衆院選 どうなる電気の行方 原発でもいい…北海道、酷寒で停電の危機
昭和58年の中曽根内閣解散以来、29年ぶりに12月に実施される衆院選は4日、公示される。候補者は何を訴え、有権者はどう受け止め、判断するか。師走の選挙区を歩いた。
■酷寒で停電 危機現実味
「この村にあれがなかったら経済は大変だ。生活が成り立たなくなる」
日本海に突き出た北海道の積丹(しゃこたん)半島の付け根、泊(とまり)村のカブト岬。凍(い)てつく風が吹きすさぶ中、防寒着に身を包み、ホッケを釣っていた工藤昭さん(77)が海岸線の先に目をやった。
荒波が打ち寄せる海岸線の先に見えた丸いドーム形の建物。周りはうっすらと雪化粧している。5月から稼働が止まったままの北海道電力泊原発だ。
平成元年に泊原発1号機が稼働し、過疎の村は一変した。村の財政も潤った。牧野浩臣(ひろおみ)村長(66)は「原発の固定資産税や交付金収入で公共施設も整備でき、村の借金も半分以下に圧縮できた」と振り返る。
原発が地元にもたらす経済効果も大きかった。原発関連の雇用は村内で約80人、周辺3町村で500人を超える。原発関係者が利用する民宿や商店、飲食店など関連産業も繁盛した。
だが今年5月、3号機が定期検査に入り、原発の稼働が全て止まると、村は活気を失った。民宿兼食堂を営む渋田真澄さん(53)は「原発を再稼働してもらわないと困る。今は生殺しの状態だ」と嘆く。
◆原発でもいい…
北海道唯一の泊原発に全体の4割の電力を頼ってきた道内の電力不足は深刻だ。先月末には登別市や室蘭市などで一時5万戸以上に及ぶ大規模停電が襲った。暴風雪による鉄塔の倒壊が原因だったが、電力不足の先にある「危機」の姿が現実味を帯びた。
「車のヘッドライトを店内に向けて、懐中電灯と携帯電話のライトを頼りに営業を続けた」。最大約3万戸が停電した室蘭市のコンビニエンスストアの店長、武田真紀さん(41)は電気のない生活がいかに不便か痛感したという。店には長蛇の列ができ、おにぎりや弁当、電池はすぐに売り切れた。
タクシー運転手、小泉純一さん(64)は「電気のありがたさ、東日本大震災の被災者のつらさが分かった。原発でもいいから動かしてくれと思った」と話す。
停電が4日間も続いた登別市内はもっと深刻だ。
温泉街の公民館に避難していた田口幸子(さちこ)さん(75)は「これほどつらいとは…」。登別厚生年金病院の高田弘樹庶務課長(46)は「発電機がいつオーバーヒートするか不安でならなかった」と話した。
◆具体的議論せず
冬場に需要のピークを迎える道内で、北電は10日から平日に平成22年度比7%以上の節電要請に踏み切る。「火力発電が一基でも止まると厳しい状態」(北電)が続いているためだ。
電力不足は北海道の基幹産業である観光にも暗い影を落とす。「規模の縮小はしたくない。祭りの魅力は下げたくない」。200万人の観光客が訪れるさっぽろ雪まつり。実行委員会の関係者はこう打ち明ける。
雪像のライトアップをはじめ、冷蔵庫や冷凍庫が設置される売店の電力使用量は多く、「節電要請に応えるために何ができるか悩ましい」(関係者)という。
原発がある泊村を選挙区に含む北海道4区の立候補予定者4人はいずれも「脱原発」の立場だ。うち3人は党の方針通りの主張だが、原発維持の可能性を残している自民党の立候補予定者でさえ、条件付きで「将来の原発廃止」に踏み込んでいる。
「脱原発」や「卒原発」が声高に叫ばれる選挙戦の様相に政治評論家の屋山太郎氏(80)は「福島第1原発事故の影響を考えれば、脱(卒)原発を政策に掲げるのは理解できるが、大衆に迎合し、冷静かつ具体的な議論が行われていない」と話す。
エネルギー自給率がわずか4%のわが国が原発を捨て去った後、脆弱(ぜいじゃく)なエネルギー構造しか残っていない状況に陥ることだけは避けなければならない。
【用語解説】北海道電力泊原発
平成元年6月に1号機(出力57・9万キロワット)が営業運転を開始。3年4月に2号機(同)、21年12月に3号機(91・2万キロワット)が稼働した。合計出力は207万キロワット。海岸にせり出した崖を切り崩して建設したため、泊村内からは原発全体を見渡すことができない。3号機が今年5月に定期検査入りし、国内で稼働中の商用原発が42年ぶりに一時ゼロになった。
■担当記者の目 「廃止時期」争点化に違和感
東京電力福島第1原発事故の後、警戒区域に入り、“無人地帯”と化した町を目にしたときの衝撃は忘れられない。故郷に帰りたくても帰れない人は少なくない。事故の爪痕は大きく、「脱原発」や「卒原発」が衆院選の争点の一つになるのも当然だと思う。
ただ、北海道4区では原発の「是非」ではなく、すでに「廃止時期」が争点になりつつあることに違和感を覚えた。候補予定者や陣営関係者から「原発がなくても電力は足りる」「原発を止めてからエネルギーを代替していけばいい」という声も聞いた。
急な解散だったとはいえ、エネルギー政策の議論を経ずに、原発をなくすことだけが「至上命令」になっているように映った。酷寒の中での停電を目の当たりにすると、代替エネルギーも含めたわかりやすい政策の提示が不可欠だと感じた。(大竹直樹)
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