川嶋 同じ漢字文化でも中国とは違うわけですか。
桜井 中国語と違って日本語には「音」読み以外に「訓」読みがありますからね。日本は数学も宗教も中国から持ってきて、全部カスタマイズしました。数学書も遣唐使の持ち帰った本の中に少し混ざっていて、それを一生懸命読み解いて改良していった。
例えば方程式。中国の方程式は変数が1つなんです。xだけの方程式を解いて中国人はそれでいいやと思っていた。ところが、ところが、日本人はx、y、zと変数が複数あっても解けるようにした。
なぜかというと、中国は役に立つか立たないかの1点だけ、極めてプラグマティックです。実利主義を徹底したからこそ中国文明というものができたと僕は思っています。ところが、日本はそういう実利を超えて、興味関心から解いていくんです。何かのためではなく。
それは数学の世界では自然な流れです。社会に要請されてということならばxだけでいい。一方、純数学的な思考を日本人は奈良時代くらいからしているんです。
明治時代にさらにドラスティックなことをしました。日本の数学である和算は江戸時代に完成し、その時点での熱狂ぶりは世界の頂点にあったと言っていい。明治政府も最初、日本の数学者たちに和算を教科書に使うと約束していた。
ところが、軍事力を高めるためにはドイツのマニュアルを読まなくてはならず、そのために洋算、ヨーロッパの横書きの数学が必要になった。そういう軍事上の必要性から和算の廃止を決定した。
江戸の数学者は初めみんな反対したんですが、結局は国の説得に応じてヨーロッパの数学を翻訳しました。しかも非常に短期間で。他言語の数学をそんなに迅速に自国語に翻訳するというのは数学の世界では奇跡なんですが、それができたのも和算が非常に高度だったことを裏付けています。
数学を面白がる日本人。江戸時代には一大数学ブームも
1959年熊本県生まれ。3浪で東京大学入学、4年間留年した後、同大学大学院に進み修士課程修了。現在、花まる学習会、スクールFC、数理教室アルゴを運営
高濱 その話は非常におもしろいですね。我われが数学大国の末裔だということがよく分かります。例えば創刊50年以上になる「大学への数学」のようなマニアックな雑誌が出来上がるのもそういう土壌があるからですよね。
それは単なるカネ儲けじゃないというか、面白さを追求している。日本の中学の入試問題は百花繚乱で面白い問題だらけです。本当に世界に冠たるものです。
桜井 中学の入試問題は面白いですよね。数学の問題に関連して言うと、『塵劫記』という江戸時代最大のベストセラーがあります。数学書ですが、一家に1冊あったと言われているほどです。
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