今年も全国一斉に年賀はがきが発売された。
メールなどの普及で発行枚数は減少しているものの、1枚50円の年賀はがきが、およそ33億枚売れるという。
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<マル調>
「きょう何枚ぐらい買われました?」
<購入した客・男性>
「これだけ、150枚」
<購入した客・男性>
「1万円ほどですね、やっぱり(友人が)みんな死にますから。毎年、10枚ずつ減らして買っているんですけど、それでもまだ10枚は余るくらい」
<大阪北郵便局業務企画室 丸山栄三課長>
「郵政グループあげての主力商品なので、力を入れています」
だが、その年賀はがきが「初日からチケットショップで格安で販売されている」との情報が、「マル調」のもとに寄せられた。
本当なのだろうか?
<大八木キャスター>
「11月1日の午前11時半です。今年の年賀はがきが販売されて2時間半がたちました。中央郵便局の地下には格安チケットショップが集中しているんですが、いったいどうなっているんでしょうか?」
サラリーマンやOLが行き交う大阪駅前ビルの地下街。
およそ30軒のチケットショップが軒を連ねている。
発売開始からまだ2時間余り。
買取りを募集する看板はあっても、年賀はがきはない。
と思いきや…
<マル調>
「年賀はがきがありますね」
たしかにあった。
茶色の包装紙には「発行日平成24年11月1日」とある。
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別の店にもあった。
10枚470円、1枚47円だ。
郵便局にあった段ボール箱もあった。
店の人に聞いてみた。
<マル調>
「今年の年賀はがきですか?」
<店員>
「ええ、平成25年度用です」
<マル調>
「今日から販売開始ですよね」
<店員>
「今日からです」
<マル調>
「もうあるのですか?」
<店員>
「そうですね」
さっそく購入した客もいた。
<チケットショップで買った客・男性>
「3円安かった、買うつもりで行ったんじゃなくて、たまたま通った時に年賀はがきが見えたから買っただけ。初日から売っているとは思わなかったけどね」
「マル調」も買ってみた。
<マル調>
「10枚無地で」
<店員>
「10枚ですね、はい、470円になります」
<大八木キャスター>
「いま年賀はがきを買ってきました。10枚470円でした。販売初日から確かに売られていました」
発売初日からチケットショップに並ぶ、格安年賀はがき。
これはいったい?
「マル調」は去年末、チケットショップに大量に持ち込まれる年賀はがきを取り上げた。
入手ルートを調べると、郵便内部で働く人たちが厳しい販売ノルマに耐え切れず、自ら買取りチケットショップに持ち込む、いわゆる「自爆」の存在が明らかになった。
<郵便配達員(集配営業課)>
「郵便事業会社の人間が流してるんだと思います」
主力商品を社員が「自爆営業」するという重大なコンプライアンス違反。
本社の幹部に指摘すると・・・
<郵便事業会社(当時) 日谷修執行役員・去年12月>
「それは間違った営業ですね。『やったら駄目ですよ』と、常々繰り返してましてね」
本社の幹部は、あくまで会社は「自爆」を具体的に把握したことがないため、全社的な調査や抜本的な対策はとらないと答えた。
では、あれから1年。
年賀はがきの発売初日から誰が、チケットショップに持ち込んでいるというのか。
「マル調」は、大阪府内で郵便配達をしている男性から話を聞いた。
<マル調>
「『自爆』は今も続いているということですか?」
<大阪府内の郵便配達員>
「そうですね、全く変わりありません」
「(チケットショップに)早く持ち込んだ方が、高く買ってもらえるんです」
本当に「自爆」は続いているのか。
再び、あの地下街に向かった「マル調」。
そこで、目にしたものは…
今年も続いているという「自爆」。
「マル調」はその実態をつかむため、再び大阪駅前ビルへと向かった。
年賀はがきを大量に持ち込んでいれば目立つはずだが、買う人はいても持ち込む人はなかなか見つからない。
手がかりをつかもうと、チケットショップに取材を申し込むと…
<店員>
「(取材)受けてないんです、ごめんなさい」
どの店も取材拒否だ。
「自爆」の瞬間?
待つこと3時間。
1軒の店で「マル調」の目が留まった。
白い紙袋を持つ女性。
店のカウンターには、いくつかの茶色い紙に包まれたものが・・・
これは年賀はがきではないのか?
そして、店員が現金を渡した。
女性はそれを受け取り、店から立ち去った。
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これは「自爆」ではないのか?
マル調が女性の後を追う。
<マル調>
「すいません、毎日放送です。年賀はがきの取材をしてまして。今日は何枚ぐらい持ち込んだのですか?」
<女性>
「1,000枚」
<マル調>
「どういう形で年賀はがきを手に入れてます?」
<女性>
「言うたら『自爆』、それだけ」
<マル調>
「郵便で働いているのですか」
<女性>
「ええ、まあ」
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郵便局に勤めているという女性は、あっさりと「自爆」を認めた。
<マル調>
「毎年、売りにこられるのですか?」
<女性>
「はいきます」
<マル調>
「ご自身の販売目標って何枚ぐらいですか?」
<女性>
「8,000枚」
<マル調>
「1,000枚売って?」
<女性>
「あとは営業します、もうごめんなさい」
終わらない「自爆」。
しかも、去年よりも今年の方が、ノルマは上がっているという。
<兵庫県の郵便局員(配達)>
「私の職場では、対前年比10万枚上乗せされている」
<兵庫県の郵便局員(配達)>
「『24単黒(ニーヨンタンクロ)やから売らないといけない、だからがんばれ』というのは、毎日のように暗示のように言われて」
今年10月、郵便2社が統合され「日本郵便」という、新会社がスタート。
郵便事業が抱える、およそ1,200億円以上の赤字を解消し、「平成24年度単年度黒字(24単黒)」を達成することは、至上命題になっている。
というのも…
<下地幹郎郵政民営化担当大臣。今年10月>
「できるだけ早期の上場をめざし、日本郵政の株式の上場が可能となるよう態勢の整備をはかる」
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現在、政府が100パーセント保有する「日本郵政グループ」の株式を2015年秋までに上場し、7兆円とも言われる売却益は、東日本大震災復興のための債券の返済にあてられる予定だ。
つまり、郵便事業を健全化して上場し株価を上げることは、国の予算にも関わってくる。
もちろん、民間企業が利益を追求するのは当然だ。
しかし、問われるのはその中身。
現場で、全くお客に接する機会がない社員にまでノルマは存在するという。
<男性社員(郵便の仕分け)>
「(ノルマは)5,000枚です」
<マル調>
「売る手段がない?」
<男性(郵便の仕分けなど)>
「そうですね、はい、なんぼ言われても、無理なんでね」
男性の仕事は郵便物の仕分けで、家族以外に売るあてはないという。
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<男性社員(郵便物の仕分け)>
「そんな会社に未来がないのと違うかなと思って、自分で自分の分を買って、その中で『自爆』した人が評価高くて。一般のお客さんに買ってもらわないと、企業は伸びませんよね」
日本郵便はおよそ40万人いる、全社員にノルマを設定する一方で、「自爆」を黙認しているのではないのか。
日本郵便に取材を申し込んだところ、カメラ取材を拒否した上で次のような回答を寄せた。
まず、発売初日にチケットショップで売られていることについて・・
「具体的な持ち込みの経路などの詳細が明確でないため、現時点での回答は控えさせていただきます」(日本郵便からの回答)
また、「自爆」の調査をしないことや過大な目標設定については・・
「昨年、お話させていただいたものと考えておりますので、今回の回答は控えさせていただきます」(日本郵便からの回答)
郵政で働く人の裁判に数多く関わってきた弁護士は、職場の体質をこう指摘する。
<郵政現場の労働問題に詳しい 森博行弁護士>
「(内務者などには)本来義務づけられていない労働を義務付けられるという意味では、業務命令の範囲を超えいる、違法であると思う」
「(郵政は)非常に非人間的な官僚体質のままで、民間会社として上場しようとしている。その矛盾が一つ『自爆』にあらわれているのではないか」
民営化の一つの歪として現れる「自爆」。
巨大組織が抱える負の遺産は、今後も増え続けるのだろうか…
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