もめずらしい。人間のやることだから間違いはあるが、この本は度を越えている」


 「味方の研究者」から「本そのものの信憑性が問われるのはまちがいない」と断言される代物を、「ニュースステーション」は真実として放送したのである。さらに信じられない報道がなされた。


 「 南京大虐殺にかかわった旧日本軍の元兵士らから聞き取り調査を行って編集した証言集『南京戦・閉ざされた記憶を尋ねて』の中国語版が、上海辞書出版社から出版される」(「人民日報」平成十四年十一月三十日付)。


 このようにして「反日の歴史」が創造されるのだ。


 当時、歩兵第33連隊第5中隊の第1小隊長だった市川治平さんは、歩兵33連隊の生き字引とも言われ、野田連隊長をも、天野中隊長をも知っていて、戦後になって書かれた「歩兵第33連隊史」の刊行では中心的な役割を果たした。


 その市川さんが、この本をこう語る。


 「本当にばかばかしい本です。私のところに聞き取りには来ませんでしたが、元気な2人の戦友に尋ねたら、2人にも来なかったと言っています。まともな話をする人には行かないようです。確かに予備役には悪い事をする人もいましたが、この本をざっと読んだところ、強姦などの話は、創作8割、本当2割でしょう」


「正論」平成14(2002)年11月号 阿羅健一著
「南京戦・元兵士102人の証言」のデタラメさ