社説:衆院選・経済政策 インフレ頼みは危うい
毎日新聞 2012年12月06日 02時31分
日本経済の活性化は各政党が一様に強調するテーマだ。しかし、掲げられた楽観的な公約をうのみにはできない。厳しい現実を直視し、地道な努力をする党はどこか。負担増も正直に語り、既得権益にしがみつく勢力と対峙(たいじ)できそうな党首は誰か。冷静に見極めたい。
簡単な解決策などない。そんな現状認識がにじむのは、政権を担ってきた民主だ。借金による公共事業で一時的な景気浮揚を図る過去の政治に戻ってはいけない、と野田佳彦首相は訴える。その姿勢を評価する。
だが、では財政のテコ入れを最小限にしながら、どのようにエネルギーや医療・福祉分野、農業を成長させるのか、となると具体策が見えず、本気度が伝わってこない。
自民は「何よりも脱デフレ」を唱える。年2%の物価上昇率達成を最重視し、日銀に大胆な金融緩和をさせるという。同時に、借金でまかなう大規模な公共事業により景気を刺激する方針で、民主とは対照的だ。
ここで考えたいのは、物価上昇が私たちの目指す真の目標か、という問題だ。多くの人は「デフレは困る」と思いながら、物価上昇も嫌がっている。収入が増えない中、物価が上がれば苦しくなるだけだからだ。
日本維新の会やみんなの党もそうだが、自民の掲げる目標は、物価上昇率と名目成長率だけで、物価の影響を除いた実質成長率は重視していない。物価が上がり始めても、それを十分受け入れられる程、企業や働く人の収入が増えている、つまり実質的な成長こそ肝心なのであって、物価が上がれば万事よし、は違う。
財政再建を唱えながら、大規模な公共事業を行おうというのも、ちぐはぐである。「今後2〜3年は、より弾力的な経済財政運営を推進する」というが、その間は財政悪化に目をつぶってもよいという考えなのか。一度、始めた景気対策を打ち切るのは容易ではない。効果も需要を先食いするだけで借金の山が残る。
維新の会は公共事業拡大に反対し、民間の力を最大限引き出す政策を主張する。その考えは良いが、一方で日銀法改正も訴えている。自民やみんなの党も法改正で日銀に積極緩和を迫る構えで、こうした勢力の結集は、インフレ方向への大きな力となりかねない。私たちの実質的な収入を目減りさせ、経済が混乱する恐れがあり、警戒しなければならない。
ここに任せたら日本経済が良くなると思える政党は、あいにく見当たらない。だが、大きな失敗やさらなる悪化を回避する選択は可能だし、それも有権者の大事な役目だ。