特集ワイド:いかがなものか 「原発」争点にならない自民党総裁選
毎日新聞 2012年09月24日 東京夕刊
何だろう、この違和感は。自民党総裁選。領土問題などで勇ましき言葉が飛び交う一方、原発となると「ゼロは無責任」「時間をかけて議論を」などと口をそろえ、盛り上がらない。安全性も除染問題も何一つ解決していない今、「次の首相」候補に口角泡を飛ばす論戦を期待して、なぜいけないのか。【大槻英二、小国綾子、江畑佳明】
◇福島からあまりに遠い−−作家・僧侶、玄侑宗久さん
5人の候補者は皆、原発問題を積極的に口にするのを避けているように見えます。争点にしたくないかのようです。自民党の方が民主党より現実感覚が鋭いからでしょう。「原発ゼロ」の実現は簡単なことではありません。原発依存社会をつくった元政権政党として、自民党はそれをよく分かっているのでしょう。
原発事故のあった福島から見ると、今度の自民党総裁選はあまりに遠い。第一、ほとんどの候補者は福島に足を運んでこなかった。民主党の閣僚は、少なくとも、福島を何度か訪れることで原発事故がどういう事態を招いたのかを理解し、その実感を福島の人々と共有しようとした。自民党にはそれもない。だから、総裁選でも取り上げられないのだと思います。
「原発ゼロ」は、根源にあった地方の過疎化や、核廃棄物処分の問題に真剣に向き合う中で実現されるべきだと思います。原発所在地と郵便番号との関係を知っていますか。全国54基のうち39基の所在地の郵便番号は「9」か「0」から始まる。つまり「1」で始まるこの国の中心・東京から最も遠い場所に、ほとんどの原発がある。原発を地方に押しつけたこの国の構造そのものに由来する根深い問題です。その点で、自民党総裁選の5人の候補の誰が選ばれても変わらない気がします。
一方の民主党は「2030年代に原発稼働ゼロ」の閣議決定を朝令暮改で見送った。方丈記の「古きは廃れ、新しきは成らず」という言葉のようです。「古き」は民主党、「新しき」は自民党。ゼロを口にはするが言葉があまりに軽い民主党と、そもそも言葉にしない自民党。これでは脱原発は「成らず」です。
「(事故が)もう一発来ないと、この国は分からないのか」という思いです。
◇「ゼロ」の民意、見ていない−−科学史家・吉岡斉さん
総裁選の候補全員が「原発ゼロ」に否定的というのは非常に残念な状況だ。口々に「今それを言うのは無責任」と主張しているが、そういう発言自体、圧倒的に多くの人々の民意を無視したものの言い方だ。他候補との差別化を図れば票に結びつくと思うのだが、なぜ「脱原発」の推進を政治的キャンペーンに利用する候補が現れないのだろうか。