地震、津波、原発事故の複合災害となった東日本大震災。被災地で日々取材を続けている記者たちの思いをつづります。日本経済新聞 電子版の登録会員の方はログイン後、コメントを書き込むことができます。登録されていない方は、会員登録をお願いします。
福島県で医師不足が続いている。東京電力福島第1原子力発電所の事故で県外の病院などに転院したケースがあるほか、放射性物質の影響を心配して福島県での勤務を嫌う傾向もあるからだ。しかし、放射線に詳しいはずの医師が県外へ流出すれば、県民は不安を感じるうえ、新たな風評被害を生み出しかねない。
福島県立医科大学は11月20日、被ばく医療の拠点となる「ふくしま国際医療科学センター」を発足させた。福島市の大学敷地内に4つの研究施設などを建設し、県民の健康調査や最先端の医療機器を使ったがんの診断などに取り組む。記者会見した県立医大の菊地臣一理事長は「県民を数十年にわたって見守っていける態勢ができた」と胸を張った一方で「これからが大変。医療関係者をどう集めるかが課題だ」と強調した。同センターは数百人規模の医療関係者の参加を見込んでいるが、人員の確保が思うように進んでいない。
福島県内の医師不足は深刻だ。県内で働く医師は1945人(8月1日時点)。震災前に比べて79人減少した。原発事故で休院した病院で働いていた40人を単純に除いても、39人が県内の病院から離れたことになる。福島県地域医療課は「人件費の補助や他県へ派遣を要請するなどの対策を進めているが、集まらない」とこぼす。医師本人が福島県で働くことに前向きでも、放射能に不安を抱く家族の反対で赴任を断念したケースもあるという。
放射能を懸念した医師の県外流出は原発事故の直後から始まっている。
9月上旬に仙台市で開かれた日本放射線影響学会。福島県内の医師が事故直後の対応を報告したところ、会場から「医師として自覚が足りない」と激しく非難する声が上がった。原発事故が起きると県外へ避難する医師や看護師が相次いだからだ。
医師の流出や赴任を嫌がる動きは、県民の放射線に対する不安をさらに煽(あお)る要因にもなっている。「医者が逃げるんだから、福島県に住んでいたら本当は危ないのではないか」という声は県内でしばしば聞かれる。政府が震災後に「避難区域を除いた地域では生活を続けても健康に影響はない」と説明してきたことと矛盾しているからだ。医師も人間であると割り切って理解するとしても、専門家の“逃亡劇”は新たな風評被害をもたらす土壌になりかねない。
ただ、医師という職業モラルに訴えても問題が解決しないことは、旧ソ連・チェルノブイリ原発事故でも明らかになっている。原発に近いベラルーシ・ゴメリ州の保健局によると、放射能で汚染された地域で働くのを嫌がる医師は事故から26年を経ても続いているという。このため同州では、医師の給与を平均の2倍近くにしたり住居を提供したりして医師の確保に努めている。
福島県も医師のモラルに訴えるだけでは問題は解決しない。政府が率先して医師確保に動くべき時期に来ている。(竹下敦宣)
東京電力、福島第1原子力発電所、福島県立医科大学、医師不足
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