「オリーブオイル〜食品業界の光と影」

ニセ物が横行するオリーブオイルビジネスの実態(その1)

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2012年12月4日(火)

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最新調査で3分の1の製品に偽装表示

 皆さんは、世界一のオリーブオイル生産国はどこだとお考えだろうか。イタリアと答えた方は残念ながら不正解だ。答えはスペインで、世界のオリーブオイルの輸出市場において約51%をスペイン産オイルが占めている。イタリアは第2位(22.4%)で、第3位はギリシャ(6.3%)と続く。スペインは紛れもないオリーブオイル生産のリーダー国である。そのスペインで先月、ある消費者団体が市場に出回っているオリーブオイル製品を調査したところ、実に3分の1の製品がラベルに虚偽の品質表記をしていたことが判明した。つまり、エキストラバージンと表記していながら、中身はエキストラバージンの基準に満たないオイルが入っていたのだ。

 スペインで生産されるオリーブオイルのうち、「エキストラバージン」の等級に当たるオイルは全体の20%程度にすぎない。生産されるオイルのほとんどは、精製して臭みや雑味などを取り除かないと食用に適さない低いグレードのオリーブオイルだ。

 前述したように、オリーブオイルを精製した場合、「エキストラバージン」と表記することは国際規格で禁止されている。販売するには「精製オリーブオイル」あるいは「ピュアオリーブオイル」として表記すべきなのだが、「エキストラバージン」と表記されて流通しているスペイン産のオリーブオイルのほうがはるかに多い。

 つまり、どこかで、スペイン産の大量の精製オリーブオイルが「エキストラバージン」オリーブオイルに、不正にすり替えられているのである。

 いったいこれだけ品質管理や消費者保護の行政が進んでいる現代にあって、果たしてそうしたことが本当に可能なのだろうか? 

形骸化する「エキストラバージン」の品質規格

 スペイン政府は2012年11月13日、突如として向こう6カ月にわたってスペイン産のオリーブオイルの品質とトレイサビリティーのチェックを強化する、と発表した。この査察プログラムは、オリーブオイルの搾油工場、ボトル詰め工場、精製工場、配送倉庫などすべての生産・流通段階を対象として来年の5月までの半年間、無作為に抽出して実施する、とされている。

 オリーブオイルの品質を「見える化」して、主要な消費国への販売量を拡大したいというのがスペイン政府の狙いであるが、裏を返せば、品質表記の「まやかし」が横行しており、それを防ぐには政府の強力な規制が必要であることを、今回の発表は如実に表しているといえる。

 本来、オリーブオイルの品質規格は、国連貿易開発会議(UNCTAD)により1959年に設立された国際オリーブ協会(本部:スペイン・マドリッド)が制定し、厳格に運用されることになっていた。国際オリーブ協会にはオリーブオイル生産地の主要国がすべて加盟し、オイルの世界統一基準を定め、加盟国が自国で批准して順守することで、消費者にもメリットになる、という流れになるはずだった。

 ところが、事はなかなか期待通りには進まなかった。第2次世界大戦の戦場となったヨーロッパでは、復興のために農業振興の旗が振られ、オリーブ栽培の振興のため生産農家やオイル製造・販売事業者に多額の補助金がばらまかれた。そんな中、オリーブオイルのプロモーション活動の中心にあった国際オリーブ協会も、残念ながらオリーブ産業の成長が最優先課題となり、オイルの等級区分の徹底や消費者保護は二の次になってしまった。

 それどころか、補助金の給付や取得を巡って同協会は汚職にまみれ、2003年以降、国際オリーブ協会の予算は大幅に削減された。その結果、オリーブオイルの品質規格を浸透させ、加盟国に徹底させるといった本来の機能は果たされずにいる。国際オリーブ協会の定める品質規格とそのチェック機能は形骸化してしまっている、というのが実情だ。


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多田俊哉(ただ・としや)

多田俊哉

日本オリーブオイルソムリエ協会代表理事
国際基督教大学教養学部卒業。モルガン銀行、JPモルガン証券、大手食品商社を経て、大前研一氏主宰の大前・ビジネス・ディベロップメンツ設立に伴い執行役員として経営参画。現在、イデアファクトリー代表取締役。2009年日本オリーブオイルソムリエ協会を設立。オリーブオイルビジネスの不正を暴いた『エキストラバージンの嘘と真実』で解説を執筆。(写真:坂井 瑞)

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