特集ワイド:「嘉田新党」を考える
毎日新聞 2012年12月03日 東京夕刊
私が呼びかけ人の一人をしている「さようなら原発1000万人アクション」には脱原発を求める約820万人の署名が集まっている。人々の間で「総選挙で投票する先がない」という絶望感や浮遊感が深まっていたが、「未来」の誕生を受けて、「ようやく一票で意思表示できる」と喜ぶファクスやメールが私の元にたくさん届いている。
シングルイシューでの結党が批判されているが、原発事故が起きれば経済、雇用、教育、社会保障などあらゆる分野に影響が及ぶ。また、「脱原発」を訴える人々は「原発ゼロ」を実現すると同時に、これまで原発を維持してきた社会の「原発的体質」、つまり安全神話を垂れ流した原子力ムラの体質や、自分たちの生き方を変えようとしている。「脱原発」は社会構造を変える試みであり、決してシングルイシューではない。
もっとも「卒原発」だけでまとまった「大同小異」であってはいけないだろう。集団的自衛権や憲法問題、沖縄の基地問題などもすべて人の命の問題で、小さい問題ではない。原発以外の政策も話し合い、しっかりした政策を示してほしい。
数字だけを見れば民主は「2030年代まで」、「未来」は「2022年まで」に原発ゼロ。しかし両党の違いは数字だけではない。長く環境問題に関わり、「脱原発」を訴えてきた嘉田さんだから伝わってくる本気度が違う。
有権者にできるのは「民意はここにあり」と一票で表すことだ。小沢一郎さんの影響を案じる声は確かに強い。今回の結党には改めて「剛腕だなあ」と思った。ただ、小沢さんが「脱原発」を掲げる以上、私は彼らも「脱原発」を求める人々だと受け止めたい。つかの間のエンターテインメントのように選挙を消費するのではなく、選挙後も監視が必要だ。「脱原発」がスローガンに終わったら、次の一票でまた答えを示せばいい。
◇原発対応の違い浮き彫り−−反貧困ネットワーク事務局長・湯浅誠さん(43)
これまで大事な局面で団結するのが右派、分裂するのが左派だった。段階的に全原発の廃炉を目指す「卒原発」を掲げ大同団結し、大きな受け皿をつくろうと新しいモードを打ち出したことを評価したい。嘉田さんはよく決断したと思う。