【欲望の迷宮】地下49階
未知迷宮であるこの迷宮をとある探索者のパーティが探索していた。現在宝箱を前にリーダーであるホークという男が待ちきれずに宝箱の罠の解除をする仲間を急かしている。そのリーダーらしからぬ男のせっかちさに苦笑するパーティメンバー達。そして、宝箱が開かれる、そこにはこの迷宮の欲望の名に相応しい莫大な量の金銀財宝が眠っていた。彼ら程のパーティにしてみても今回の探索は当たりと言っていいだろう。ここ最近の探索では間違いなく一番の成果である。そしてホークの合図の下、メンバーは財宝を魔法の袋へと仕舞っていくのだった。
探索の続きをどうするか尋ねる小妖精のリリィ、それにホークは地下49階まで来たのだから地下50階までは探索し切ろうと告げる。ボスモンスターの出現に懸念を示すサブリーダーの獅子のライカンスロープであるオグマ、それにだからこそ居るのなら倒してしまおうとホークは答えた。そしてじゃれ合う仲間達、オグマはあくまで冷静に未知迷宮であるこの迷宮で油断すれば足下を掬われる可能性を示唆する。だがホークはパーティのメンバーを見渡して、俺達6人全員がS級相当探索者のパーティ鷹の目団にどんな万が一があると言うんだ、とパーティに対する信頼と自信を以って笑い告げる。そして笑いながらパーティのメンバーを敢えて自慢するように示していく。サブリーダーである獅子王オグマ、パーティ内の最大戦力でSS級相当探索者になるのも近いと言われ、狂化と獣化の併用狂獣化を使いこなし、その状態の身体能力だけなら並のSS級相当探索者を軽く越えるとさえ言われる覇戦士である獅子のライカンスロープ。次にムードメーカーにして魔法要員である風の妖精リリィ、そのサイズとすれば異常な程に筋力と体力もあり、妖精に付きまとう幸運を呼ぶなどという噂に相応しくSSS級の運勢を持ったまさに幸運の妖精と言える魔賢師たる小妖精、パーティ唯一の魔術師という事を考えればパーティに必須の人材と言えるだろう。次のドワーフの聖戦士ダイン、気は優しくて器用で力持ち、魔法の関係無い罠の解除は全て彼の手に委ねられ、彼ら鷹の目団は一度も罠に引っ掛かった事は無い、パーティの装備の整備も全て行うまさに縁の下の力持ちの好青年だ。そしてお色気担当剣聖レイナと言われた人間の女性は、誰がお色気担当かと突っ込みを入れつつも、確かに軽装気味で肌の露出が多かった。次にパーティの弟役で皆に可愛がられる最年少の聖闘士クルトと言われた人間の青年も、誰が弟役で誰が可愛がられてる、と、文句を言うが、確かにそういうポジションであり、特にエルシア学園の卒業生として後輩と言うことで、レイナとは腐れ縁で、レイナにからかわれる事が多かった。最後にホークは大仰に真打登場と、告げる、この鷹の目団のリーダーにしていずれは大陸史に名を残す男、この俺ホーク、と。パーティメンバーは苦笑いだ。大仰な言い草に対しS級相当探索者として標準的な能力値の、人間の神騎士だった。だがこれだけのメンバーを纏め上げている男だ。実際に人望もあり、能力値では図れない何かを持っているのだろう。これが迷宮都市でも相当に名の売れたパーティ鷹の目団であった。
【欲望の迷宮】地下50階
迷宮を行く一行、途中レイスが襲い掛かって来るが、やはり圧倒的なオグマが霊体を“物理的”に切り裂いて、リリィが浄化の風の魔法で昇天させ、一気に片付けていく。他の4人は手持ち無沙汰だ。先程まではパーティの連携を重視してたが、ボス戦への体力温存の為、オグマは一人敵を蹴散らしていた。リーダーのホークや他のメンバーも了承済だ。そして最奥の広間へと辿り着くのだった。
広間には異界の女神である美女EX級ヴァナディースが待ち構えていた。鷹の目団の団員はすぐさま身構える、EX級、しかも異界の神と対峙する事など初めての事だ。ヴァナディースは蔑んだ目で鷹の目団を見た。そして蔑みの言葉を綴る。そしてあっさり誘惑の魔法に引っ掛かりホークとクルトとダインが突っ込んでいく。リリィが魔法の水を浴びせ正気に返す。そして心胆寒からしめるヴァナディースの言葉に正気に返った3人は青ざめる。そしてパーティを分断するかのように軽く強大な威力の光球を投げつけるヴァナディースだが意図を察したオグマがレイナとリリィを運び合流を果たした。あまりにも圧倒的な力にオグマは理性を失う狂獣化を決意し、他5人を引かせる。ただ一人で自分と戦おうとするオグマに面白そうに嗤うヴァナディース。そしてオグマは狂獣化を使った。完全なる獅子の姿となり世界の法則すら狂わせるオグマ。そして光速の数倍の速度域へと突入し時系列の束縛から外れ世界から隔離される。まったくの同時に神気で同等の速度域へと突入し世界から隔離されるヴァナディース。オグマの攻撃をあっさりといなし、軽く突き出した手でその胴体を貫いていた。そして通常の世界へと回帰する。鷹の目団のメンバーは目の前に重傷で倒れ付すオグマに駆け寄り、慌てて回復魔法を掛け、ヴァナディースを睨み付ける。逃げるよう告げるオグマ。だがホークはオグマを傷つけられた事に怒りを感じ、戦闘の継続を選択した。そしてリーダーらしい決断力であっさりと桁外れに高い最上級の加速薬の使用をパーティメンバーに命じる。そしてオグマ以外の全員が加速薬を飲み、光速の数倍の速度域へと突入し、合わせてヴァナディースも自然と神気で同等の速度域へと加速し、時系列から外れ、世界から隔離された。が、ヴァナディースはもはや飽きていた、先程のオグマと変わらない速度域、目新しさが無い。パーティの連携でどうにかしようとしているらしい鷹の目団だが、ヴァナディースはもう付き合う気は無かった。そして神気を以ってもう一段階速度域を引き上げる。光速の数十倍の速度域。静止した鷹の目団を冷たい目で眺めると、そのまま腕を振るった衝撃波で吹き飛ばした。そして通常の世界へと回帰する。鷹の目団のメンバーは全員が倒れ付し、その現状を理解できないでいるようだった。そしてそのまま冷たい言葉と共に、無数の光球を浮かべ鷹の目団を葬り去ろうとするヴァナディース。と、その首の半分が無くなっていた。全員がただ驚愕する中、広間の中央に蒼く峻烈な美麗な狼が出現していた。
『き、貴様。なぜ!?』
ヴァナディースの驚愕を意にも介さず大きく口を開く。周囲に何も漏れる事のない完全な指向性の咆哮、しかも空気では無くもっと違う何かを振動させる。そして一瞬でヴァナディースは消滅していた。呆然とする鷹の目団を興味無さげに見やると、入り口を見やり、そのまま蒼い狼は姿を消していた。何も理解できぬままに鷹の目団は命を拾っていた。
迷宮都市の郊外、真夜中、拓けた草原。スレイは無数の全てが違う属性の魔法の光球を浮かべ、ゆったりと双刀を振るっていた。と、突然スレイは虚空に声を掛ける、そして姿を現す蒼い美しい毛並みの狼。気付いていたか、そしてその魂の波動間違い無いようだ。という狼の言葉に苦笑して言い返すスレイ。そもそも自分達レベルになれば認識外だろうと自らに危害を加え得る物があれば反応し、そしてその対象に合わせた速度に自動的に加速してしまうだろうと。そう、既にスレイと蒼い狼は光速の数十倍の速度域に突入し時系列の束縛から外れ世界から隔離されていた。その中での先程の鍛錬、おかげでこの有様だと足下の汗で出来た水溜りを示す。しかし態々今の俺の限界の速度域に合わせてくれるとは親切な事だなディザスター、と苦々しい表情で言うスレイに、蒼い狼、欲望の邪神ディザスターは覚えているのかっ!?と反応を示す。それに“識ってしまった”のか“思い出した”のか区別が付かないと答えるスレイ。そうかと告げ、ケジメの為に試させてもらうぞと告げたディザスター、そして戦いが始まる。圧倒的で超絶的な戦闘。常識を超えたその中で、スレイは最近自覚した自らの野望を、強大な欲望を曝け出す。圧倒的な欲望が流れ込み、力が増幅するのを感じ驚くディザスター。そして、負けを認め服従を誓うディザスター。スレイは手加減していて何を言うと、相手が自分より強かろうが勝たなきゃ納得がいかないと告げる。そんなスレイを笑い、もう主とは戦えないから勘弁してくれと告げるディザスターに、渋々と矛先を収めるスレイ。そんなスレイに曝け出した欲望の内、最強への野望は昔からの物だが、女に対する野望は、前世のスレイはミューズに一途だった筈だがと疑問を投げかけるディザスター。それは魂に混ざったミューズの魂の影響だと、ミューズの魂の波動でモテモテでミューズ万歳だな、と告げるスレイに。ミューズの魂の影響と言ってもミューズは純潔を主に捧げ、主一筋の女だったが、と言うディザスター。スレイは自らの魂も特別製だし、転生の際に完全に混ざって化学反応して突然変異したと告げる。疑問の視線を向けるディザスターにスレイはそっぽを向いた。まあ良いかとディザスターはスレイに座るよう告げる。そしてスレイの脚の上に乗り丸まるディザスター。撫でるように告げられ、そのまま撫でるスレイ。そしてフレイヤの宿はペットの宿泊は有りだったかと考える。そうして会話を交わし他の邪神の事について考える内に夜は明けた。
結論から言うと問題は無かった、元々探索者には魔物使いも居るからだ。だがディザスターが酷く目立つ事には変わり無かったが。ともあれ、いずれギルドマスターにはタイミングを図って邪神の事について話し相談しなければならないと思うのだった。
刀神クロウ一行は迷宮都市を目指していた。と街道の先に5人の男に囲まれる3人の美少女が居る。傍に白い小竜が浮かんでいる。あの中に魔物使いが居るのだろう。竜種を従えるなら相当な上級探索者と予想する。と近付く間に男達が怒り出し少女達に食って掛る。剣呑な雰囲気に男らしい正義感と自己顕示欲を発揮したケリーが走り出す。
「あ、こりゃっ」
クロウが注意の声を上げるが気にせずケリーは集団の只中に割って入った。
真紀は面倒だと溜息を吐いていた。フルールの案内で迷宮都市を目指していた所、5人の男達に呼び止められた。真紀達の美貌に釣られたナンパらしい。自分達はA級相当探索者のパーティで“暁の光”というグループに属していて、と自慢し出し、フルールに目を付け魔物使いが居るのか、とグループに勧誘までしてくる。どこの世界でも人はつるむものらしい。探索者もパーティを作りパーティが集まってグループを作るようだ。グループ内で協力し迷宮探索を進める、グループ同士いがみ合うなど、実に分かり易い。尤もグループに属さないパーティそれどころかソロで潜るような探索者も相当居るらしい、ソロは流石に珍しいようだが。興味が無い真紀はどうやって男達をぶちのめすか考える。短気なのでぶち切れる寸前だ。出雲は我関せずだし、セリカは真紀と同じく実力行使に出る寸前だった。いや既に罵詈雑言を真紀とセリカで吐いている為男達は怒り心頭だ。出雲が呟いた無関心で辛辣な台詞も怒りを助長させる。言葉自体が通じるのは異界の勇者の力の一端だ、文字の読み書きも可能である。ついに男達の1人が真紀に掴みかかろうとする。と威勢の良い台詞でケリーが割り込んだ。ナイト気取りらしいと真紀は冷たく考えるも、確かに男達に比べれば力は上だ、自分達よりは見劣りするが。思わず失笑する。だがまあ男達よりマシかと考えた真紀は、一応警告だけはしてケリーに斬りかかった。驚愕して動けないケリー。それでは楽しめないのでとりあえずは剣を突きつけるだけのつもりだ。その後青年も加え、5人の男達も同時に相手取るのも面白そうだ、と考える。と新たな人物が現れた。ケリーに苦言を呈しながら真紀の剣を容易く受け止めて見せるクロウ。そして真紀にも忠告をする。そして容易く真紀の剣を弾き返した。力ではなくひたすら上手い。解放された少年に見えるクロウの力の気配は真紀をすら心胆寒からしめるものだった。
理解できない事態に呆然とするケリー。男達も同様だ。真紀はクロウに対し面白そうに強いわねと言う。嬢ちゃんものと返すクロウ。そして二人が交差する。次の瞬間クロウの二刀が真紀の首筋と心臓に突きつけられ、真紀の刀は後方に突き刺さり、静止していた。ケリー達は理解できずただ硬直する。セリカと出雲は驚きの表情を見せていた。悔しげに負けを認める真紀。総合力なら嬢ちゃんの方が上じゃろう、年の功じゃよと告げるクロウ。悔しさと闘争心で真紀は目をぎらつかせる。と、男達はそそくさと立ち去る。2人の戦いを見て、自分達には手に負えないと理解したらしい。ケリーは少女の強さに悔しさを感じる。セリカと出雲は十代半ばの少年が真紀より強い事に驚きの声を漏らすが、クロウはそれを聞き、84歳だと言い放つ。驚きを見せるが疑いはしない3人、経験上見た目と実際の年齢が違う相手というのも慣れてはいる。遅れてやってくるサクヤとマリーニア。サクヤに注意され慌てて刀を引くクロウ。妻には弱いらしい。謝罪するサクヤにふと呆然とフルールがクロウとサクヤの二つ名を呟く、疑問を投げかける真紀に知識を披露するフルール、隠棲している筈なのにと驚きを隠さない。そして真紀に対し望んでいた強敵だと告げる、刀術と速度だけなら神にすら匹敵するかもしれないと。嬉しいかと尋ねるフルールに笑い頷きどう勝つか考えると意欲が湧くと好戦的な表情の真紀。セリカはやれやれといった顔で、出雲は無表情だ。クロウとの再戦を望む真紀はクロウ達に付いて行くと言い張り、クロウ達に真紀達も同行する事になるのだった。
ギルド本部ギルドマスターの個室で、ゲッシュに呼び出されたスレイは部屋の中の見慣れぬ面子に疑問を感じるも、自らもディザスターを連れて来ている為特に何も言う事は無い。ゲッシュは頼みがあり、紹介したい相手が居ると告げる。そしてまずクロウを紹介する。スレイとクロウは互いに何か感じる物があるように握手を交わす。次にサクヤを紹介する。軽く握手を交わす2人。次にスレイを険しい表情で睨んでいるケリーを紹介した。挑発的で含むところのありそうなケリーを気にせず握手を交わすスレイ。次にマリーニアが紹介される。マリーニアはディザスターに恐怖の目を向けながらスレイと握手を交わし、すぐに離れた。続いてゲッシュは困惑したように真紀を異世界の勇者らしいと紹介した、その紹介に同じく困惑するスレイ。挑戦的な表情の真紀と握手を交わすスレイ。困惑のままに次は出雲を紹介するゲッシュ、同じく困惑したまま握手を交わすスレイ。そしてまだ困惑のままセリカを紹介するゲッシュ、困惑が重なるもセリカと握手を交わすスレイ。ヤケになったようにゲッシュは白い小竜を時空竜だと紹介する、翼をパタパタさせ挨拶するフルールに挨拶を返すスレイ。そして異世界の勇者と時空竜とはと尋ねると、間違いなくそういう存在らしい、マリーニアの占術で確認して貰ったので確かだと返すゲッシュ。まだ不完全だが識る知識の中に僅かに引っ掛かる物もあるし、そういう物もあるのだろうと納得するスレイ。今度はゲッシュがスレイの足下のディザスターについて尋ねてくる。それにあっさり答えるスレイ。ゲッシュは思わずマリーニアを見やり、マリーニアは肯定するよう頷く。そしてその場の全員が硬直し身構える。それに呑気に挨拶するディザスター。意表を付かれ全員が呆然とする。と、フルールがどこか挑発的にディザスターを裏切りの邪神と呼ぶ、それに時空の歪曲者と返すディザスター。互いに挑発的に不気味に笑い合う。衝撃から回復し、邪神っ!?と叫ぶも、フルールの様子に引く真紀、セリカと出雲も邪神とフルールの様子に引いている。それをスレイがあっさりと流す。そしてスレイは丁度良いとゲッシュにロドリゲーニの事を切り出す。またもあまりの内容に一行は呆然とするも、ゲッシュはマリーニアに確認を取り、スレイに問いかけた。何故ただの村の少年だった君が自分で始末を付けようなどと考えたのか、と。説明したとはいえ細かい事までは説明していない、なので自分の罪悪感と贖罪の意識について説明できるとは思えない。それに不幸自慢などしても仕方ない。なので気まぐれとスレイは答える。ゲッシュが追求してもスレイはのらりくらりと躱す為、諦めるしか無かった。ただディザスターに問う。本当に人間に敵対しないのかと。当然と答えるディザスター、過去も主の下で他の邪神と戦ったと。スレイ以前に主が居たのかと尋ねるゲッシュに主は主しか居ないと答えるディザスター。測りかねたゲッシュはその追求も諦め、本題に入る事にした。対邪神の会談にこの場の一同と共に同行してもらいたいというものだ。了承するスレイにケリーが物言いをつける。邪神を従えるとは驚嘆するしかないが、中級職の探索者を各国首脳の集まる場に連れて行くのは不足だと。主にケチをつけられ威圧するディザスターに震えるケリー。そこにクロウが割って入りスレイに馬鹿弟子を納得させる為にと自らとの手合わせを願った。確かに力の証明は必要だろうと、何よりクロウと手合わせできるのは願っても無いとスレイは了承した。
円形闘技場、貸切の今たった9人と2匹が居るのみのこの場の中心でスレイとクロウが向かい合い、他は観客席の前列に座っている。真紀はフルールにスレイは強いのかと尋ねる。フルールは間違いなく強いと答え、あらゆる世界に唯一の“天才”の戦いを見れるなんて運が良いと告げる。天才と呼ばれる人間は数多く居ると異論を唱える真紀に、意味が違うとフルールは首を振る。とにかくきちんと見ておくんだ、というフルールの態度に真紀はやや腹を立て黙り込む。と出雲がディザスターに視線を向け強いのかと聞く。ディザスターは知らん顔だ。フルールは僕と同等で無数の世界を創造し破壊する力を持っていると告げる。フルールの強さを見た事が無いと茶化すセリカにフルールは構わず、冷静に真紀達とこの世界の存在の力の比較をする。“天才”を除けばこの世界の人間の誰より真紀達が強いという言葉に、クロウに負けたと不満げに頬を膨らませる真紀。相性と経験の問題だと返すとフルールは自らの力を説明する。スケールの大きさがうそ臭いと告げる真紀に、魔王との最終決戦では真紀達も星の一つや二つ破壊してただろうと、ただこの世界ではそれだけの力でも抑制されて大陸を吹き飛ばすぐらいがせいぜいだろうけど、と物騒な事を言うフルール。尤も勇者の力には魔王戦以外ではリミッターが掛けられてるから今はそれも難しいだろうけどね、と付け加える。そしてディザスターは自らと同等のみならず、世界を創造するも破壊するも自由自在な真の神、強い弱いの次元じゃないと締めた。3人はディザスターを見るが、ディザスターはスレイを見たままだ。その様子に邪神をペットにしてるスレイは邪神より強いのかと聞く真紀。“現在”はまだ、と答えるフルール。そして再び戦いを良く見るようにと繰り返された言葉に、3人は真剣な様子で闘技場の中心を見据えた。
憤慨するケリー、スレイをわざわざクロウが相手する事に不満を吐き出す。ゲッシュは様々な理由で諭し、サクヤもスレイの動作からその強さを測る。マリーニアがカードの開示も拒否されたし納得できないのも仕方無いと弟に助け舟を出す。占師としてはどう感じたと尋ねるゲッシュに、弟を気遣いながらもクロウと同等と評するマリーニア。ケリーは衝撃を植える。自らより年下の青年がそれだけの高みにある。ケリーの衝撃は深かった。サクヤが成長の余地があり成長を導く者としてクロウが居るという恵まれた環境にあるとケリーを慰める。そして自分も含め全員に戦いを観戦出来る様時間系魔法を掛ける。そして4人は闘技場の中心に視線を移した。
ディザスターは加速は抑えながら、既に純エーテルを全開で循環させていた。スレイを主として初めて客観的に見る戦い、僅か足りとて見逃すつもりは無い。何よりまだ早い段階で出会えたのは幸いだ。スレイは未だ探索者システムに深く染まっていない、今は探索者としての成長は抑え、“真”の“強さ”を磨き上げる。そしてイグナートすら越える“高み”に到ってもらわねばならない。ディザスターは二度と主を失うつもりは無かった。そして相手のクロウも自分達邪神とやり合い敗走しながらも曲りなりにも生き延びて見せた剣神フツ、あの男に近い匂いがする。試金石には丁度良い。ただディザスターはスレイを視線に留め続け、戦いの始まりを待つのだった。
円形闘技場の中心、クロウはスレイに謝罪の言葉をかける。スレイは寧ろこの状況に感謝していると返す。期待に応えられるといいが、と両腰のディラク刀を抜くクロウ。続いてスレイも双刀を抜く。軽口の応酬をしながらも真剣で、互いに油断は無い。ただ強敵との戦いに両者共に僅かに口元が緩む。と、合図も構えも予備動作も無く、同時に光速の数十倍の速度域へと突入する、同時に観客達もその速度域を知覚できる程に思考を加速させ、そして全員が時系列から外れ世界から隔離されていた。そして圧倒的な技巧の類を尽くし、互いに己が刀術の極限まで駆使し戦い合う二人、戦いの中スレイはまず序盤に1つ終盤に2つの特性を得る、そのまま最終局面へと戦いは進み、両者は制止し、両者と観客達は通常の世界へと回帰する。カウンターの一撃、アスラの刃がクロウの首筋に食い込んでいた。
「俺の勝ちだな」
「ああ、儂の負けじゃ」
視線を交わし、勝敗を確認し合う二人。互いに刀を引き、クロウは素直に負けを認めていた。
フルールの首を絞めて意味不明だったと告げる真紀、その蛮行を誰も止めない、実際本当に見ていて理解不能だったからだ。フルールは技巧の限りを尽くした上あらゆる要素を使った超高位多次元機動戦闘を行っていたので、同等の速度域にあっても捉え切れなかったのは仕方無いと告げる。呆れる全員。何よりゲッシュは本来神々の結界で傷つかない筈の闘技場のボロボロの惨状に目を覆う。自然修復されるとはいえ数日は閉鎖せねばならない。仕事が増えて胃が重くなる。そして目を光らせ勝者であるスレイをライバル認定する真紀にフルールは力の差を指摘しようとしてまた首を絞められる。ディザスターは1匹沈黙を保ち満足げに頷き、この戦いでまた強くなった事を賞賛し、だがまだ、それこそかつてのヴェスタすら越える程に強くなって貰わねばと一人呟く。
観客席に向かいながらスレイはカードを確認し、「心眼」「明鏡止水」「無念無想」と確かに3つどれもが剣士にとって得難き特性を獲得している事を確認する。しかしその喜びよりもクロウとの戦いの喜びの方が大きかった。自分と対等以上の相手と仕合う、これ以上の楽しみと喜びが他にあるだろうか?闘争心が消えずスレイは珍しく浮かれていた。
【始まりの迷宮】地下1階
ケリーは渋々スレイの対邪神の会談への参加を認めた。師であるクロウに勝ったとあっては認めざるを得まい。悔しげな羨望をスレイに向けていた。真っ直ぐな気性で若く師に恵まれているのだから伸びるだろうなと予想する。果たしてここに居る何人が彼のように成長の可能性を秘めているかと、後方のエルシア学園の生徒を見やり考える。今スレイはエルシア学園の臨時講師としてのフレイヤの助手としてこの場へ来ていた。2度も大きな事件があり、【始まりの迷宮】といえど安全では無いと、元S級探索者とはいえ引退したフレイヤ1人だけの実習に保護者達が難色を示したので、現役で“黒刃”の二つ名も持つスレイを助手として付け保護者達に配慮した形だ。名門だけあり貴族の子女も珍しくない、学園も気を遣う。が、人選は完全にフレイヤの私情だ。現に今もスレイと腕を組み見せ付けるようにしている。男子生徒は嫉妬の視線をスレイに送り、女子生徒は楽しそうにしていた。見世物だ。男避けだなとフレイヤに問うスレイ、肯定しつつ事実だから問題無いわよね、と告げるスレイ。反論の余地は無かった。ただ、たまにこういう事もしたかったから良い機会だったと告げるフレイヤ。現在宿は学園が用意した人材が留守を預かっている、他にサリアの面倒を見る人材もだ。どちらも学園の教師だが教師になるのは高くても元C級相当探索者程度が精々。だが現役の高ランク探索者を雇うのは高い。若くして引退した元S級相当探索者というフレイヤは稀少な人材なのだ。故にフォローは万全。しかも今回はフレイヤの伝手でスレイも格安で雇えた。フレイヤが公私混同しても文句は出ない。なので心置きなくイチャついていた。ディザスターもお留守番だが、置いていかれると知った時のしょぼくれた様子は哀れを誘う程だった。とまれ今までの分を取り戻すように存分にスレイに甘えるフレイヤ。だが仕事も忘れてはいない。モンスターの気配を感じ生徒を制止する。そして三人の生徒を呼んだ。三年騎士科主席ライオット・グレイブ、三年魔術師科次席ルーシー、三年闘士科主席ジーク・グランド。ライオットと呼ばれた青年は騎士科とは言え学生では珍しく既に騎士職に付いているようだった、その事を尋ねると由緒正しい武断派の公爵家の息子で幼少期から教育を受けているらしいとフレイヤが答える。と、ライオットの嫉妬の視線にどうやらフレイヤに懸想してたらしいと苦笑するスレイ。ルーシーと呼ばれた少女は次席という言葉に不満そうに今の自分なら生徒会長にだって勝てると告げる、フレイヤは困惑しつつも勝ってからいいなさいと返す、黙り込むルーシー。ジークという青年はただスレイさえ感心する程の自然体でただ静かに立っていた。手本を見せろという言葉にスレイの実力を知りたいと叫ぶライオットとルーシー、とルーシーとライオットとの間でも諍いが生じるが、ルーシーの言葉にライオットの方が怯えを見せる。どうやら手酷い目に合わされた事があるようだ。2人に困惑するフレイヤに、ルーシーはライオットの気持ちを暴露し、その上で自分はフレイヤやスレイより強いと言い放つ。ルーシーの様子が以前とあまりに違う事に困惑するフレイヤ。これも恋人の為かと、スレイは軽く2人を言葉であしらう、いきりたつ2人をスレイは無視すると、臨時講師助手命令としてジークに、迷惑だろうが力を見せて馬鹿2人に分相応ってのを教えてやってくれ、と言う。ジークはスレイを暫し見ると畏敬の念を宿し、肯定の返事をした。そして雑魚モンスター相手とはいえ、洗練された動作で圧倒的な実力を見せ短時間で戦闘は終わる。学生達は歓声を上げ、フレイヤは驚き、ライオットとルーシーは愕然としていた。そんな愕然とした2人を挑発するスレイ。1人で戦おうとしたライオットだが、いくぞと宣言したその瞬間にスレイの刀が首筋にあった。混乱するライオットを捨て置きルーシーに再度戦うか確認する。警戒し自分に一方的に有利なルールを提示するルーシー。だがスレイは軽く頷き、ただ知り合いにジュリアが居るかを確認し肯定され因果を感じて項垂れる。だがそのままスレイはルーシーを促した、あまりに舐めた態度に激昂するルーシー。1ヶ月前病が快復してから劇的に上がった魔力、騎士科史上最強と呼ばれたライオットにも勝った。先程は驚いたがジークにだって勝てる、挑発にノってすら来ない臆病者だ。それに“剣女神”にだって、長年の目の上の瘤“女帝”にだって勝てる。怯える自分に気付かぬ振りをしそう思い込む。目の前のスレイという男だって先程の速度には驚いたが、自分の戦いのルールにノって来た。自業自得だ。私の魔法の威力を存分に味わってもらおう。そして全力で魔法を解き放つルーシー。勝利を確信したその瞬間、無傷のスレイが現れ、そして拳骨でルーシーを殴った。そして良い事を思いつく、スレイの幼いころの夢は教師だった、この3人相手に教師役をやればどうだろう?それはとてもスレイの欲望に沿っていて、尚且つ欲望に忠実に生きると決めた今のスレイの決断に叶っていた。ジークに関しては逆にこちらが教わりたい事がある。そしてジークとルーシーとライオットにフレイヤが臨時講師の際は3人だけスレイが別メニューで鍛えなおしてやると告げる。ジークは僅かに瞳を輝かせ、他の2人は呆然とするのだった。
朝。心地良く目覚める。枕にしていたディザスターが声を掛けてくる。遅い目覚めであった。日課のディザスターとの早朝鍛錬もこなしていない。最近は迷宮探索は休み気味だ。ディザスターからの進言故だ。何はともあれ本当に心地良い目覚めだった。昨日が充実していたからだろう。教師の真似事は楽しかったし、フレイヤへの埋め合わせに多少過激だった行為にも満足していた。スレイの欲望はディザスターの糧にもなるので一石二鳥だ、スレイはあの後の事を回想した。主席だけあり3人共学生としては優秀だ。ライオットは英才教育の賜物だろうLvが高く総合力が高い。ルーシーは桁外れな魔力を持つ。だが一番の注目はやはりジークだ、Lvは低いがスレイが最も重視する速度は中々だし、バランスも良い、スレイがしらない“寸勁”と“浸透勁”という特性まで備えている、それに何より先程の戦いからもジークには能力値では計れない何かを感じていた、それを今まで完全に隠して来たのは流石だろう、一番期待が持てる。とりあえず3人に自分を先生と呼ぶように告げる。素直に同意したのはジークのみ、他2人は反論の声を上げる。が、軽く振るわれた刀が2人の間に深い溝を作る。2人は蒼白になり、ジークはスレイへの視線の敬意を深める。再度繰り返すスレイ。今度は3人から同意の声が返ってきた。そしてスレイはまず実力の理解の為に3人全員で掛かって来いと告げる。数秒後3人は地に倒れ伏せていた。賞賛の声を上げるジークと何も言えず地に伏せる2人。そして2人に説教などかますと、ジークと世間話をするスレイ。その中で学園史上最強と呼ばれる三年魔術師科主席生徒会長“女帝”エカティーナと、三年剣士科主席風紀委員長“剣女神”セリアーナの存在を知る。学園内での物とは言え随分と大仰な二つ名だ。興味を抱く。そして暫し、2人が回復すると3人を解散させた。次からもフレイヤの臨時講師の際には3人だけ特別授業を行う旨を告げて。帰ると同時フレイヤに連行されたスレイ。どうやら色々と不満な様子だ。充分に埋め合わせをし、部屋に戻るとはしゃぐディザスターに迎えられ、眠りに付く。
回想を終え、スレイは昨日はひたすら充実していたと満足を覚える。欲望に忠実に生きると決めた自分に相応しい日常だった。人に物を教えるのが3番目に好きだと確信するスレイ。ただ後は圧倒的な強者との戦いがあれば最高だったのだがと思う。早朝の鍛錬をサボったのは取り戻さねばなるまいと、ディザスターに声を掛け起き上がるのだった。
クロスメリア王国西端、エルフ自治領、世界樹の森。スレイは祖父に恋人を連れての帰郷を命じられたエミリアに同行していた。今回は置いて行かれるのに耐えられなかったらしいディザスターも同行させている。スレイとディザスターの速度で以って一瞬の時も掛からず世界樹の森の手前に辿り着きエミリアはポカンとしていた。日帰りも可能だろうと考えながら、スレイ達は森の中心部を目指す。世界樹の直近には高位種族たるハイエルフが住み、その周囲に通常のエルフの各氏族が分かれて集落を作っているらしい。ダークエルフは森の中心から離れた場所に住んでいるとの事だ。森の中を腕など組みながら呑気に歩くスレイとエミリア。ディザスターの圧倒的な気配に竦んだモンスターは殆ど出てこないが、それすら分からない雑魚が時折出現する。それを片腕の刀で瞬殺し、ディザスターがあっさりと片付け、歩み続けた。と違和感を感じ結界かと告げるスレイ。その鋭さに驚くエミリア。既にエルフの領域なのかと尋ねるスレイに肯定するも集落はまだ先だと答えるエミリア。だがエルフは居るようだと、スレイは言うと、右手を上げた。次の瞬間矢がその右手に握られている。礼儀知らずと罵るスレイに数人のエルフが現れる。鼻で笑うエルフ達だが、エミリアの名乗りにやや取り乱す。今すぐこの場を去るなら今の事は忘れてやると交換条件を突き付けるスレイ。憎々しげに見ながらも悩むエルフ達。後押しする為にスレイはディザスターに完全に力の気配を解放させた。圧倒的なプレッシャーに恐怖のみを抱くエルフ達。スレイの合図に気配を弱め、スレイはもう一度去れとエルフ達に告げる。エルフ達は脱兎の如く逃げ出した。エミリアが何か言おうとするも、気にするなと告げ、ディザスターを褒めてやるスレイ。そして再び腕を組み歩き出す2人。黙って付いていく気配りの出来る邪神ディザスター。程なく一同はグラナダ氏族の集落に辿り着いた。
「そういえば」
集落の中、エミリアの家、エルフなのだから当然だが若々しい両親に歓迎されたスレイは、歓談の時を過ごし、エミリアの祖父を待っている。そして空いた時間、スレイは“女帝”の事を尋ねる。睨むように何処で知ったか聞いて来るエミリアに疑問を覚えつつ、経緯を話すスレイ。強さに興味があるという言葉にやや険の薄れるエミリア。また新しい女性に目を付けたと思ったというエミリアに不本意そうにするも、反論はできず黙り込むスレイ。だがエミリアはくすっと笑うとそういう男だと分かっていて恋人になったし仕方無いと言い、やり込められた事に気付きスレイは憮然とする。そして質問に答えるエミリア。今度学園に行ってみるのも一興かと考えるスレイに、じと目のエミリア。暫しそんな雰囲気が続いた。と、玄関が開き誰かが走ってくる、突然伸びた腕を咄嗟に止めるスレイ。手はエミリアの胸の寸前で止まり、その腕の持ち主はやはり若いエルフの男だった。孫の成長を確かめる邪魔をするとは何のつもりじゃ、と言う男に、エミリアの胸を揉みしだきこれは俺の物だと宣言するスレイ。ほう、と目を丸くすると。良く来たなエミリアの恋人よ、儂がエミリアの祖父、グラナダ氏族長老衆が1人ジンじゃ、と名乗る男。探索者か、とスレイの誰何に驚き元探索者じゃ、と言う男。良くわかったのう、という言葉に動きや気配でそのぐらい分かるとスレイは答える。エミリアに極上の男を連れて来たようじゃな、と褒めるジン。これで厄介な客人を追い払えるなどと気になる事を言っているが、スレイは一番気になる事を尋ねる。探索者として何級相当だったのか、と。元SS級相当という答えに、挑戦的な視線を向けるスレイ。が、疑問を片付けようと、現役と元の差を尋ねるスレイ。呆れたように5年に1度の更新手続きをしなければ現役で無くなると答えるジン。疑問が解決し、尚挑戦的な視線を向けるスレイに、意図を察し、ジンはやれやれといいつつ相手になろうと告げる。そしてまずは互いにカードを見せ合う事を提案する、頷きスレイはカードを差し出す。驚き探索者になってからの期間を尋ね更に驚くジン。次にジンがカードを差し出す。その能力値の高さに流石元SS級探索者、と歓喜するスレイ。そして外に出る2人、おいてけぼりの一同も慌てて後を追う。
空き地にて、対峙する2人の周囲には野次馬が集まる、様々な種族が散見されるのに流石グラナダ氏族と感心するスレイ。そしてジンの加速系の魔法から始まる戦い。光速の数十倍の速度域、いつもの如く時系列と世界から隔離される。と、突然出現した無数の丸太、しかも先端が尖り杭のようで、更に溝が掘られたドリル型の代物にキョトンとするスレイ。そんなスレイにこの世界全ての生命の情報を含む系統樹の概念を擬似的に具現化しドリル化した物だと、この世界の生命全てに対する絶対殺戮権を持つから掠りもするなよ、と告げるジン。恐怖が無いため、危うく自分がこの世界の生命の範疇に入るのか確かめる為当たりたい衝動に駆られるも、生きるべき理由を思い出し自制するスレイ。と一気に丸太のドリルが襲い掛かってくる。躱すスレイ、地面に突きたつドリル型の丸太、とその側面から枝が生え、圧倒的な物量でスレイに迫る。スレイは炎の精霊王の加護を受けた魔法で応戦するも容易く四散する炎の魔法。流石に驚くスレイ。咄嗟に双刀の居合いでⅩ字型の軌跡の斬撃波を放ち、一気にジンまでの突破口を開く。そして無数のドリル型の丸太が超光速回転しながらスレイに迫るのを双刀を振るい退けるスレイ。分割した思考でスレイは考える、これは系統樹を具現化した物、無限大熱量を以ってしても焼く事は不可能、ならば
とスレイは無数に分割した思考を全て使い魔法陣を展開し、黄金真火を以って系統樹を焼き、ジンを真火で覆い尽くした。通常の世界へと回帰する。野次馬が騒ぐ中、スレイは告げる。
「俺の勝ちでいいな」
「ああ、良かろう。儂の負けじゃ」
悔しげながらも負けを認めるジン。そして双刀を鞘に納めるスレイと、残った丸太を地面へ突き刺すジン。見物人達が湧く。ジンに勝ったスレイに対する賛辞だ、流石グラナダ氏族だろう、他のエルフ族なら人間に賛辞を送る事などありえない。と、ジンに対し嫌味な声がかかる。現れるハイエルフの男女。スレイとジンの居る中心に歩み寄って来る。ハイエルフ至上主義たるハイエルフ族はグラナダ氏族にとっては招かれざる客人だ、観客達も嫌な表情をしている。中心に辿り着いた2人の内男が、ジンのみを見てエミリアを花嫁と呼ぶ、嫌な顔をするジンと険しい表情を浮かべるスレイ。女は興味無さげに佇むのみ。エミリアを見付けた男は美しさに感嘆し流石我が花嫁と言う。怒るジン。そして一同を家へと招くのだった。
ジンの家。席にかける一同。求婚の話じゃったのと確認するジンに、グレナルという男が以前既に婚約した筈と告げる。嫌な顔をするエミリア一家。スレイはグレナルを睨む。無視するグレナルだがそのあまりに鋭い物理的な圧力すら伴う視線に冷や汗を流す。
断ったというジンに、エミリアが居る事を都合良く受け取るグレナル、阿呆と斬って捨てるジン。グレナルは驚く。ジンはエミリアの恋人を見せる為呼んだと言う。恋人とは何処にとグレナル。スレイを指すジン。人ではないかと怒るグレナル。意に介さぬジンに、グレナルはハイエルフ族の力で脅しを掛ける。逆に個人の力で脅し返すジン。グレナルは肝を冷やす。他のエルフを見下してはいても、元SS級相当探索者の力は知っている。ただここまで本気で拒まれるとは予想していなかっただけだ。とハイエルフの女、妹のティーガが引くよう告げる。名残惜しげなグレナルに、スレイがわざとエミリアを抱き寄せ見せ付ける。文句があるなら相手になると言うスレイに、人間にと歯噛みしながら、実はジンに勝った場面を見ていた為理性が働くグレナル。ティータは興味深げだった。ジンの最後通牒に促すティータ、グレナルは捨て台詞を吐き去る。スレイは軽く返し、ディザスターが軽く唸った。驚愕し、そのまま立ち去るグレナル。また、と告げ去るティータ。不思議そうなスレイにハイエルフに目を付けられたとジンが謝罪する。ジンと戦えたしエミリアは自分の恋人だから問題無いと言い放つスレイ。豪気じゃなと大笑するジン。そして晩餐でもてなされた後1泊し、次の日、都市へと2人と1匹は都市へと帰還した。
広場、リリアと合流し腕を組み歩く2人。どこか不機嫌そうなリリアに、その原因である用件“女帝(エンプレス”と“剣女神(ソードゴッデス”の2人の情報を尋ねるスレイ。デリカシーの無さを責めるリリアだが、それすら可愛く思える自分の色ボケを寧ろ悩むスレイ。リリアは仕方が無さそうに話し出す、自らの動向をあっさり把握する手際に流石と感心するスレイ。そしてライオットの親の公爵は寧ろ感謝していて、ルーシーの両親も変貌した娘の教育に感謝してるみたいだが、ジークに関しては面倒に巻き込まれるかも、と告げるリリア。興味を示すスレイに、グランド家が闘術の大家で様々な国に影響力があり、その意味では公爵家以上の権威を持つ事を告げ、全く学園関係者にそれを悟らせなかった事に感心し、本家の息子に教授したりすればグランド家は気に入らないだろうと言う。面白く思うスレイとそれを見抜くリリア。次に肝心の2人の事を聞くと、生まれはごく普通、小さな頃から知り合いで、学園への入学前から探索者になり既に迷宮探索をしていたと言う。親をどうやって説得したのか疑問に思うスレイ。そして既に探索者だったなら何故学園に入ったのか聞くが、スレイには分からないだろうが肩書きや学べる知識や技能は探索者をやっていく上で役に立つのだと答えるリリア。と少し話が脱線し、迷宮都市の子供の現状などの話になりしんみりするも、2人のやりとりでどこかコミカルな空気に変わる。結局現状を変えるのは自身であり上に立つ者だ。尤も自らが最強の頂に立った際にはそんな下らん因果力尽くで断ち切ってやっても構わないが、などと物騒な思考を展開するスレイ。と、リリアは話を元に戻す、2人の能力値は調べられなかったと。まあ人に見せる物じゃないしな、尤も今まで会った相手はあっさり見せてきたがと答えるスレイ。特殊な相手ばかりだと呆れるリリア。次いで2人が魔術師系、剣士系で中級職だと言うリリアに感心するスレイ。Lv30からLv50の間と考えると俺と同じ位の可能性が高いかと予想するスレイに、スレイの現在のLvを思い出しやった事から忘れてたとリリア。いったい自分の行動をどこまで調べてるのかと聞くスレイに秘密だと答える。そしてここからはデートだと告げるリリア。2人は再び腕を組み歩く。そして恋人らしい一時を過ごし、部屋に戻ったスレイはディザスターに席を外して貰うよう頼む。空気の読める邪神ディザスターはそのまま外に出掛け、そして2人は甘い一時を過ごした。
迷宮都市、探索者として一代貴族となった者の多くが邸宅を構える高級住宅街、グラナリア邸もまたそこに在った。現在スレイはグラナリア邸へ訪れていた。リビングの中ルルナと共にルルナの両親を待つ。2人の後ろには完璧な所作のメイドが1人。特別な立場と思われる。スレイの鋭敏な聴覚は扉の外の使用人達の会話を拾い、厳しい審美眼を持った彼女等の自分への厳しい評価にへこむ。まあミューズの魂の波動は魅了するような物でなくあくまで好感度を稼ぐのにボーナスがあるような物だ。初見で貴族のレベルでの評価ではそこそこに落ち着くだろう。野望の達成は遠そうだと肩を竦める。と今度はアッシュとの比較が始まる。主の子に対してもシビアな意見が飛び交う。ルルナもまた鋭敏な聴覚を持つ為申し訳無さそうに謝り注意すると言うが、スレイは大目に見てやれと言う。女性に甘いと溜息のルルナ。尤も室内のメイドも気付いて眉間に青筋が浮かんでいる。恐らくは彼女が叱り飛ばすだろうと思えた。と使用人達が慌てて立ち去る。そして扉がノックされ、ルルナの返事と共に扉が開く。三人の男女が入ってくる。1人は扉を開けて佇むメイド、そして2人の上質な衣服の男女。三人共探索者だとスレイは看破する。スレイの会釈に男女は答え、席に座りその後ろのメイドが静かに佇んだ。そして男女がアッシュとルルナの両親のガルードとリリーナと名乗る。A級相当探索者の夫は元S級探索者の妻に肩身が狭そうだった。スレイは同情の視線を送り、気付いたガルードと共感を交わすも、リリーナが咳払いで断ち切る。そしてズバリとスレイの女性関係に踏み込むリリーナ。ルルナが叫ぶが、リリーナは責めてはいないという。ただルルナの事は真剣に考えているかという問いに、スレイは肯定する。それで納得するリリーナ。疑問に思うスレイに別の話を切り出す。イリナと親しいかという問いに、どうしたのか尋ねるスレイ。リリーナはアッシュとエリナの事を尋ねる。これが本題かと納得するスレイ。自分が知る限りの両思いだが文通だけの関係、イリナだけは反対しているが両親は認めているという情報を伝える。安心したようなリリーナ。そしてスレイに邸宅のルルナの部屋に泊まっていくよう、明らかにそういう行為を示唆して告げる。流石に驚くも了承し、宿への伝言を頼むスレイ。初孫を見たいと言い残し、去って行くリリーナと続くガルード。それに従うメイドが室内のメイドティナに後を頼むと言い残す、それにはいメイド長と答えるティナ。ティナがメイド長かと思っていたスレイが疑問に思い尋ねると、メイド長ヒルダは殆ど両親の仕事に付添うので、副メイド長のティナが家を仕切る事が多く、実質そのような物だという答え。凄い女性だったが仕事とは?と尋ねるスレイに、母は“元”だけど今でも父と一緒に迷宮探索してると答えるルルナ。返事を返しつつ念話でディザスターに泊まりを伝えると、2人はティナに案内されルルナの部屋に通される。そしてスレイは初孫作りに励んでみるかなどと言いつつ、ルルナを押し倒すのだった。
職業神の神殿騎士の宿舎、ジュリアの元を訪れたスレイは2人で外へと繰り出す。今日はディザスターもお付だ。神殿に入る時は神殿の神気が恐怖してたが、神々も顕現できずとも様子は見ているという事だろう。2人はルーシーの話をする。スレイはルーシーの能力値を明かし手加減せずに叩きのめす様忠告する。物騒なと呆れるジュリア。素直な良い娘だったというジュリアの言葉にスレイは全く面影は無いと言い放つ。そしてルーシーの家。ルーシーの母のルミアが出て、スレイを見てジュリアを茶化す。ルーシーの話だと切り出したジュリアはスレイの紹介をする、するとルーシーがスレイに報復すると言っているという情報が齎された。複雑な気分のスレイ。何故相談してくれなかったかルミアに詰め寄るジュリアをルミアはいなす。スレイのどういう知り合いかという質問に、可愛い恋人と茶化すルミア、照れるのはジュリアだ。そして隣同士の家に住んで面倒を見ていたという言葉にジュリアの過去を聞けるかと思う。察したジュリアが止める様牽制するが、男っ気なんて全く無い過去を恋人に知られて困るのかと茶化すルミア。落ち込むジュリア。2人の関係を何となく理解するスレイ。とりあえず肝心のルーシーは学園の図書館に入り浸りだが、ジュリアが言っても無駄だろうという言葉に項垂れるジュリア。と、ルミアはスレイにルーシーの事を頼んでくる。あっさりと倒した事での抜擢のようだ。ジュリアからも頼みこまれ、恋人からの頼みなら張り切らなければなと返すスレイ。その後家に上がり歓談し、暫し後辞す。ディザスターに先に宿に戻るよう頼むと、どこか不満げなディザスター、スレイは甘い物で釣る。そしてジュリアの個室にやってくると後ろからジュリアを抱すくめるスレイ、驚いたようなジュリアと会話を交わし、そのままベッドに横たえると、秘め事に溺れるのだった。
カードを見て既に剣皇になれる条件を満たしてるというフィーナに、守秘義務もあるだろうにすまんと謝るスレイ、惚れた弱みと頬を膨らませるフィーナ。今日もまた職業神の神殿を訪れた、ディザスターも一緒だ、連日のお出かけにご満悦なディザスターに対し、勘弁してくれとばかりの神殿の神気。ともあれフィーナを呼び出しデートに誘ったスレイは、ついでに少し自分の能力値を見て貰っていた。能力値の異常さの自覚から見せる相手は選んでいる、当然フィーナは見せていい相手だ。能力値を上げるのはまだ早いとディザスターに言われてるが、分析して貰うぐらいは構わないだろう。なにげなく聞いた隠し職業の情報をあっさりと明かしてくれたのは棚ぼただったが。恋人としての破格の対応だろう。ちなみにスレイは自分の選んだデートコース、装備品を扱う店に近付かないルートを歩きつつ他も色々尋ねる。と、フィーナはカードの内容に驚いていた。どこが驚くべき要素なのかを尋ねるスレイ。神殺し(ゴッド・スレイヤー)がありえないと言われたのは想定内。双刀の主は珍しいが隠す程では無い。と双刀に対抗するディザスターに苦笑する。天才は謎としか言えないので隠す方が無難。闘気術と魔力操作は流され、闘気と魔力の融合は聞いたことも無いと逆に尋ねられる、純エーテル強化という内容に隠すべきと結論するフィーナ。思考加速、思考分割、剣技上昇は一般的。刀技上昇はディラクではありふれている、二刀流は多少珍しい、無拍子はかなり珍しいが隠す程ではない。化勁についてはある武術の大家では習得方法を確立してるがスレイは独力で身に付けた為難しいというフィーナに武術の大家とはグランド家かと尋ねるスレイ。知ってるのかと聞かれ、その家の息子と縁があると答える。結局隠す程ではないが、グランド家には睨まれない方がいいと言われ、手遅れだと呟くも、フィーナには何でもないと答えておく。続けて明鏡止水に無念無想は隠した方が良い。心眼も無拍子より遥かに珍しい特性なので隠した方が良い。高速詠唱と無詠唱は一般的だが剣士職だから隠した方が良い。炎の精霊王の加護にはいったい何処で会ったのかと尋ねられる、迷宮でと答えるスレイに、未知迷宮と勘違いするフィーナは、絶対に隠すべきと言う。そして耐性は本来一般的な物なのだが邪耐性に神耐性なんて、邪神と戦った事でもあるのか、と言うフィーナに、心の中で正解と呟くスレイ。何はともあれ隠すべきと言われる。総括として絶対に能力値は人に見せるべきでは無いという当然の結論になった。分かっていた事をはいえ項垂れるスレイ。もっとカードが便利になればいいのになどと考える。と、ふとセリアーナの話をフィーナに持ち出すと、二回ともクラスアップを担当したと聞き、フィーナには偶然が多いな、と驚くスレイ。と脇腹を抓られ、恋人と一緒の時に他の女性の話題を出すのはどうかと思うと言われる。反省したスレイはフィーナに手を差し出し、デートの続きを楽しんだ。そしてまたディザスターには先に帰ってもらう。先にフィーナに部屋に戻ってもらうと、スレイは宿舎に忍び込みフィーナの部屋に入る。そしていきなり押し倒した。最初暴れるフィーナだがスレイと気付き大人しくなる。その後涙を目に浮かべながら抗議するフィーナに謝るスレイ。そしてフィーナに言われるまま、優しく解きほぐすよう交わっていくのだった。
迷宮都市からクロスメリア王国王都サザンクロスへの街道、巨大な幌馬車が聖獣ユニコーンに引かれ高速で進んでいた。ユニコーンは生娘が存在しなければまともに働いてくれないが、幸い乗客の中には4人も生娘が居た。幌馬車の中に居るのはゲッシュ・クロウ・サクヤ・ケリー・マリーニア・真紀・出雲・セリカ・フルール・スレイ・ディザスターの計9人と2匹だ。馬車の構造が特別な為揺れを感じる事は無い。御者は居ない。知性持つユニコーンには必要無いからだ。異世界組の3人は自動車より速いその速度に驚く。これでも速度を抑えてると、そしてこのペースなら3日かなと自慢げに説明するフルール。その得意気な顔がムカつくと理不尽に首を絞める真紀に、フルールはスレイの元にやってきた。何故自分の所に来たか尋ねると安全地帯呼ばわりされる。少々腹を立てつつも、億劫げに自分とディザスターなら一瞬なのにと呟くスレイ。流石にスレイ達だけ先に行っても意味が無いし、そもそもギルドの決まりで探索者の超高速での長距離移動は禁止されてるし、スレイの場合迷宮都市への旅は徒歩だったんだろうと尋ねるゲッシュ。既に決まりを破ってる事を思い出すもどうでも良いと切り捨て、旅の際の移動速度はこの速度よりずっと速かったから、掛かった時間の殆どは途中で巻き込まれた騒動が原因と答える。トラブル体質だねと苦笑するゲッシュ。そしてスレイはクロウとケリーとの刀談義に戻る。サクヤやマリーニアは呆れ顔だ。3人共まるで玩具を前にした子供のようだ。一通り刀について語り尽くすと、次は刀を使った戦闘談義に入ろうとする。それぞれに刀術について一番重要な要素に違う意見を持っている為議論も白熱するだろう。スレイが今推しているのは速度だ。と横合いから声が掛けられた、異世界の勇者3人が何時の間にか席を移動している。とフルールは慌ててスレイの後ろに隠れた。真紀はスレイ達の得物を見て目に好奇心を浮かべながら、自らの得物を差し出し抜き放った。ディラク刀と同じ形状に見えるもスレイは違和感を覚え尋ねる。造りが同じに見えながらどこか違う、不思議な刀だ。真紀は日本刀だと言った。聞き覚え無い名に聞き返す。そして真紀はディラク刀がディラクという国で作られた刀だからディラク刀というように、自分の世界の日本という国で作られた刀だから日本刀だと、しかも幻とされる正宗の銘が入った長物だと告げる。銘と言われ不思議そうな3人に、刀匠の名を刻む習慣は無いのか尋ねると。フツ神から技術を賜った刀鍛冶は全て名工、故に優れた傑作自体に名が与えられる事はあっても、刀匠の名を刻む習慣は無く、それは寧ろ大陸の刀剣の文化だと答えるクロウ。文化の違いに面白そうな真紀。とフルールが顔を出し、いくら名刀でも鋼の刀じゃ無理があるから、アラストリアの最高の付与魔術で強化されてて正宗(+9)って感じかな、と告げる。そして両者の相似に言及するスレイに、フルールはこの世界の剣神フツと真紀達の世界の日本の経津主神の関係を語った。そして再び人の手のみで作られたという正宗を見て、人の技術の可能性に感じ入る3人。そこへセリカが銃は無いのかと尋ねるも、この世界に銃は無く、つまらなそうに口を尖らせたセリカは銃を取り出す。その際のガンチラに男性陣は目を奪われるが、クロウのみサクヤの火の魔法で焼かれていた。ともかくセリカが取り出したのは実に無骨な鉄の塊であった。それが銃かと尋ねるスレイに、一応と肯定しつつも、私の世界の物じゃないし撃ち出すのは魔力だと返すセリカ。またフルールが顔を出す。スレイの後ろが安全地帯として気に入ったらしい。そしてアラストリアの魔導銃で魔力そのものを弾丸として、セリカの意志を込める事で魔法を越えた威力を生み出し、速射連射も可能な優れものと説明する。得意気に胸を張るセリカ。また視線を奪われる男達。またクロウのみサクヤの魔法でダメージを受けた。そんな中話に交じれないのと、魔導銃が魔法を超えると言われた事に不機嫌な出雲。経験からの悲しい習性かフルールがフォローに走る。出雲はアラストリアの魔法体系の全てを極めた大魔導師だと。ヴェスタの魔法体系を全て極めた魔術師なんて聞いたことも無いだろうと。確かにと頷くのに胸を張る出雲。胸の起伏が無い為クロウがダメージを負う事は無く、気付いた出雲が不機嫌になる。真紀がスレイ達に議論の内容を聞く。刀術に重要な要素で自分は速度を推していると答えるスレイに、スレイの速度ならそうかもしれないが一般的じゃないと否定する真紀。やや不機嫌になるスレイ。他2人が何を推していたのか尋ねる真紀にケリーは技と答え、クロウは精神力と答える。極端だと呆れる真紀は、自分は総合力と言いたいが、総合力で勝ってるクロウ相手には負けたし、全部重要な要素だけど、結局は根本的な強さの格、同格なら相性次第だろうと言う真紀に、スレイが全て重要な要素と分かった上で、中でも最も重要な要素はという議論だと答える。答えの出ない議論だと呆れる真紀。敢えてそれを楽しんでいた3人は罰の悪い顔をする。呆れた真紀は、次にスレイに夜に相手をしてくれと言う。黄色い悲鳴を上げるセリカと出雲、クロウとケリーまでが茶々を入れる。真紀は赤くなりセリカと出雲に刀の相手だと言い返す、スレイはどちらの相手でも構わないがと飄然としたままだ。クロウとケリーが真紀に同情する。と腹を立て真紀はスレイに仕合ってもらうと怒鳴る。軽く受けるスレイ。席に戻っていく真紀達の後ろにもう一つの夜の相手はいいのか、と惚けた様子で声を掛けるスレイに真紀は鞘に入ったままの正宗(+9)を振り下ろすも軽くスレイに受け止められる。夜覚悟しておけという真紀に、どっちの意味だ、と返すスレイに、真紀は疲れて溜息を吐き戻っていった。出雲とセリカは感心したようにスレイを見ている。2人の内心を代弁するようフルールが真紀を翻弄するなんてと言うが、慣れだの一言ですませるスレイ。そしてクロウとケリーとの会話に戻るのだった。
夕方、馬車を止め、野営の準備をする一同。そして夜、諸々一段落し、ゆったりと過ごす一同。ディザスターを枕に夜空の星を眺めるスレイの元に真紀がやってくる。夜の相手なら喜んで受けるがとからかうように告げるスレイに、是非お相手願えるかしら、コレでと刀を示し、落ち着いて返す真紀。やれやれと起き上がったスレイは強化は無しでと提案する、どうしてかと尋ねる真紀に、真剣な表情で真紀を見つめ興味がある、と告げる。思わず顔を赤く染める真紀に、異世界の刀術にな、と続けるスレイ。からかられた事に気付き怒る真紀に、謝りながらも、あんた相手だとどうしてもな、と言うスレイ。言葉の意味を読み取り、改めるつもりは無いという事かと尋ねると、ご名答と返される。頭を抑えて真紀は手合わせの相手とこれ以上からかうなと頼んできた。わかったわかった、と立ち上がりスレイは歩き出す、付いていく真紀。他全員が2人を囲み見物人と化す。そして自然体のまま立ち尽くし始めようと告げるスレイに真紀が視線を険しくするが、これが俺の臨戦体勢だと誤解を解くスレイ。そして2人の手合わせは始まった。強化無しの速度では真紀が亜光速、スレイは雷速と不利であるにも関わらず、スレイは圧倒的な“閃き”でその速度差を埋め、更に戦いの中でさえ成長していく。対等な戦い、2人で踊る刀の舞踏。真紀の頬は紅潮し瞳は潤む。スレイもまた同じであった。通じ合う2人。同じ剣士としてクロウとケリーが感嘆する。そして最後の一瞬、スレイのマーナが真紀の首筋に当てられ決着は付いた、寸止めしたとはいえマーナのオーラで真紀の首筋には僅かに傷が付く。慌てて治癒魔法で傷を塞ぐスレイ。真紀の礼に視線を逸らすスレイ。見物人達は拍手し2人を称えた。そしてそれぞれ元の位置に戻っていく2人。
ほめながらも尚精進しろと告げるディザスターに頷くスレイ。賞賛の言葉を掛けるフルールに何故こっちに居ると尋ねるも、気に入ったの一言で済まされ、溜息を吐く。
セリカと出雲の2人は今の真紀の表情を色っぽいと評するが素直に認める真紀に驚く、そして獣のような目でスレイを見つめる真紀。
夜中、ディザスターとフルールが何時の間にかテントを出て行く、そして真紀が夜這ってきた。いきなりスレイを押し倒す真紀に落ち着いて問い質すスレイ。真紀は先刻の戦いで惚れたらしいと、散々からかわれたが、本当にお相手願えないかと告げる。まるで獣だなというスレイに真紀はあっさり認め、スレイがゾクリと来るような瞳で見てくる。そこでスレイは既に開き直っているため現在の女性関係に加え、野望までをも宣言する。と、既に俺の女になった者達にも宣言しないとな、と、これから毎回宣言するの面倒臭いな、などといい加減な事を考える。と、ポカンとして面白そうに笑い出し、いいわ、そんな馬鹿げた野望本当に叶えられるか確かめて上げると言う真紀。と責められるのは主義じゃないと、逆に真紀を押し倒すスレイ。そして2人は獣の如く交わった。
早朝。初めてであっても流石は異世界の勇者、真紀はスレイの全力を受け止めてみせた。眠りは僅か。目覚めると真紀はスレイの寝顔を見ている。どうしたとぼんやり尋ねるスレイに、真紀はスレイも寝顔は可愛いものだと言う。と穏やかな空気が流れる中、テントの入り口からセリカが現れ、真紀の行方を尋ねようとして、硬直し、その後、セリカの口から迸ったのは、真紀がスレイを襲ったという叫びだった。真紀は硬直し目が点になる。外では他の者達が起き出し集まってくる音が聞こえる。間違ってないなというスレイに、間違ってるわよと裏拳を繰り出すもスレイに受け止められる真紀。旅路の2日目が始まった。
流石の手の早さに呆れる3人の男達だが、ケリーとゲッシュも複数の女が居る宣言に、サクヤ一人だけのクロウが呆れた顔で同じ穴の狢と言う。聞き流すスレイの膝の上にはディザスターが、右肩にはフルールが居る。フルールに何故そこに居ると聞くと、気に入ったと返され、気にしない事にした。視線を女性人に移すと、ただ一人マリーニアが険しい視線でスレイを睨み、サクヤは子供を見るような目だ。ユニコーンもスレイを睨んでいたが睨み返すと怯えたようにうつ伏せた。他3人は黄色い声を上げ騒いでいる。真紀を他の2人がからかって楽しんでいるようだ。と真紀とスレイの視線が合い、真紀が顔を赤くする。途端更にからかう2人。諦め溜息を吐く真紀。と、スレイは右手を前にゲッシュの前に突き出す。不思議そうなゲッシュ、と、スレイの手には何時の間にか矢が握られていた。と、痛みにスレイは手を離す。落ちた矢は鋼鉄製で放電していた。手を癒し、再び雷速で迫り来る数本の矢をクロウと共に左手のみで斬り落とす。矢が止み、声が聞こえてくる。そして現れる男とその部下達。男を見たゲッシュは雷弓のライナと呻く。元S級相当探索者で、SS級相当探索者昇格寸前に盗賊に身を落とした、5000000コメルの賞金首と言うと、スレイは破格な賞金だと感心する。それでもSS級相当探索者には放置されてたと自嘲するゲッシュ。とはいえ今の我々の前に現れたのは彼の不幸という言葉に、言ってくれると返すライナ。と、セリカが前に出て射撃勝負を持ち掛けた。魔導銃に疑問の視線を向けるライナ。とセリカが引き金を引き閃光が奔った。地に巨大なクレーターが穿たれる。呆然とするライナ達に笑い声を上げるセリカ。真紀と出雲は緊迫した表情だ。そして笑いながら魔導銃を乱射するセリカ。ライナは逃げ出し部下達は倒される。どうしたのかと尋ねるスレイに真紀はセリカはトリガー・ハッピーだと答えた。スレイには意味が良く分からない。辺り一帯を荒野に変えるまで止まらないという言葉にどうすれば止められると尋ね、ショックを与えればという答えに、スレイが進み出る。そしてセリカの胸を鷲掴みした。悲鳴を上げ屈みこむセリカ。一仕事やり終えたようなスレイ。とスレイに女性陣からの攻撃が一斉に襲い掛かった。納得いかなさげなスレイを責める男性陣と、睨む女性陣。面白くないスレイはそのまま馬車に引込もうとする、と同時に“閃き”が奔った。
セリカの猛攻から逃走に成功したライナだったが、セリカに部下達を倒されたのは予想外として、あくまで部下達は足止めの為の捨て駒で、全てはライナの罠だった。罠の只中に馬車を止める、元々あの襲撃が成功するなんて思ってはいない、なにせ刀神クロウがいるのだ。ただあの場に足を止め、しかも暫く時間を稼ぐ必要があった。なにせ己が切り札を以ってしてもクロウが相手では不足かもしれない、だから罠を発動させる準備の時間が必要だった。そしてあの場でじゃれ合っていてくれたおかげで時間も稼げ、準備はできた。手間も金も掛け、稀少なアイテムも使い捨て、部下達も捨て駒に、運の要素にも頼り、自らも危険に晒し、機を作り上げた。これもすべて探索者ギルドマスター、ゲッシュ・アルメリアを拉致する為。成功すれば全てを補って余りある。そしてライナは稀少なレアアイテムである最上級の加速薬を飲んでいた。
軽く手で制し前に出るスレイ、その一瞬後ライナが加速薬を飲み、同時にスレイと他の同様に加速できる者達が、光速の数十倍の速度域に加速し、世界から隔離される。ゲッシュ、ケリー、マリーニアの3人は通常の世界に取り残され静止したままだ。そしてライナは多次元の無数の座標に設置してあったアイテム加速薬で加速した自動弓を発動させ、自らは最速最強の一矢を放った。と、分身し、全ての矢を叩き落とすスレイ。驚愕するもライナは停滞する事無くアイテム加速薬を飛翼の首飾りに掛け、転移し逃走していた。感心するスレイに、分身を見たクロウが不機嫌そうに自分との戦いで手加減していたのか、と聞く。ただ純粋に刀術で勝ちたかっただけだと告げるスレイに、どこまで高みを望むと問うクロウ。スレイはありとあらゆる世界とその外の果てに至るまで全てを敵に回しても勝つ唯一絶対の最強、と答え周囲を唖然とさせる。と、通常の世界へ回帰し、3人が動き出す、も何が起きたか分からず呆然としている。馬車に向かうスレイに従うディザスターと右肩に止まるフルール。フルールに自分達を元の世界に戻すのはどうしたと尋ねる真紀に、その時になったらちゃんと還す、でもスレイのペットになる事にしたとフルールは告げる。流石に複雑な視線の3人。特にセリカは呆っとスレイを見ていた。
夜、夕食を終えた一同、現在スレイはセリカへの行動で男性陣に駄目出しされ拗ねていた。先程からセリカはスレイの方を見て顔を真っ赤にして視線を逸らすと繰り返している。マリーニアは女の敵を見る目を昼より強め、サクヤは何か生暖かい目をして、真紀はセリカに何か囁きつつ呆れたような感心したような目をして、出雲は表情が読めない。面白くないスレイは寝ると告げテントに入っていった。
深夜、ペット達が今日も何故か居ず、一人眠るスレイ。と気配に目を覚ますと正座したセリカが居た。何やら結婚を申し込むような台詞を告げるセリカに疑問の声を上げるセリカ。責任を取れという言葉に胸を揉んだだけなんだが、と告げると、ここで襲われたと言うと言われ、流石に先程までの周囲の反応から洒落にならないのでスレイは止める。と、昨日真紀を抱いた事を知ってるだろうが、と据え膳は歓迎なのだが、警戒と疑問が先走るスレイ。と、世界中の美女・美少女の範疇に私は入らないのか、と言われ、先程真紀が囁いていたのはこれか、と理解する。野望の規模が小さくされてるが今はそこはいい。だがそういうことならと欲情を覚えセリカを寝床に引きずり込む。そしてセリカの何時もと違うしおらしい様子にプツンと切れるスレイ。そのまま強引に肉食動物が草食動物を貪るように、セリカを貪り尽くしていくのだった。
早朝、スレイはセリカに目をやる。セリカは夜は実に従順だった。初めてながらどんな要求にも応えてくれた。そんなセリカの髪を梳き撫でる。テントの外に出るスレイ。と入り口前に真紀が立っていた。と、セリカを知らない、と尋ねてくる真紀。嗾けて何をすっ呆けてると返すスレイに、苦笑いする真紀。そしてスレイは自分の野望について熱弁する。とセリカが出てきて慌てるが、真紀は落ち着くように手を振る。と、そこにマリーニアが現れ、セリカの格好を見て叫び声を上げた。顔を覆う真紀とセリカ、とセリカは流石に格好を気にしてテントの中に戻っていく。騒ぎに他の者達も起き出し、三日目の朝が始まる。
男達の苦言を受け流すスレイ。朝食後の休息、クロウは呆れているだけだが、ケリーは特に姉に手を出されないかと心配し、ゲッシュは胃薬を飲んでいる。ペット達は特に何の文句も無い様だ。肝心の女性陣はマリーニアはやはり昨日より遥かに険しい視線でスレイを睨んでいる。サクヤはどうしようもないと呆れていた。それらの視線にも慣れた為特に何も感じない。ちなみにユニコーンは昨日の恐怖を覚えているのか始めから俯いていた。ちなみに真紀とセリカは何故かスレイの悪口で盛り上がっていた。いやどちらも恋人の筈なのだが。と、出雲がスレイをぼんやりと見ている。視線を返すとそっぽを向く出雲。そして一同は馬車に乗り、出発する。
馬車の中、スレイは何故か異世界の勇者陣に周囲を固められていた。ペット達は定位置にいるが、他の者達は距離を置いている。真紀とセリカは甘えるように擦り寄って来て、出雲は興味深げに見つめてくる。他の者達の視線が痛い。恐怖を感じなくとも居心地の悪さは針のむしろだ。野盗の襲来を期待するが、順調に旅は進み、そのまま夜になった。
夜、真紀とセリカは一緒にとまではまだ行かないのだろう、多少牽制していたので今日は来ないと思われる。だが何故かペット達は今日も居ない。暫し経ち理由が分かる、出雲が現れたのだ。自分を抱くように言う出雲に、何と言うか意味が分かってないように思えて、流石に今は止めるスレイ。が出雲はとんでもなかった、夕食に仕掛けていたという媚薬が、スレイの能力を越え効果を発揮する。いくらヴェスタ内で力が抑制されているとはいえスレイをして効果を消せない媚薬とは何なのか?疑問に思いつつも出雲の身体じゃスレイの本気に耐えられると思えないから逃げろと告げるが、魔法で肉体強化と自動回復を掛けてるから問題無いと返される。3人の中で一番トンでもないのは出雲ではなかろうかと思うのを最後、意識が消える。そして獣と少女の交わりが始まった。
早朝、スレイはテント内の惨状に唖然とする。その中で平然とする出雲に初めてで本気で自分の全力を受けきったのだと得体の知れなさすら感じながらも、寝顔は可愛いものだと思う。こんな目に合わされてそんな思考をする自分の脳に疑問を抱くも、テントから出た。と顔色の悪い真紀とセリカが居て、スレイの様子を見て納得し、心配して謝ってくる。そして魔法の解呪に出雲を借りてくというと、テントの惨状にやはり驚きながら去っていった。残されたスレイは途方にくれながら、テントを片付け始めた。
超食時、沈黙のクロウ。姉を心配するケリー、が肝心のマリーニアの瞳は絶対零度の如くだ。それを指して何を心配すると言うも、ケリーだって複数恋人が居るのに何故自分は睨まれると聞く。言葉を濁すケリー。再度尋ね、それに叫び答えようとするケリーだが、瞬間ナイフがケリーの脚の手前に突き刺さり、ケリーは顔を青くする。そして続きを語る事は無かった。胃薬を飲みリリアに詰め寄られると怖がるゲッシュ。リリアには自分から言っておくが、他の女性に手を出しても容認してくれる筈なんだがと返すスレイ。それになんとか機嫌を取ってくれと返すゲッシュ。スレイに対して寛容でも、ゲッシュにとばっちりが来る可能性が、と言うと、顔を蒼褪め震えるゲッシュ。何を思い出したか興味が湧くが、流石に気を遣い口を噤むスレイ。サクヤは生暖かい視線をスレイに向けている。出雲は真紀とセリカの説教を聞き流している。ペット達を撫でながら、やれやれとスレイは空を仰いだ。
馬車の中、恋人が複数居るのは認めてはいても、それとは別なのだろう。真紀、セリカ、出雲がスレイの隣を牽制し合っている隙に、スレイはクロウとケリーの間に座る。スレイを睨みながら3人は一緒に座った。逃げてくるのはどうなんだ?と言うケリーに、じゃあお前の恋人達で想像してみろと返す。口を噤むケリー。儂には理解できんと悠々とするクロウに、サクヤが怖いだけだろうと言うと冷汗を一筋垂らす。サクヤがニコニコと笑う。スレイには分からなかったが恐怖を誘う笑いらしくケリーとクロウは顔を蒼褪めさせていた。そしてそのまま王都に到着する。ゲッシュの顔パスでそのまま馬車は都市に入る。スレイとディザスターは感嘆した。何せスレイは田舎生まれ、ディザスターは封印されてた身、半ば見惚れる。異世界の勇者3人ももっと大きく栄えた都市は幾つも見たが、ここまで綺麗な都市は始めてだと言い。フルールでさえ久しぶりだと言う。他の者達は何度も訪れた事があるらしく反応は見せない。ゲッシュが何代っも前の暗愚な王が国財を注ぎ込んで造った芸術品と言っていい都市だと説明してくれる。スレイも本で読んで知識としては知っていたが実際に見て聞くのは感動が違う。そして暫く。王城もゲッシュの顔パスで通り、案内されるまま王城内の馬車置き場に馬車を置き、ユニコーンは世話係に任される。そのまま警備兵に付添われ王城に入り、次は侍女の案内に従う。そして広間に辿り着く。侍女は既に他の参加者は全て城に着いて客室に滞在しているので、スレイ達が着いた事を知らせればここに集まるから、お待ちくださいと言い去っていった。広間の中央には大きな円卓がある、序列の無い円卓、つまり他国の要人との会談に使われるのだろう。そこには既に先客が居た。その内の一人がクロウを見て親父と呼びいきり立ったように向かってこようとする。クロウとどこか似通った容姿になるほど鬼刃ノブツナか、と納得する。そんなノブツナを父上と呼ぶ少女が抱きつき止めている。諭され落ち着くノブツナ。クロウは呆れて全く変わっとらんのと零す。再度いきりたつもあっさり娘に止められるノブツナ。娘がクロウとサクヤに何げに容赦の無い挨拶をする。シズカと呼びトモエ殿に似て容赦が無くなったとぼやくクロウ。母に憧れてるから光栄だと、こんな父の傍に居れば容赦が無くなると告げるシズカに、落ち込むノブツナ。クロウも顔を引き攣らせる。喜び諭すサクヤに素直に頷くシズカを見て、クロウとノブツナは諦めたように項垂れた。他はすっかり取り残される。スレイがクロウに紹介を促す。席に掛け、二度手間じゃから全員集まってからで良いじゃろと言うクロウに、スレイは納得して、他の者達と共に席に掛ける。一同を興味深げに観察するノブツナ達と同席していた男女、男を見てスレイは驚く。流石に出身国の王の顔ぐらい絵で見た事はある。氷王アイス。シチリア王国は大陸で唯一ディラク島と交流ある国だから同席してたのも不思議ではない。ならばあの女が魔狼フェンリルかと得心する。と何故かフェンリルはスレイを見て笑みを浮かべる。そういえば、師経由で自分の顔が知られてる可能性があると思い至る。席に着くとすぐに侍女がティーカップに茶を注ぐ。スレイは面倒が増えなければいいがと、ティーカップを傾けるのだった。
暫し経ち、円卓は埋まった。最初に現れたのは黒髪黒瞳の壮年の威厳ある男と二人の美少女だ。一人の少女がスレイに呼びかける。真紀に知り合いかと聞かれ肯定するスレイ。闘竜皇女イリナだ、となれば男は竜皇ドラグゼス、もう一人の少女は癒しの竜皇女エリナだろう。アッシュの恋人という事でまじまじ見るが、釣り合いが取れてないと思ってしまった。イリナはスレイにつっかかってきそうだったが竜皇に止められスレイ達とは反対の席に着かされる。竜皇の配慮だろう。現に手紙についてと怒鳴ってくるイリナ。その後すぐに竜皇に拳を落とされていた。不調法ですまないと謝罪する竜皇。恨めしげな視線をスレイに向けるイリナ。アッシュに対し前途多難だが頑張れと心で無責任なエールを送る。続いて赤髪に茶瞳の壮年の明るい男と娘らしき赤髪のポニーテールと茶瞳の明るい美少女、続いて人生に疲れたような黒髪茶瞳の男が現れた。最初の男と娘はディザスターとフルールを見て目にお金のマークが見えそうな雰囲気になる。それにますます疲れたように黒髪茶瞳の男は溜息を吐く。そして三人も席に着く。次は眩い黄金の美少女と続く五人の男と暗い雰囲気の美女が現れた。黄金の美少女がまず席に着き、後に続くように席に着く一同。と僅かに黄金の美少女がスレイに視線を送ってくる。それに気付いた金髪碧眼の男がスレイに険しい視線を向ける。と何故か真紀やセリカに出雲、マリーニアまでスレイに険しい視線を向けた。謂れの無い事態に溜息を吐くスレイ。続いて蒼い美少女と付き従うように金髪縦ロールに鮮血のような瞳の美女、そして十メートル近い黒い狼と三つの角を持つ大男が続いた。その闇の波動に身構える一同。がスレイは広間が大きくて良かったな、などと呑気に考えつつ、変わらずティーカップを傾ける。そんなスレイに蒼の美少女と金髪と血の瞳の美女が面白げな視線を向ける。そのまま美少女、美女、大男は席に着き、狼はその後ろに巨体を横たえた。最後に“王”の“威”を纏った男女が現れる、金髪碧眼の男と、金髪縦ロールに赤い瞳の美女、そして六人の男女が二人に従った。“王者”の“威”を纏った美女と、従う壮年の男の一人がスレイに目配せしてくる。軽く受け流すスレイ。やはり真紀、セリカ、出雲、マリーニアがスレイに冷たい視線を向ける。動じないスレイ。席に着く一同。一人“王者”の“威”を纏った男は立ったまま全員集まったようだと告げる。そして勇者王アルスの名を名乗り会談の始まりを告げるが、一人が異議を唱えた。黄金の美少女の隣に座っていた金髪碧眼の男だ。彼は自らの主たる聖王イリュアこそこの会議の議長に相応しいと述べる。が当の聖王本人がヴァリアスと男を呼びその言葉を否定する。対を成す魔王も居るこの会議で聖王である自分が議長を務めるのは不適切だと。主の言葉に惑うヴァリアス。聖王は一国の国王であるアルスが議長を務めるのも不適切だと続けた。アルスはならば誰が適任かと尋ねる。それにこの国にありながら独立した都市、迷宮都市の探索者ギルドのギルドマスター、ゲッシュを推すと告げるイリュアに、ほうと頷くアルス。一同の視線がゲッシュに集まる。流石にこの面子の視線が集まり冷汗を流すゲッシュ。だが断れる雰囲気では無い。胃の痛みにまた胃薬が必要かと考える。アルスがゲッシュに議長を要請する。謹んで受けるゲッシュ。そしてゲッシュが会議の始まりを告げる。こうしてセレディア大陸とディラク島の最高権力者達と最強の実力者達のほぼ全員が集まった会議の幕が上がった。
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ヴェスタ世界の歪の中三位一体トリニティと享楽ロドリゲーニは会話を交わす、外の様子を語るロドリゲーニに、人の身になり入手したその特殊能力に驚くトリニティ。だがロドリゲーニはトリニティの三者が混ざった話し方に文句を付ける、ともあれ封印解除までまだ時間が掛かるという言葉に、職業:勇者への復讐を夢見つつ眠りの中に居ようと意識を閉ざすトリニティ。そしてロドリゲーニは封印解除に励むのだった。
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