WEB特集
トンネル崩落事故と大老朽化時代
12月4日 14時45分
山梨県の中央自動車道のトンネルでコンクリート製の天井の板が崩れ落ち、9人が死亡した事故。
原因として老朽化が指摘されていますが、どこまで明らかになったのか。
トンネルや橋などの「社会インフラ」の老朽化が進む時代に、私たちはどう向き合うべきか。
社会部の古川恭記者が解説します。
原因はどこまで明らかに
事故は、今月2日、山梨県の中央自動車道上り線の笹子トンネルで起きました。
厚さ8センチほどのコンクリート製の天井の板が130メートルにわたって崩れ落ち、車3台が下敷きになり、9人が死亡、2人が重軽傷を負いました。
天井板は「つり金具」という部材を介してトンネル上部のコンクリートにボルトで固定されていましたが、このボルトが抜け落ちたために崩落につながったとみられています。
なぜボルトは抜け落ちたのか。
笹子トンネルの使用が開始されたのは昭和52年ですが、中日本高速道路会社によりますとその後35年間、交換や補修を行った記録はないということです。
事故の原因について、道路会社は、ボルトやその周辺のコンクリートが老朽化していた可能性があるとみています。
今後の調査で、抜け落ちたボルトがさびた状態で見つかれば、天井部分に地下水がしみこんで腐食が進んだと考えられます。
ボルトが周囲のコンクリートと一緒に落ちていれば、コンクリートが劣化していた可能性、ボルトが途中で破断していれば、振動による疲労亀裂の可能性が考えられます。
今後、国土交通省が設置した調査委員会や、警察による原因究明が進められることになります。
検査は十分だったか
老朽化が原因だったとしても、劣化は徐々に進んでいたはずです。
事前に異変に気づくことはできなかったのでしょうか。
道路会社は、ことし9月の点検では異常は確認できなかったとしています。
問題は検査の方法です。
こうした場所の検査では、2つの代表的な方法があります。
さびや緩みなどがないか目で見て確認する「目視検査」と、金づちなどで叩いた時の音で内部の異変を探る「打音検査」です。
9月の点検は目視検査だけで、打音検査は行われませんでした。
しかし、天井板からボルトまでは5メートル以上もあり、懐中電灯と双眼鏡によるチェックだけで十分だったかどうかは疑問が残ります。
ボルトの点検については、国が示している点検要領にも明確なルールは記載されていません。
事故を受けて国土交通省は、笹子トンネルと同じようにつり金具で天井板を支えている、全国49か所のトンネルの緊急点検を指示しました。
緊急点検では見逃しがないよう、打音検査を義務づけています。
どうする「大老朽化時代」
老朽化はこのトンネルだけの問題ではありません。
国土交通省によりますと、建設から30年以上たった高速道路のトンネルは全国に359か所あります。
一般道路に架かる橋でも、老朽化が原因で通行止めになるところが相次いでいます。
日本では、トンネルや橋などの「社会インフラ」の整備は、高度経済成長期以降に一気に進みました。
その分、老朽化も一斉に進むわけですが、今まさに、こうした時代の入り口にさしかかっているといえます。
社会インフラの老朽化問題を早くから指摘してきた、国土技術政策総合研究所の前の所長、西川和廣さんは、「老朽化の恐ろしさは、われわれが今まで経験したことのない損傷や劣化が、今まで経験したことのないスピードで起きることだ」と指摘しています。
いわば「大老朽化時代」の到来に、点検や補修はどうあるべきなのでしょうか。
西川さんがまず必要だと訴えるのが、社会インフラの維持管理に十分な予算や人手を振り向けられる仕組み作りです。
これまでは既存の施設の維持管理より、新規建設の方が優先されがちでした。
新しい施設の建設は、地域経済の活性化につながりますし、自治体の長や議員にとっても、政治的な得点をあげやすいという側面があります。
これに対し維持管理はコストがかかる割には地味で、必要性があっても後回しになるケースが多いとされています。
しかし、国や地方の財政状況が極めて厳しいなか、両方を満たすことは難しくなっています。
今回のような大惨事を防ぐためには、新規建設を抑えてでも、維持管理に十分な予算を投じられるよう、社会の仕組みを改めていく必要があると思います。
「想定外」で片づけるな
大きな事故が起きるたびに繰り返される「想定外」ということば。
しかし、社会インフラの老朽化は、必ず訪れる「想定内」の出来事です。
これを前提として維持管理に努めれば、老朽化の兆候をつかむことは可能なはずです。
日本が突入した「インフラ大老朽化時代」。
「今まで起きていないから、これからも大丈夫だろう」という姿勢は、もはや通用しないのです。