
西野嘉之
慶応義塾大学大学院博士課程理工学研究科修了。07年に企業価値検索サービス『Ullet(ユーレット)』を開発。現在は新聞・雑誌などの各媒体で執筆活動を行うなど、多方面で活躍中。

ユーレットとは?
上場企業約4000社の決算書(財務諸表)や関連ニュース、大株主などの情報を、ワンクリックで表示。各企業の財務データをビジュアル的に把握できる、無料のサービスだ。 |
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帝人の炭素繊維は自動車産業をどう変えるか
「帝人は鉄より軽くて強度の高い炭素繊維を世界で初めて自動車向けに量産する。米国に約300億円を投資し、2015年までに生産能力を4割拡大する。米ゼネラル・モーターズ(GM)が量販車種に採用する計画で、帝人はGMへの主力取引企業として契約を結ぶ。」という記事が出ていた。
炭素繊維は、飛行機の機体の軽量化のために東レの技術が採用されていたが、大量生産されるのは今回が初めてだろう。こういった技術は、初期の開発費がかかるため、高価なものであり、最初は飛行機などの単価の高い製品から採用される事が多い。そこから、量産技術が発達し大衆の製品に採用されていく。今回は、自動車に採用されるという話であるが、果たしてそれがどのような影響をもたらすのか?
最近話題になっているシャープなどの液晶業界も、最初は大変高価なテレビとして販売された。ブラウン管よりもスペースを取らないという事で付加価値があり、高価でも飛ぶように売れた。そんな高価な液晶テレビも、現在は大型テレビでも安価なものだと3万円くらいで販売されている。シャープは液晶技術が発達した結果、そのビジネスモデルが崩壊してしまった。では、自動車のボディが炭素繊維になったらどうなるだろうか?
たしかに、レベルの高い技術である炭素繊維が車に採用されて、ボディが軽量化され強度も保証されれば、電気自動車の燃費も良くなって、自動車業界に貢献するだろう。しかし、自動車業界も電気自動車になって、部品数が減り材料も安価になっていくと、これまで数百万円したものが、いつかは数十万円という価格帯になるかもしれない。そうなると、消費者にとっては喜ばしいことではあるが、企業としてはより付加価値を生み出さなければ、産業として成り立たなくなってしまうのではないだろうか? シャープの液晶テレビのようになる可能性もゼロではないだろう。より安価に炭素繊維製品を開発できる企業が出てきたときには、さらに新たな技術を開発していなければならないだろう。
最新号のメルマガでは、炭素繊維にかける大手化学メーカの儲けの仕組みを分析している。
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