名門リンクで待ち受けた、スケーティングだけの毎日。
海外に行くなら、場所はトロントに決めていた。リンク環境やライバルの情報を以前から入手していたし、何よりオーサーという名コーチの存在が大きかった。コーチの依頼をすると、オーサーはまず、羽生のライバルであるフェルナンデスに相談した。すると、彼も二つ返事で大歓迎。すぐに移籍が決まった。
オーサーがメインコーチを務めるリンク『クリケットクラブ』は、複数のコーチによるチーム制が特徴だ。スケーティングの達人トレイシー・ウィルソン、振付師として世界中からオファーが後を絶たないデイビッド・ウィルソン、その他スピン、ジャンプ、バレエなど、さまざまなコーチが、オーサーを頂点とする1つのチームを結成している。しかもカナダ随一の名門クラブで、古き良き優雅なフィギュアスケートの空気感が漂うのも、日本のクラブにはない魅力である。
今年5月、「早く4回転サルコウを教えてくれ」とばかりに意気込んで門をくぐった羽生だったが、最初に与えられた試練は、スケーティングだけの毎日だった。
「仙台だと毎日約1時間しかリンクの貸切がなく、ジャンプ練習が優先だったので、基礎スケーティングの練習が不足していました。それが弱点という自覚は実はあったんです」
基礎練習でのつたない動きも、羽生は「嬉しかった」と振り返る。
このクラブの名物とも言えるのが、練習の最後に全員で行なう基礎スケーティングだ。同じステップをジュニアからシニアのトップまで10~20人の選手が一緒に踏む。すると、世界選手権銅メダリストともあろう羽生が、誰よりもつたない動きを見せていた。
「もうね、嬉しかったですよ」
羽生はちょっと興奮気味に振り返る。
「『自分ってこんなに出来ないんだ!』って。自分の弱さが見えたので、これを直せば根本的にスケートが変わって、もっと納得いく演技が出来るんだ、新たなステージに上がれるんだ、って思ったんです」
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