452 名前:おさかなくわえた名無しさん[] 投稿日:02/05/06 22:58 ID:nQT0eBiA
中学生の頃、母が病気で入院する事になって、冬休み中だった私が
家事を引き受けることになった。
慣れない事で失敗ばかりだった私を見ても、父は怒らず、
「出来る事だけのんびりやっといてくれたらいいから。」と笑っていた。


家事にも慣れて来た頃、私は父が店屋物や出来あいの惣菜などが嫌いなことを
思い出し、「お弁当、作ってみようかな」と思いついた。
手際が悪いから、朝5時から作っても、父の出勤時間にようやく間に合うような有様だったので、
当然見た目も、母の作ったものには到底及ばず、味も自信なし・・・。
でも父は、「今日の弁当うまかった、明日も頼むな。」と言ってくれていた。
(食事の時間、苦痛だったろうな・・・と思う・・・。)

そんなある日、父が忘れた設計図を届けに行く事になって、会社につくと、
ちょうどお昼時で、事務員さんに断って、設計部の部屋に行くと、
中から父や会社の人たちの会話や笑い声がしていた。
中に入ろうとノックしようとした時、父の同僚の人がこう言った。
「最近、なんだかお弁当がいつもと違うようですけど、奥さんと喧嘩でもしたんか?」と。

父は「これは、娘が作ってくれたんだ。」と答えた。(母が入院している事は、
会社の人には言っていなかったらしい。気を使われるのが嫌だったらしい。)
私は凄く恥ずかしくて、泣きたくなった。
私のせいで、お父さんが恥をかいたんだと思った。
その場を離れ、事務所に戻り、事務員さんに設計図を父に渡してくれるように頼み、家に帰った。


455 名前:452[] 投稿日:02/05/06 23:08 ID:nQT0eBiA
父は「これは、娘が作ってくれたんだ。」と答えた。(母が入院している事は、
>>453
ありがとう。でも、もう少し続きます(汗

その日の夜、帰ってきた父はいつものように空になったお弁当箱を私に渡し、
そして、その後で、ケーキの入った箱を差し出した。
「ご飯の後で一緒に食べような。」と言いながら。
辛党で、甘いものなんてめったに食べない父なのに。
箱を開けてみると、中にはショートケーキ、チーズケーキ、チョコレートケーキ、シュークリームなどなど・・・10個も入っていた。
「何でこんなにいっぱい買ってきたの?」と聞くと、
「お前の好きなケーキ分からなかったから、店の人に適当に詰め合わせてもらったんだ。」と。

ご飯の後、二人でケーキを食べていると、父が言った。
「・・・明日もお弁当頼むな。」
父は事務員さんから私が設計図を預けていった事を聞いて、私がお昼の時の話を聞いていたことを察したのだ。
その後食べたケーキの味は覚えていない。
泣きながら食べたので、喉につかえるような感じがしたのは覚えているが。

父は私が高校を卒業した年に、病気で亡くなった。
今でもケーキを見ると、父のことを思いだす。
そして、今、旦那にお弁当を作っている時にも、よく父のことを思い出す。
不器用だったけれど、誰よりも優しかった父のことを。

父が死んだ時、形見分けに、衣類やタイピンなどと一緒に、その時のお弁当箱を貰った。
暇な時に時々取り出して眺めている。

・・・長々と書き連ねてごめんなさい。

不器用に生きた男 わが父若山富三郎